私は渡ヶ瀬君が好き

 

「縁はどう思ってるんだ? 今の僕を、彼女の出来た僕を」

 そう、聞くと縁は真っ直ぐ真剣に僕の目を見ながら答えた。


「私は……渡ヶ瀬君の事……友逹だと思ってる、大事な大事な友達だよ」


「縁……」


「渡ヶ瀬君には間違って欲しくない……幸せになって欲しい、だから……今は応援したいって気持ちかな?」


「そ、そうか」

 僕はホッとした、少なくとも縁は僕と天音の事を悪くは思っていない事に。

 縁にはいつも助けられていた、クラスで孤立しないように、さりげなく、さりげなくフォローしてくれていた、ずっと前から……中学の時から。

 でもそんな僕を見て縁は、安堵していた僕に対して恐ろしい事を言った。


「でもね……渡ヶ瀬君が間違っている事をしてたら、道を外している事をしてたら私は怒るよ、それが原因で渡ヶ瀬君に嫌われても、私はそれを止めさせる……渡ヶ瀬君、今している恋は間違ってない?」


「ええええ! な、なんでそんな事」

 安堵した所でまたもや不安になる事を言ってくる縁、本当に昔から捉えどころのない言動をしてくるんだけど……間違った事なんて……


「私は渡ヶ瀬君をずっと見てきたからね、中学からずっと……今の渡ヶ瀬君はおかしい、あんなに女の子って言われるのを毛嫌いしていたのに、今のその変わりようはちょっと私腑に落ちないの。普通男の子が恋をしたら、誰かと付き合ったら男っぽくなるんじゃない?」


「いや、男が男っぽくなるってそんなの当たり前……」


「うん、そうだね当たり前だよね、でも今の渡ヶ瀬君は全く逆、どんどん女の子っぽくなっている。ううん、もう女の子としか思えない」


「そんな事……」


「優しくなる事は凄くいい、女の子の気持ちを考えてくれる男の子ってあんまりいないの、みんな自分の事ばっかり……自分の欲ばかり……」

 凄く寂しげな表情になる縁、いつも明るい縁が、そんな寂しげな顔をする縁を僕は初めて見た。


「縁? 何かあったの?」


「え? ああ、別に……だから渡ヶ瀬君正直に言って、今の恋は間違ってない? その変貌振りは単に優しくなっただけ?」


「そ、そうかなぁ、僕は別に変わってないと思うんだけど」


「どう考えても変わってるよ。私今男友達と思ってないもん、ね? 朋ちゃん」


「だ、だ、誰が朋ちゃんだ!」

 いきなり天音と同じ呼び方をされて僕は慌てた。その名前で呼んで良いのは天音だけだ!


「うーーーん、その怒り方も可愛い過ぎるな~~本当に男の子なの? そう言えば中学の時一度もプールで見なかったよね」


「1年の時は怪我して入れなかったし、2年の時は僕風邪が長引いて、しかも冷夏で殆んどプールの授業が無くて、3年の時はプールが改修工事だったからだろ」

 あと嫌なんだよ、皆僕をジロジロ見て、中には冗談か本気か分からないような触り方してくる奴もいて。


「じゃあ、今度一緒に行こう、天音ちゃんと一緒に」


「もう冬だよ……」


「じゃあ温泉なんてどう? 皆で裸の付き合いなんて良いんじゃない?」


「だーーーかーーーらーーー僕は男だって!」


「あはははははははは」


「全く……」


「ねえ渡ヶ瀬君……」


「なんだよ」

 怒鳴ったお陰で喉が、僕は一気にアイスコーヒーを飲む。


「私ね、渡ヶ瀬君の事、好きよ」


「げふうう!」


「あーー汚いなーーもう女の子でしょ?」


「げほ、げっほ、僕は……げほ、男だ!」


「ハイハイ、渡ヶ瀬君が本当に女の子だったら良かったのにね」

 縁はテーブルを拭きながら微妙な笑顔でそう言った。え? どういう事なの? って言うかその前のって……


「いや、そうじゃ、げほ、無くて、えほ、今のって」


「ん?」


「いや……あの……好き、とかって……」


「うん、好きよ」


「……それは男として? 女の子として?」


「どっちがいい?」


「どっちと言われても」

 一体縁はなにが言いたいんだ? 中学の時からこうだ……何か感情を表に出さないと言うか、隠してると言うか、その癖人の心を、思いをズバリと突いてくる。

 本当……頼りになるけど、油断出来ない。


「友達としてよ、あははは、焦った?」


「そりゃ……」


「まあ、こんなので焦ってたら今後大変よ~~明日から覚悟しておきなよね」

 縁はコーヒーを飲み干し俺を見て笑う、でもその笑顔がどことなく寂しげに見えた。


 縁と別れ家路に着く、結局縁は何を言いたかったのか、僕と天音についてもあれ以上は聞いて来なかったし。

 でも、勘のいい縁の事だ、僕が天音と普通の付き合い方をしていないって薄々感づいている気がする。


 だからって僕の口からは言えない、天音の事も女装の事も、何も言えない。

 まだ縁が僕にとって、僕達にとって敵なのか味方なのか分からないから。


 でも……どうしよう……今の話しを天音に言った方が良いのか? しかしそんな事を言ったらまた天音が動揺する……天音に心配をかけたくない。


 天音にはこれ以上負担をかけたくない。天音はまだ中学生なんだ、まだ傷も癒えてないんだ。守らなければいけない、だって僕は天音の兄だから、僕は天音の恋人なんだから。



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