化け猫(と触手人間と怪しいフード仮面の)ワルツ #02

───ハンプティ。

恐るべき男である。

稀に見る健啖家である彼は、普通の料理では満足できずに、とうとう人を喰らうようになったという。

彼の食事方法はこうだ。

相手の身体をぎ取り、調味料をかけ、そしてそれを喰らう。

味付けをわざわざしているのが、実に気味の悪いことこの上ない。

その食欲は留まることを知らず、既に3桁を越す人数を、その胃のに収めてしまったという。


「───暫くは静観してたんだけどさ

最近のハンプティはちょっと調子に乗りすぎ

1日に多い時で20人も食べ散らかしてるんだよ

信じられる?

だから一応警告はしたけど、正直言葉伝わってるかワカンナイ」

ダガメズが片目を吊り上げる。

か?」

「まー、だね」

「上等

ガイキチ野郎の顔に唾吐きかけるのダイスキ」

『して、ずはその狂人の監視か』

魔剣は相変わらず剣を握りしめたままである。

仮面のモニタは紫色の色彩を表示している。

「うん、どうせまた同じことやるだろうけど

もしかしたら警告に従ってもう人食べるのやめるかもしれないし」

「潜入、監視なら俺の十八番おはこだな」

「発見されても怪しまれないからね」

「この身体唯一の利点ってね」

「毛皮を触ると癒されるという利点もあるよ」

「俺にとっての利点じゃねぇんだよなぁ

それ」

『潜入調査とはいえ、十中八九戦闘になるのだろう?

闘いに有用な物をいくつか持ってきた

付いて来い』

魔剣は立ち上がると、部屋の出口に向かった。

ミュハンとダガメズは顔を見合わせる。

部屋の外には、箱が置いてあった。

一辺1m半を超す程度の正方形の木箱である。

魔剣が蓋を無造作に開けると、中には大量の武器が入っていた。

大小様々な剣である。

銃も何丁か入っているようだ。

『"ワイルド・フォックス"の武器庫を破壊した時に、何本か適当にくすねてきた』

「これ全部魔法武器?

私の触手うでで使えるのあるかな」

ダガメズは木箱に前脚を掛けて覗き込んだ。

「"ワイルド・フォックス"の面々は今頃大慌てだろうな」

『───すまないが、其方に使えそうな物は持ってきていない』

ダガメズは笑った。

「そうでもないさ」

突然、木箱から2振りの短剣が浮かび上がった。

ゆっくりと回転しながら空中に舞うその剣は、その身を黒色に侵食されながら消滅していった。

「貰っておくぜ

あんがとな」

『例には及ばん』

「─────おっ」

ミュハンが何か見つけたようだ。

「なにこれ!

ガントレットと剣が合体したみたい!

ほら、手がってはまる!」

『"パタ"か

扱いが難しい武器だ

ワイルド・フォックスのメンバーで使っている者はいなかった』

「え、じゃあこの子ずっと倉庫の肥やしだったの?

可哀想に、私が使ってあげよう」

『───扱いが難しいと我は言ったぞ』

「いいもん、私これ使うー」

『─────別に止めはしないが

まぁ、其方の腕なら手首を痛めるといったような事はおきないだろう』

「いえーい」

ミュハンは子供のようにはしゃいでいる。

「所でこれ、鞘がないけど、どうやって魔法使うの?」

『籠手の中にスイッチとかないか?』

「ん━━━?

あ、これか」

パタが突然、を放った。

ダガメズ達を熱波が襲う。

「あッッッつ!!

やめろよおまえ!」

「あ、ごめん」

ミュハンは慌てて魔法を止めた。

光は止んだ。

「毛が焦げるかと思ったぞ!」

「いやーははは、ごめんごめん」

ダガメズは溜息を吐いた。

「全く勘弁してくれよ」

『ミュハン、いつ出発する』

「アイツの晩飯時

だいたい7時くらいかな」

「今2時半だから、まだまだだな

───ん?あいつっておやつとか食べないの?」

「おやつ?」

「3時のおやつだよ

食いしん坊なんだろ?食べないのか」

「───食べる」

「じゃあ、ハンプティはまたぞろ獲物おやつを探してる頃合いじゃないか?」

「そ、それもそうだね

よし、今すぐ出発しよー」

言うが早いか、ミュハンは駆け出した。

「あ、待てえ!

抜け駆けはズルいぞ!」

魔剣が2人の後ろ姿を見る。

『───相変わらずそそかしいな

ミュハンは』

そう呟いた魔剣は、2人の後を追った。


その日、ハンプティは不機嫌だった。

無論、絶えず色彩が移動する、奇妙な頭髪を持った女「ミュハン」が原因だ。

地面に落ちたハンプティは、ビル内に散乱した死体食料を3体程持って、通りを闊歩かっぽしていた。

相変わらず、目は血走ったままだ。

通りすがる人々は皆、彼を見ると逃げ出した。

既に、この一帯にハンプティの悪行が知れ渡っているのだ。

ハンプティが歩いていると、前方から1人の女が歩いてきた。

ミュハン以上に奇妙な女だった。

背中に生えた巨大な蝶のような羽が原因だ。

ホワイトブロンドのウェーブがかかった髪や、先端の尖った耳等も相まって、かなり神秘的な印象を受ける。

一方で、近づいて見てみるとその目付きは鋭く、彼女の不良振りが見て取れた。

女はハンプティに気づくと、彼の前に立ち塞がった。

死体を持った巨漢に対して、恐怖を感じている様子はない。

「あんた!このガキ知らないかい?」

写真を突き付ける。

緑色の肌をした男の写真だ。

「ゴリブってんだ

こいつを探してんだ

心当たりないかい?」

「ア━━━〜〜━━ぁ」

「いや、アーじゃなくて」

ハンプティの口から、唾液が垂れてきた。

溢れ出てきたと言った方が正しいか、その量は常人のソレを逸脱している。

「あ、あんた

大丈夫?

ミントでもキメたのかい?」

「アアアアァアア」

卵男が舌舐めずりをする。

獲物が決まったのだ。

「キアアァアアアオォッッ」

男は突然、奇声を上げながら、持っていた死体を女に振り下ろした。

「おっと!」

女は余裕を持って身をかわした

虚しく空を切った死体は、地面に当たって砕け散った。

「聞く耳無しかい?

それとも言葉わかんない?」

女は羽ばたいた。

身体が浮かび上がる。

「あんたに聞いたあたいがバカだったよ」

ハンプティが更なる攻撃を行うも、それもかわされ、逆に顔面に強烈なカウンターを食らってしまった。

ハンプティは地面に転げてのたうち回った。

痛みが引いて起き上がった時には、女の姿は影も形もなくなっていた。




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