第3話 暴かれたアカとアオ

謝ると決めたものの、当の看守長サマは何やら書き物に忙しいらしく、顔を上げる気配がない。


それなら呼ぶなよ。心の中で暴言を吐くが、今は蒼だ。にっこりした表情の片隅にも紅が出ないように、細心の注意を払う。


―何分たっただろうか。


サラサラと音を立てて動いていた看守長の手が、唐突に止まった。


俯き、その表情を紅が読めないまま、彼は口を開いた。


「蒼には双子の妹がいるらしいな」


言い終えて顔を上げた看守長の緑は、意地の悪い笑みをうっすら浮かべていた。


少年のような、それでいて作り物のように奇麗な顔に、好奇心の色のともった瞳。


そこに映っていたのは、蒼ではなく紅だった。


紅の耳に彼の言葉が届いてから、理解をするまでに数秒のラグがあった。


あわてて蒼の仮面をかぶりなおし、平静を取り繕う。


「なんのことでしょう?」


心臓が早鐘を打っていること以外は、彼女は完ぺきに蒼だった。


裸を見られでもしない限り、他人に見分けられるはずがなかった。


「紅、お前のことだな」


ドクンと大きく心臓が跳ねて、一瞬で背中に冷や汗が噴き出る。


全身にまとっていた蒼が、空気にとけるように消えていく気がした。


「何のことですか」


かろうじて絞り出した声は、震えていたかもしれない。


だが、平静を装うのに必死の紅には、もうそんなことを気にする余裕もなかった。

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