第十三話 復讐の終わり

 中立国デトタフデア、王城。


 王城には二つの影があった。

 一つは剣を地面に突き立て膝を付きながらも、もう一つの影を見上げる男性。

 もう一つはそれを見下す大型のゴブリン。

 男性を見下す大型のゴブリン、魔族の王ゴールが口を開く。

「人間、にしては驚くくらい強かったな」

「俺がいなければ、王城が落とせなかったくらいにな……」


 全身血だらけでいつ倒れてもおかしくないような様子の男性が答える。

「人間、等と言っているといずれ足元をすくわれるぞ」


 見下すゴールは余裕そうだ。

 傷一つなく、体力的にも余りがあるようだ。

「そうだな、貴様が何人も居たら今の状況はひっくり返るかもな」

「ではな、強き人間、終わりにしよう」


 丸い形状の不思議な形をした斧のような物が振り下ろされる。

 だがそれが目の前の男性に振り下ろされることはなかった。

 振り下ろされるはずだった斧はゴールの背中を守るように担がれた。

 弾かれたもの、それは一本の弓矢だった。


「ゴール、その顔……間違いない、あの時の奴だ」

「国王様!」

 弓を構えたミルマとアンテが国王の居る反対方向から現れる。

 国王はその様子を見て声を出そうとするが最早そんな余裕もなくついに地面に倒れる。

 それを見たアンテは一瞬駆け寄ろうとするが、目の前のゴールを見てそれを止める。

 飛び出せば死ぬと理解したのだろう。


 国王が倒れたのを見てゴールはようやく後ろに振りかえる。

「なんだ、まだ人間の生き残りがいたのか」

「見ての通り国王は死に、王城は落ちたも同然だ」

「久々に強い奴と戦えて満足しているからな、今なら見逃してやる、おとなしく帰るんだな」


 今まで、ただゴールを見つめていたミルマが剣を取る。

 そしてその剣を向ける。

「見逃す……?」

「私はあなたを見逃さないよ」

 ミルマの瞳は真っすぐにゴールに向けられる。

 それを受けたゴールは興味深そうに問いかける。


「なんだお前は? 初対面……じゃないようだな。だが、悪いが俺は覚えてないな」

 分かっていた、このゴブリンが潰した村や町を一つ一つ覚えているはずがないと。

 それでもミルマは続ける。


「ロフィアって村を知ってる? そこはね、小さいけど村人全員が仲良くて綺麗な木々に囲まれたいい村だったの。でもね、マルスプミラの王都で人間と魔族の争いがあった数日後、襲撃されたの。急な襲撃に村は戸惑い、兵士なんていない村は木々が焼かれ一瞬で壊滅した。そこに居たゴブリンはこう言ったの」

「村人一人逃がすな、全員殺せ、って」

「その通りになった。大人は子供を庇い逃がそうと必死だった、でも大人は大きな丸い形をした斧を持ったゴブリンに一瞬で殺されて、子供達も全員殺されたの、一人を除いてね」


 黙って聞いていたゴールがついに口を開く。

「なるほどな、その生き残りがお前と言うわけか。それで? 目的はその時の復讐か」


 今まで我慢してきた感情が溢れ出す。

 魔族を殲滅する、という目標もあるもののその中でこの魔族は、このゴブリンだけは自分の手で殺してやりたいという気持ちが。

「その通り、あの時の事を後悔させて、痛めつけて、苦しませて、殺してあげるね」


 アンテは口を挟めなかった。

 何故なら横にいるミルマの雰囲気が先程までとは違い、強い憎しみがこもった怖い雰囲気だったからだ。

 視線はミルマと国王を行ったり来たりだ。

 ゴールは答える。

 だが、その言葉が耳に入るより先にミルマは斬りかかっていた。

 最早話す事などないと言うように。

 ゴールは大きな丸形の斧でミルマの剣を受け止めつつ言う。


「同じだ」

 剣を振り攻撃しつつミルマは反応する。

「何が?」

 その剣撃を斧で受け止めつつゴールは続ける。

「俺を殺すということは今度はお前が恨まれる番だ」

「復讐に終わりなんてない。逆に俺がお前を殺せば今度はお前の復讐に誰かがやってくるのさ」


 動きが止まる。

 真っ先に浮かんだのはクローゼの顔。

 クローゼなら自分が死のうものなら確実に仇を取りに行くだろう。

 同時に復讐を、自分の生きる意味を否定するような言葉が刺さる。

 その隙をゴールは見逃してくれなかった。

 横に振られた斧はミルマの剣を弾き、さらにミルマ自身も吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。


「ッ! かは……!」

 ミルマの頭からは血が流れ、口からも血を吐いている。

 それでも剣を取りに行こうとするミルマを見てアンテがゴールの気を引こうと動き、槍で攻撃を繰り出す。

 だがそれも斧で簡単に受け止められ、その斧はビクともしない。

 その間に再び剣を手にしたミルマが言う。


「終わりはある、あなただけじゃない、魔族を全てこの世から駆除すれば!」

 血を流し血を吐きながらも斬りかかる。

 攻撃を続けるアンテの槍を斧で弾き、斧をミルマの方へと振り下ろす。

 その一撃は地面を割り、大きな衝撃を与える。

 しかし、ミルマはゴールの背後にいた。


「さようなら」

 ミルマの剣はゴールの首に刺さる……はずだった。

 剣が首に当たる寸前で何か壁のようなものに当たり、剣が弾かれる。

 ゴールは笑う。


「愚かだな、復讐に囚われ何も見えていない、人間は味方か? 人間は信じられるのか? 中々いい動きをする、冷静であればもう少し楽しめたかもしれないが……。まあいい。この世界、力が全てだ、弱かったお前が、村人が悪い、そして今お前が殺されるのも弱いお前がいけない。失せるがいい」

 斧を振り下ろそうとするゴール。

 確かに首に刺したつもりだったのに自身の後方に弾かれている剣、言われている事に理解が追いついていないミルマはその場から動けないでいる。


「ミルマさん!!」

 アンテがミルマを突き飛ばすように飛ぶ。

 強く振り下ろされた斧は直接誰かに当たる訳ではなかったが、大きな衝撃派を発生させる。

 大きな爆発のような音。

 その衝撃波で王城は半壊し、ミルマとアンテも吹き飛ばされる。

  二人は起き上がることはなく、地を赤く染める。

  それを確認することもなく去るゴール。

  王城に立つ者は誰も居なくなった。


 それこそがクローゼの聞いた爆発音のような音の正体であった……。

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