アイスフォール

野分 十二

Soon

君は僕を忘れてくれるだろうか。

そう言いながら、金色の瞳を僕に向けるディエゴの姿が胸に焼き付いて離れない。

彼の瞳はいつも夕陽のように煌々と輝きを放ち、その光を目にした者の心を奪う。

姿は陽に透けるような儚さで美しく、少女よりも清らかな声は、神をも魅了したに違いない。

花に触れて指に刺った小さな棘が、日に何度も痛むように、鋭利な印象が心のどこかに刺さって、幾度も彼を思い出させる。

ディエゴ=セス・オーウェンは、そうして人の記憶に住み着く。

他の誰とも違う、特別な男の子。

事実、彼は僕らの中の誰よりも特別な存在だった。

あの日、僕はきっと君を忘れようと約束した。

指切りを交わした僕達はまだ、14歳だった。

諸手を振って風と遊び、瞬く星に賞賛の歌を奏で、朝陽を抱きとめるように暖かい日々を暮らしていた。

青空に漂う雲のように清廉で、この世界の誰よりも自由だった。

生涯セピアに染める事が出来ないほどに色彩に溢れた思い出は、常に彼と共にあった。

僕がその手紙を受け取り、彼の美しい筆致を確認した時、あの美しい約束は永劫に果たせなくなってしまったのだと理解した。

僕は手紙を鞄に仕舞い込み、慌てて壁に掛けたコートを身に付けると、重たい玄関扉を開けて彼の元へと急いだ。

外はしんと冷え切って、積もった雪の白だけが幻のように明るかった。

音の無い夜が明けて、じきに朝が来る。

僕は、彼を救い出さねばならなかった。

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