第33話 廃教会裏 上

 ほぼほぼ二週間ぶりに『剣魔物語Ⅱ』へログインする。

 時間は普段よりもやや遅い。

 夕飯後、僕と同じく期末試験を首尾よく終えた律と話していたのだ。余程、遊びに出かけるのが嬉しいらしい。

 ただまぁこの暑さ。長い行列に並ぶのも……と思ったので、行先は近くのアウトレットに変更してもらった。荷物持ちは甘受。可愛い妹だもの。

 さて、久方ぶりだ。

 えーっと……この前は、アポピスを倒したけどホームに戻る気力もなく、古都カランオストで落ちて――チャット。


『こんばんは、ナオさん。早速ですが、今から3分以内に廃教会裏へ出頭してください。罪状は――分かってますね?』

『分かりません。分かりませんが、間違いなく僕は無実だと思います』

『では、欠席裁判とします。罪はより重くなりますので、そのつもりで』

『急いで向かいます、サー』

『よろしい。では、カウントをスタートします』


 いきなり、暴虐極まる詩人様から出頭命令。

 しかも廃教会って……3分じゃ辿り着けないと思う……。

 いやまぁ、とにかく向かうとしよう。

 あれで、怒らすと怖いのだ。……パーティ戦闘中に、わざとモンスターをひっかけてナオを殺そうとするし。でも、他のパーティメンバーには決して被害を出さないあたり性格がねじ曲がっている。天使様なのに。

 溜め息をつきながら、ナオを移動させていると、色々な人からチャットが入ってくる。だいたいが、この前のアポピス戦参加メンバーだ。中には外人さんもいる。どうやら、称賛をされているらしい。何で僕??

 必殺の【私は英語が分かりません】を駆使しつつ、先を急ぐ。


『な~お~。何時、何時、試験結果出るんだよ!!!』 

『……倉、常識で考えろ。今日、終わったばかりだぞ? 一週間後だろ。あ、あとお前、またSNSに写真上げたなっ! 止めろって何回言えば』

『いいだろ~。可愛いお姉さんに年下の男の子が照れながら、勉強を教わる図。萌えるだろ?』

『…………もう、一緒にお茶しない』 

『!?』

『では、私と。こんばんは、ナオさん。試験大丈夫でしたか?』


 突然、さつきさんからチャット。

 どうやら、同じ部屋でプレイしているらしい。仲良しだなぁ。


『こんばんは。さつきさんのお陰でよく出来たとは思います。勝てるかは分かりませんが』

『そうですか。良かった。では近々、甘い物を食べに行きましょうね』

『はい、是非』


 和む。さつきさんは、本当にいい人だ。

 どうして倉と友人なのか――携帯に着信。スピーカーにする。


「直さん、酷いっ! さつきもっ! 直さんは私が予約してるって何度言えば分かるのっ!」

「あら? 言ってましたっけ? 直さん?」

「いいえ。僕は知りませんね」

「……二人共ぉ?」

「まぁでも、助かった。ありがとうございました」

「…………ふぇ」 


 倉が変な声を発した。

 何だよ。僕だってお礼くらいは言うんだぞ?

 くすくす、と笑い声。


「直さん、ダメですよ? 年上をそんな風に撃墜しちゃ」

「は、はぁ」

「では、切りますね。そろそろ、撫子達も戻って来てしまうので。あの子、私と透子が試験勉強教えたって聞いて、ちょっと怒ってるんです」

「あ~何か、習い事とかの都合が合わなかったって言われてましたね。分かりました。またです」

「はい♪」

「ち、ちょっと待」


 電話が切れる。倉が叫んでいた気もするが、気のせいだろう、うん。

 今回の期末試験、僕は過去最高に頑張った。というか、倉とさつきさんが容赦なかった。

 ついつい忘れがちになるがこの二人、御嬢様学校に通う現役の女子高生+「試験勉強?? 授業を受けてれば特段には」と、のたもう秀才なのだ。えーっと……確か、偏差値73だっけか。

 なので、賭けることが決まった後の一週間、放課後は延々と近くの喫茶店で講義。 

 

 ……悔しいことに、倉の説明は分かりやすかった。


 わざわざ、伊達眼鏡をかけタイトスカートを履く意味については、最後まで分かり合えなかった。無駄にスペックが高過ぎるのは考え物だ。

 撫子さんも、その日の内に話を聞きつけ――というか、倉のSNSを見て――参加を申し出ていたのだけれど、何せあの人こそ真の御嬢様。

 色々な習い事を掛け持ちされているらしく、どうしても時間の都合がつかず、不参加となった。

 倉のSNSが毎日更新されるごとに「……私も参加したいです」「透子、さつき、この恨みは忘れません」「いいなぁ、いいなぁ、いいなぁぁ」と、書き込んでいた。ちょっと新鮮だったのは秘密だ。

 反面、日を追うごとに当たりがきつくなったのは、宮ノ木さんと琴。

 最後の日なんて、がしがし、と両足を蹴って来る始末。何が、あの二人を突き動かしているんだろうか。


『ナオさん、そろそろ3分ですよ?』 

『軍曹殿、物理的に難しいのでありますっ!』

『言い訳は禁止です。それに……倉さんやさつきさんとお電話する時間はあるようですしねぇぇぇ』

『!? な、何故、それを……』 

『さぁ? 何故でしょうね。まぁ――いいです。良くないですが。まぁ、いいです』


 わざわざ、二度繰り返すところが怖い。

 ……もしや。


『あーミネットさん』 

『何ですか。年上のお姉さんに甘やかされて、デレデレしてるナオさん』

『…………もしや、今、倉達と一緒です?』


 チャットは返ってこず、そのまま廃教会裏へ辿り着いた。

 そこにいたのは――ナオを反転させる。


『何処へ、行かれるんですか? 皆さん、お待ちかねです。ええ、待っていましたともっ!』


 ミネットさん、倉、さつきさん、撫子さん、そして、何故かフジさんが廃教会に集まっていた。

 ――嫌な予感しかしない。  

 詩人様が宣言する。


【被告人がようやくやって来ました。では、裁判を開廷しようと思います。容疑者は、ナオさん、倉さん、さつきさんの三名ですっ!】

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