第28話「尾びれから見えた魚の正体は?(大物の予感ですね)」

 投げ込んだ数秒後、ポチャンと音が響く。

 由紀はゆっくりとリールを巻きながら、目を瞑る。指先でワームの動きを感じながら、ちょんちょんとアクションを加える。

 ゆっくりと巻きながらもちょんちょんと……、海から黄色いワームを巻き上げた。

 由紀は無言のまま、そのまま投げ込む。ちらりと悠の方を見るがニコニコ笑顔のまま巻いているのが見えた。


 空の雲がゆっくりと進む。首を天に上げながら、由紀はため息を漏らす。

「……やっぱり釣れないわ。あたりがないわ~」


 感覚的に30分ぐらい経ったと思う。やはりもう陸周辺には居ないのだろうか?

「こっちはあたりはあるよ。もしかして重りかも……、うう、ゆ、由紀ちゃんきたよ!これ!」


 悠の竿がグググと曲がる。悠はリールと竿ロットをギュッと思いっきり握ると、竿を上にあげた。

 竿先が大きくしなる。大物の気配がビンビンだ。

「由紀ちゃん、重い……、これもしかしたら尺ぐらいあるかも」

 悠が歯を食いしばりながら、竿先に目線を向ける。

 由紀は近くに置いてあった自分の網を手に持つと、

「悠、頑張って!見えてきたら取ってあげるから」

「うん……ありがとう。頑張るよ」


 悠は竿を上げて、糸が緩んできたらリールを思いっきり回す。

 少し冷たい風が背筋をぞくりとさせる。そんな中、悠は一滴の汗を額から落とす。

 由紀は悠の歯を食いしばった姿に、次第に無言になっていく。


「ゆ、由紀ちゃん!きた、尾びれが出てきたよ」

 悠がリールを巻き上げるうちに、次第に尾びれが出てきて、いつものあの魚の姿が見えた。

 その姿は、口と目が大きく、黒い線模様がいくつもある魚だった。


「「メバルだぁぁぁあああああああ」」

 二人は同時に声を上げた。


 メバルの姿を見た由紀が、右手に持っていた網で、悠の釣り上げたメバルをすくい上げた。

「ふぅー。ありがとう、由紀ちゃん。久々の疲れたぁ〜」

 ペタンと悠が地面に腰を下ろした。由紀は悠が釣り上げたメバルについている針を除けると地面に釣り上げたメバルを置いた。


 そして腰にぶら下げてあるメジャーを取り出すと、メバルのサイズを測った。

「うーん。29センチかな。惜しいね、もう少しで尺だったのに」

 由紀は測ったサイズを悠に告げると、悠は顔を上にあげた。瞳には三日月、数ある内のいくつかの星が映っているのだろうか。


「あーーー。29センチか。あんだけ頑張ったのにな~。だけど結構生きのいいメバルだったからなかなか楽しかったよ」

 悠は顔をメバルの方向に向けると、魚も「おう!お互いにな」と言うかのように体を動かし跳ねた。


「悠、どうする?持って帰るの?袋ならあるけど」

「うーん。持って帰っても料理はパパが……、お父さんが作ってくれてるし」

 由紀と悠が「うーん」と悩みながら、ふと悠が口を開ける。

「ゆんちゃんにあげたらどうかしら。ゆんちゃんならば喜んで食べるかも」

 由紀は左手を横に軽く揺らしながら、

「いやー。ご飯食べに行ってるからね。いらないでしょう……。一応聞いてみる?」

「ふふ、そうだね。ゆんちゃんにメールしてみるよ。もしいらないって言うんだったら責任持って私が料理して食べるよ」

 悠の言葉に由紀はコクリと頷くと、メバルの口を手で持つと、コンビニの袋に入れた。

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