第27話「海水の温度が上がってきました(釣れると良いですね)」

 夕焼けが落ち、周りも暗く、ちらっと星空が見えてきた時間帯にもうすでになっていた。

 少しばかり肌寒く、若干ながら暖かいコートが欲しいところである。

「由紀ちゃん!待った?ごめんね。遅くなっちゃって」

 悠が時間通りに竿と道具を持って、待ち合わせ場所に来た。


 由紀は言うと、余裕の笑みを浮かべ、

「良いよ。誘ったのは私なんだし、それじゃ行こっか」

「……なんだか、今日はドヤ顔が強いね。あ、そうか私よりも早く来てたから」

「ちちち、違うわい」

 由紀は肩を震わせ、動揺しながら、棒読みで言った。



 由紀は肩に掛けていた竿ケースを地面に下ろして、竿を取り出した。

 いつもの通りピンクのワームをつけていく。

 悠は意外にも手際も良くて、さすがは釣り屋の娘と言ったところだろう。

「悠の竿ってメーカー物なの?」

「そうだね。釣り屋の娘だからねってパ……、お父さんが「良い物持たなくてなにが釣具店の娘だ!」って言うもんだから」


 由紀はまじまじと悠の竿を見る。悠は恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、

「恥ずかしいよ〜、由紀ちゃん」

「もう少し見せてよ。そんな顔してたらもっと見たくなるよ」

 由紀は竿先を撫でるように触る。由紀は触ったと同時に悠の顔をチラリと見た。

「なにこれ柔らかい。こんなの感度抜群じゃん」

「ふふん、良い竿だからね。手に伝わる感度は分かりやすいね。全身にビビビって伝わるよ」

 悠は顔を赤らめても、ちょっぴり嬉しそうだった。


 二人は竿のセットが終わると海にワームを投げ込んだ。

 今回はテトラがある場所を過ぎ、赤灯台付近まで来た。今日は珍しいことに人が居ないみたいだ。

「今日はラッキーだね。普通はこの時間には人居るんだけどね」

 由紀は竿を巻きながら、悠に喋りかける。

「そうなんだ。集まるのも分かる気がするよ。この場所は良いところだね。テトラの周りにも魚は居そうだし、色んなところに可能性を感じるよ」

 由紀はゆっくりと糸を巻く作業を続ける。悠は竿を下に向けながら、由紀同様にゆっくりとリールを巻く。

「どう?由紀ちゃん、当たりあった?」

「うーん。今の所無いかも。もしかしたらもうすでに温度が高いのかな?」

「んー。重り変えてみるよ。もう少し重くして下層を狙ってみる」

「了解!それじゃ私は黄色で狙ってみるわ」

 由紀はリールを巻いたら、糸を垂らし、黄色いワームに変更する。

 悠は早々とジグヘッドの重りを1.0gから2.0gに変更する。

 二人とも準備を終えると悠が由紀に向かって、ニッと笑みを浮かべる。


「さて、由紀ちゃん!どっちが先に釣るか勝負だよ。負けないんだから」

「ふふん、望むところだよ。悠。返り討ちにしてあげるわ」

 由紀、悠の二人は同時に竿を振り上げると、ワームを海に投げ込んだ。

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