第5話 また会う日まで死なないで

「ああ、おはよう。」僕はそう返した。君が僕にあいさつするなんて珍しいね、そう言おうとして、嫌味になるかもと思いやめた。彼は葦田あしだ 冥人めいとだ。男子にもかわいいと評判の男子で、勉強はできるし、運動もできて、話し方もかわいくて、負けず嫌いだ。天は何物与えるのかと空を見上げて言いたくなるぐらいだ。

 高校になって新しいクラスになり、もちろんほかの中学校から来ている人も多い中で輝いて見えたのは彼だけだった。無論、塔堂くんは僕と同じ中学校だったが。最初はあまりしゃべらず、同じクラスになりたてのクラスメイトな感じだったのだが、段々と仲良くなっていったというものだ。まあ、僕は彼のことを葦田くんと呼び、彼は私のことを山代くんと呼ぶのだが。

「山代くん、今日、英単語の小テストある?」

「あるよ。monitorからangelまでかな。」

「えー。もう諦めよう。」

「そんなこと言って満点取るんでしょ。」

「無理だよ。」

「またまた。」こんなことを言って三階の教室まで階段を上る。結局、教室に着いたらバラバラになって大した会話はしないのだが。補足するとこのあと1時間目のテストで彼が満点をとったのは言うまでもない。

 図書室へ向かう。いつも行かない上に校舎の作りが迷宮じみていて、迷うことは必須だが葦田くんがいれば大丈夫だ。こんなところも彼は完璧なのか。一学期期末考査が終わり、部活も休みの今日は図書室を訪れるのにはうってつけだ。

『永遠の愛と終らない恋』。この強烈な題名と看板倒れしない内容で一躍ヒットとなったこの本は、烏目鳥目―塔堂 雫の著作である。

「その本、話題だね。確かに面白かったよ。」葦田くんが言う。手に取ってはいなかったもののじっと見ていたのがばれたのだろうか。

「その作者、16歳だって。ちょうど今は夏休みを使って取材も兼ねて海外旅行だって。」司書の森田さんが言う。うん、彼だもん、16歳だよね、そりゃ。

「え~。すごいね。」葦田くんが言う。なんで知ってるんですかと畳みかける。

「ツイッターがあるらしいよ、私は見てないけど。」へぇ~と相槌を打っている。そっか、塔堂くんの高校は私立で夏休みが早いらしい。終わるのも早いと彼が嘆いていたが。

 その後はのんびりと本を読んだ。葦田くんの向かいに座って。

 面白い小説は家でと思い数冊借りて家に帰ることにした。葦田くんはもう少しいるらしい。バイバイと残して、校門に向かう。

 重い荷物に限界を感じ、太陽にもうちょっと手加減してもよくないか、そう思っていると、駅の近くに来た。そういや、ハブとなる駅に近いのも生徒数が多い原因らしい。まあ、それは塔堂くんの高校も同じだろうが。確か、朝、彼を見たのはこの辺だった気がする。もしかすると、彼は旅の最中だったのかもしれない。だとしたら、今日が出発だったのだろう。

 ツイッターはあまり見ないが掲示板でやり取りはできる。そう思い、朝と同じ場所で液晶を見る。

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