第二十三話 決意

 フィルメルス城、地下避難所



(外ではフィルメルスさんや兵士さん達が命を懸けて戦っている。私はここに居るだけでいいのかな……)


アンテは戦闘が開始されてから住民の避難を手伝い、その後は住民や一部の兵士と共に地下の避難所に来ていた。

住民は急な襲撃にも慌てることなく兵達の誘導におとなしく従い避難自体は簡単に終わった。

避難所の雰囲気も明るく、皆が協力的で何一つ不自由もなく嫌な感じもない。

フィルメルスの普段からの備え、信頼感が住民を安心させているのだろう。

ただ一人、アンテだけが落ち着かずにいる。


(私は何がしたいんだろう?守るべきものを失って空っぽ?本当に?ううん、違う)


「私は……」



アクティニディア、最終防衛ライン



フィルメルスと兵達の戦いは続いている。

なだれる様に城へと攻め込む魔族達は防衛部隊が確実に処理していき、確実に数は減っていた。

変わりがないのは城から百メートルくらい離れた先にいる鉄の巨人。

巨体とは思えない速度で大剣を振り回し兵達は近づけずにいた。


(剣を振る速度が変わらないですわね、この巨人には疲れというものが存在しない?)


フィルメルスがそう思った瞬間、どこからか声がした。


「あー、疲れ待ちなんてしても無駄ですよぉ。ちなみにこれは魔術ゴーレムでして、動力は魔力、その魔力の元を絶たない限り永遠に動き続けますねぇ」


その声の主は魔術ゴーレムの肩の上に姿を現す。

表情一つ変えずフィルメルスがそのスケルトンを見上げる。


「わざわざ教えてくれて感謝しますわ。とんでもない兵器を送り込んできてくれましたわね」


「お礼はこの国の人間の命でいいですよ」


そのスケルトンは姿を消す。

嫌な予感がしたフィルメルスは後方に下がり今まさに真後ろから首を裂かれようとしていた兵士に割って入り振り降ろされた鎌を斧で受け止める。


「あなた自身も魔法?とやら持ちのようですわね。瞬間移動するなんて驚きましたわ」


「さすがはアクティニディアの女王、噂通りの強さですねぇ。これほどの強さとカリスマ性、いやぁ、こんな人物が死んだらここに居る皆さんはどんな反応を見せてくれるんでしょうかねぇ……」


魔術ゴーレムが城に向かって動き出す。

フィルメルスがスケルトンと交戦中の為、兵士達がその動きを止めようと全方位から攻撃を仕掛ける。

しかし兵達の剣や槍は魔術ゴーレムの装甲に当たるも全てが弾かれ逆に武器が折れる。

それを横目で確認したフィルメルスは声をあげる。


「全軍撤退! 協力して避難所へと後退するのですわ!」


兵達がどよめく。

フィルメルスはスケルトンを押しのけるよう斧を振るい、再び声をあげる。


「聞こえませんでしたの? 少し遅れたら総崩れですわよ!?」


兵達はフィルメルスの目からして本気だと察し、背後の魔術ゴーレムを警戒しつつ後退する。

それを追うこともなくただ見つめていたスケルトンが不思議そうに、どこか面白そうに口を開く。


「あれあれ? いいんですかぁ? まさか一人で勝てるとでも思ってるんですか?」


「当たり前ですわ。兵を退かせたのは被害を少なくする為にすぎませんの」


「ふふ、ふふふ、愚かですねぇ。いいでしょう。魔族の王ゴール様の側近レウメスが貴女の首を刈り取ってあげましょう」


レウメスはそう言い終わると自身の分身を二体作り出す。


「一人でどこまで抗えますかねぇ。早く泣き叫び命乞いをする様子が見たいものです」


「そっくりそのまま返してあげますわ」


三体になったレウメスにも動じることなく両手に斧を構えるフィルメルス。


(厄介なのは魔術ゴーレムとやらが城に近付いていることですわ。この骨をとっとと倒してゴーレムを分解しなければ、ですわね)


