長いキスの後は……


「ただいま」


「お帰りい~~」

 家に着くと天音が玄関先で出迎えてくれた。ああ、幸せだな、家に帰って好きな人に出迎えて貰えるって……改めて幸せを噛み締める。嫌だ……天音とのこの幸せを僕は失いたくない。


「ん?」

 天音が私を見て首を傾げる、ああ、可愛いな……僕の天音。


「ううん、なんでもないよ、今着替えてくるから」


「うん! リビングにいるね」


「はーーい」


 僕は自室に着替えに行く……制服を脱ぎ、制服に着替える為に……

 僕の部屋には天音の制服が常に置いてある、天音の前の中学の時の制服だ。


 制服を脱ぎ、下着も脱ぐ、そして鏡で自分の姿を見る……華奢な身体……でも骨格は男だ。

 温泉で見た天音の姿、痩せぎみの身体で胸も小さかったが、ウエストはくびれ、小さなお尻だけど骨盤は大きい、当たり前だがどこから見ても女の子の身体だった、綺麗な身体だった。


「まあそりゃそうだよな……」

 僕は男なんだ……いくら顔は女の子でも脱げば男、骨格も完全に……

 それを奇跡だ、なんだと言われても……


 自分の姿を見るのは好きではなかった……でも今は出来るだけ見るようにしている。

 天音の前では女の子にならなければならない。


 裸の僕はまず秘密の下着に着替える。 どんな下着かは秘密だ、例えアニメ化になってもだ……アニメってなんだ? まあいいや……そして次に白いスクールブラウスを着る。

 身長が低く華奢な僕は天音とサイズがほぼ同じ……もう高校生これ以上大きくならないんだろうな……そしてチェックのスカートを履く。ウエストは若干キツイがギリギリ履ける。

 そしてイートンジャケットを羽織り、最後にスカートと同じ柄のリボンを付ける。

 姿見で確認……うん、ちゃんと女の子に見える。


 家ではウィッグは付けないけど、綺麗に髪をとかし、天音に買って貰った向日葵のヘアアクセサリーを付ける。

 

 軽くファンデーションを塗り口紅の代わりにリップを塗る。


 もう一度姿見で確認、よしどこから見ても女子だ。

 可愛い女子……自分で見てもそう思う。


 私のできうる限りの女子化、そしてこれ以上は……これ以上の事をしたら……もう戻れなくなる気までしている。

 

 私は一通り鏡を見てチェックをし、そのままリビングに向かう。

 もう慣れた物である、今はこれが日常……父さんはどうだか知らないが義母さんは私のこの姿を知っている……特に何も言わない……むしろ喜ばれる。本当親子だよな、あの二人は……


 リビングの扉を開けると天音がソファーに座って待っていた。


「朋ちゃん~~~」

 天音が私を見て手を振る、いつもの姿だ。私も手を振り返しながら部屋に入る。

「ああ、やっぱり似合うなそのヘアアクセ、買って良かった~~朋ちゃん可愛いいいい!」


「うん、ありがと……きゃ!」

 天音の隣に座った瞬間天音が抱きついて来る、私は思わず悲鳴を上げた。


「とーーーもーーーちゃーーーーーん」


「ちょっと天音、だ、駄目だよ、ほらコーヒーこぼれちゃう」

 テーブルの上にはいつもの様にお菓子とコーヒー、ファッション雑誌や旅行雑誌なんかが並べられている。


「えーーーだってえ朋ちゃん可愛いくてつい、ねえ……朋ちゃん……ちゅーーしてえ」


「え、えええええ」


「朋ちゃんと、ちゅーーしたいいい」


「……いいけど……」

 私は天音にチュッと軽くキスをする。


「えーーーー違うううう」


「な、なんで?」

 したじゃん、ちゃんとしたよ!


「もっと長くううううう」


「えーーーー」


「なんで、えーーーーなのぉ!」


「いや……だってええ」

 恥ずかしいし、それに……理性が……


「あーーーーそうなんだあ、朋ちゃん私の事愛してないんだああ」


「そ、そんな事!」


「じゃあ……して、ちゃんとして! ちゅーーして!」


「うん……」

 私は天音の顔に両手を添えキスを……!!


「むう!!」

 キスをした瞬間天音が私の首に抱きつく!!

 ちょっ! 天音が抱きつきながらキスを、は、離れられない、ちょっ駄目……

 長い長いキス、駄目、息が……鼻で、いや、鼻息が、音が……で、出来ない、鼻息聞かれたら恥ずかしい、で、でも……ああ、なんか……星が……あ、あれは死んだお婆ちゃん?……ああ、私がこの姿で死んだら父さん……なんて…………言う……かな~~………………


「ぷはあああ」

 天音がようやく私から唇を離すと深呼吸をする……


「朋ちゃん?」


「…………」


「た、大変! 人口呼吸しなくちゃ!」


 遠くからそんな声が聞こえる。ああ……またも長いキス……あ、これは人口呼吸か……あ、お婆ちゃんが遠ざかって行く、またねお婆ちゃん。


「ぷはああああ」


「朋ちゃん! 良かった!」


「……天音……勘弁してください……」

 目の前には死んだお婆ちゃんではなく天音が……


「ごめん、つい」

 自分の頭を小突きながら、てへぺろをする天音……いや、ついで殺されかけたんだけど……

 

 鼻息を聞かれたくないと思ったら、意識が遠くなってしまった……


「それにしても……どうしたの?」

 いつにも増して凄い勢いだ、愛情表現にしてはハード過ぎる。

 別れが近づいてるカップルのような……


「あのね……朋ちゃん……今日誰と会ってたの?」


「え?」


「あの人なんでしょ? 日下部さん……」


「え! し、知ってたの?」


「ううん、でも……なんとなく、朋ちゃん帰って来た時何か悩んでる顔してたから」


「そう……そうか……うん……実は」

 私は天音に隠し事をしたくない、でも天音に心配も掛けたくなかった。


 しかし、やはりわかっちゃうんだな……私と天音は心で繋がっている……何か悩んでいれば直ぐに分かってしまう、でもそれは嬉しい事でもあった。


 そして分かってしまった以上隠しては置けない。私は覚悟決めて、今起きている全ての事を天音に話した。

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