第11話 白い光

「っ!」


ベッドの上で飛び起きると、すぐに明るい陽射しに顔をしかめる。身体に違和感を感じ、見ると、べたつく汗がシーツを肌に張り付かせていた。


シーツ?そんな上質なものが彼女のベッドにあるはずがなかった。それに、日差しなんてものが彼女の部屋に差し込むわけがなかった。


辺りを見回して紅は気づいた。ここか誰の部屋で、なぜ自分がここにいるのか。


「・・・くそっ」


思い出しそうになった忌々しい映像を振り払うように悪態をつく。


服が見当たらないので仕方なくシーツを身体に巻いてベッドから降りる。出口とは別の扉を開けると、その先はバスルームになっており、ご丁寧にも畳まれた状態の自分の服があった。


(シャワーを浴びろってか)


看守長の思惑通りに動くのは癪に障った。が、こんな不快な匂いが身体についたままで一日を過ごすのはもっと嫌だ。


せめてもの抵抗として、湯と洗剤を思い切り多量に使ってやることを思いついた紅は、少し満足げにシーツを放り投げた。


―――


「蒼、今日はめっさ遅かってんな」


食堂に着くなり、独特の喋り方で話しかけてきたのは蒼と仲の良い銀だった。


「てっきり、今日は休みなんやと思っとった」


小柄な紅よりも一回り小さい彼は、よく喋る。そして、あまり空気は読めない。


「看守長さんも今日くらい堪忍したればええのに」


(なんでヤツの名前が出てくんだよ・・・!)


いま最も聞きたくない人物の名に、紅は歪みそうになった顔を必死に抑える。蒼はそんな顔をしない。


「銀、看守長サマから何か聞いてるの?」


普段通りの蒼の声で聞く。忌々しい単語を口にする際に少しアクセントがおかしくなった気がするが、頑張った方だと思ってほしい。


「んー、そないに大したことは言うてへんけど・・・」


銀のおっとりした喋り方は、いつもなら場を和ませる効果があるのだが、今は違う。今すぐ胸倉を掴んで聞き出したいのを抑えているところに、「ううむー」とマイペースに考え事をされるのはもはや嫌がらせだった。


「あ、せや!蒼はわいのやからな!みたいなこと言うとったんやった」


言い終えるとほぼ同時に、我慢しきれなくなった紅の拳が銀の顔にめり込むこととなる。


身構えてもいなかった銀が無残な姿で医務室へ搬送されるまでに十分もかからなかったという。

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紅ノ戦士 かなかな @canacana

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