焦ってはいけないと分かっているが、魔術ゴーレムが城に近付いて来るのをただ見ている訳にもいかないフィルメルスはレウメスの分身ではなく本体に接近しようと地を蹴る。

その時フィルメルスの視界に一本の槍が飛んでくるのが見えた。

兵士が利用している一般的な槍が高速で向かってくる。

その槍はレウメス本体を守るように分身が庇い地面に落ちる。


「これはこれは、不意打ちとは」


一体の分身が影となり消え、その先にはアンテが自身の槍を持ち立っていた。


「フィルメルスさん、この骨は私に任せて下さい、です」


相手はあのゴールの側近、一人で任せるには危険、一瞬迷ったフィルメルスだったが、アンテのその目を見て決断する。


「今は迷いはなさそうですわね。それじゃあこの骨は任せましたわよ!」


フィルメルスはアンテ、レウメスに背を向け魔術ゴーレムの方へと向かう。

わざとらしくため息を吐くような仕草を見せるレウメス。


「やれやれ、子供のする事は予測不能で困りますねぇ。君は確か……ああそうです、今は亡き中立国の!」


アンテは槍を構えたまま黙っている。


「いやぁ、あれは残念でしたねぇ。ゴール様が直々に向かわなければもう少し生き残りが出たかもしれないのに。あぁ可哀想な」


煽るように笑うレウメス。

しかしアンテは表情一つ変えずに立ったまま。

それを見てレウメスはつまらなそうに鎌を持ち直す。


「せっかく盛り上げようとしているのに反応なしとは、つまらないですねぇ。まあいいです、死んでもらいますよ。中立国、最後の生き残り」


初めに分身がアンテに向かって鎌を振る。

それを小さなステップで躱しアンテはレウメス本体の攻撃に備える。

だが本体は最初の位置から一歩も動いていなかった。

嫌な予感がしたアンテは急いで城壁の方へと動き、背を城壁に向ける。

するとアンテが元居た場所の後ろにはもう一体の分身が現れていた。


「お、バレちゃいましたか!」


「色々喋ってくれるおかげで何を考えそうか読みやすくて助かります、です」


(でもこのままじゃいつまで経っても攻められない、どうにかして分身を作り出す余裕をなくさないと……)


アンテはレウメスより後方のフィルメルスの方へと視線を向ける。

そこでは巨体に似合わない速度で大剣の薙ぎ払いを繰り出す魔術ゴーレムと素早く動きそれを回避するフィルメルスの姿が見えた。



魔術ゴーレムの装甲はフィルメルスの素早さと力強さを兼ね備えた一撃でも傷一つ付いていなかった。

大剣による攻撃を回避し、わずかな隙をつき斧で反撃するも効いていない。

攻撃を回避している間にフィルメルスは自身に異変を感じていた。


(何だかふらつきますわね……)


フィルメルスの額からは血が流れている。

城を守る際に吹き飛ばされた時の怪我、治療する暇もないままこれだけ動いていれば出血が酷くなるのも当然だ。

それでもフィルメルスは考える。


(燃料切れが存在しない以上このまま避け続ければ先に倒れるのはわたくしの方)


「少々危険ですけど、やるしかないですわね……!」


フィルメルスは高く跳躍し魔術ゴーレムの振るう右からの剣撃に対して自身も右に回り込む。

そして迫る大剣に片足を乗せ、弾かれるように魔術ゴーレムへと接近する。

反動を活かし、魔術ゴーレムの左腕関節部分を狙った一撃はその左腕を斬り落とした。

その後フィルメルスは通常ではあり得ない速度ながらも綺麗に着地する。


魔術ゴーレムの左腕を落とした際に持ち手から粉々に粉砕された斧を捨て、足元に落ちていた魔族の使っていた少し大きめの剣を拾い、構える。


「さあ、解体ショーの始まりですわ」

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