第6話 先に待つものは
重いからだを引きずって家へ帰った。だって夏乃子が待ってるじゃん。
「ただいま。」
ごめん、力になれなかったよ。
悲しんで、怒って、憎んだけれど、世界は一ミリも変わらない。
あいつらがいなくなれば夏乃子は外に出られるかも知れないの。
一緒にどこかへ行って、一緒に笑って、ただそれだけでいい。それ以上のことは求めない。
私はそんなに贅沢なお願いをしているのだろうか。
ずっとそばで笑っていて欲しいと思うのは私のエゴでしかないの。
復讐は復讐しか生まない。
あいつらなんかと同レベルになりたくなければ、同じような過ちはしないこと。
わかっていても
私はそんなできた人間じゃないんだってば。
どっかで吐き出さなくちゃやってられない。
だから逃げるの。夜な夜なパソコンに向かってあいつらの殺害計画を書きこんだ。
もちろん本気でやるわけじゃない。
顔の見えない世界中の人たちがこれを見て馬鹿げてるって笑い飛ばしてくれればそれでいいんだ。
それから、1カ月、2か月がすぎてもまだ彼女は笑わないままだった。
季節はめぐり、じめじめとした梅雨前線が日本を包もうとしている。
そんなうっそうとしたある朝のことだ。
「ねぇ、どうしよう。」
「なにが?」
いつにもましてうつろな表情で
「今月もないの。先月はたまたまかなって思って、気にしないようにしてたんだけど、今月もまだなの、女の子の日が。どうしよう。私、どうしたらいいの?」
そんなこと言われても
なにができるの
なんて返事をしたらいいの
「落ちついて、泣かないで。まだ決まってないよ。病院行こう?」
「いや、無理だよ。まだ、怖いもん。外に行くの怖いもん。」
「じゃあ、検査薬買ってきてあげるから。」
「わかった。」
彼女の背中をさすってなだめた。
柔らかい髪を撫でて抱きしめる。
肩を抱き寄せるとバクバクと乱れた心音がだんだん落ちついてきたのが分かった。
「今すぐ。」
「うん?」
「今すぐ行ってきて。早く知りたいの。お願い。」
「わかった。ちょっと待っててね。」
「ごめんね。ありがとう。」
財布と携帯だけを持って家を飛び出した。
早く行って早く帰ってあげたい。
久しぶりに”したいこと”言ってくれたんだもん。
この機会を逃せない。
二人で、前向いて、したいことも、やりたいことも、まだまだいっぱいあるじゃん。
よし、ここから。
月夜の下へ全力で飛びだした。
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