第32話 試験勉強 下

 何時もの待ち合わせ場所に出向くと、窓際で美人女子高生が二人、楽しそうにお喋りをしていた。いや、一人じゃないのかよ。

 げんなりしながら、近付く。


「いきなり呼び出すな。試験勉強中なんだから。さつきさん、すいません。この前はありがとうございました。本当に助かりました。また、是非」

「いえ、こちらこそ。とっても楽しかったです。はい、是非」

「…………直さん、私とさつきに対する態度が違い過ぎます。減点、減点ですっ!! それと」

「それと?」

「……そちらのお二人は――なるほど。そういう事でしたか」

「? あーこちら、同級生の宮ノ木ねねさん。で、こっちが腐れ縁の恋ヶ窪琴。一緒に試験勉強しててさ、ついて来たいっていうから。宮ノ木さん、琴、こちら雨倉透子さんと、有原さつきさん。……椅子が足りないな。よし、それじゃ僕らはこのへんで」

「ダメです。椅子は足せばよいこと。さ、直さんは私とさつきの間に座ってください。そちらの――宮ノ木さんと恋ヶ窪さんはそちらに」

「……分かりました」

「は、はい」


 僕の意見は却下あえなくされた。

 こういう所は卒がない倉が、さっさと店員さんに椅子とメニューを持ってきてもらい、宮ノ木さんと琴へ渡す。おい。


「レディファーストです。それに直さんは何時も通りでよろしいのでしょう?」

「ぼ、僕だって偶には違うものを食べたくなるかもしれないじゃないか」  

「例えば?」

「……その」

「他のパフェは私と透子が頼みましたから、大丈夫ですよ」

「で?」

「…………何時もので」

「はい♪ ああ、宮ノ木さんと恋ヶ窪さんは、ゆっくり選んでくださいね。どれも美味しいですから」

「っぐっ…………そうですか。そうなんですね。わざと、わざとですね……これだから……」


 宮ノ木さんが、メニューそっちのけで、ぶつぶつと何かを呟いている。どうしたんだろう?


「な、なお、なお!」

「ん? どうした??」

「ちょっとっ! ちょっとっ!!」

「?」


 焦った様子で琴が僕を呼んだ。

 はて?

 近付くと、顔を近づけひそひそ声。


「(どーして、こんな綺麗な人達と知り合いなのよっ! しかも……あの制服って、御嬢様学校で有名な……)」

「(まぁ、色々あるんだよ)」 

「(色々って、色々で知り合えるかぁぁぁ!!! なおのバカ。エッチ。変態)」

「(何でそうなる。ほれ、とっとと選べ)」

「な~お~さぁん」

「「!」」 


 恐る恐る振り返ると満面の笑顔で、手と手とを合わせている倉。さつきさんも、少し不機嫌そうだ。何故に。


「取り合えず、琴、とっとと選べ」 

「う、うん。でも……いっぱいあって迷うんだけど……」

「なら、苺パフェにしとけ。僕は何時もそうだ」

「なおのお気に入りなの?」 

「ま、そんなとこ」

「なら、それにする!」

「そかそか。宮ノ木さんは――」


 メニューを見つつ未だに呟いている。傍目は美少女な分、怖さが倍増。何が彼女をそうさせているのか。

 倉を見ると、最初のニヤニヤ顔。また、悪巧みしてるな。ったく。

 素直に、倉とさつきさんの間に座る。


「おかえりなさい、直さん♪ 私の膝上でもいいんですよ、何時もみたいに」  「「なっ!?」」 

「倉、あんましからかうなら帰るぞ。もしくは、さつきさんと別の店に行く」

「「「!」」」

「あ、それいいですね。直さん、そうしましょうか」

「さつきさんが良いなら」

「「「駄目ですっ!!!」」」


 綺麗に三人の声がはもる。宮ノ木さん、おかえりなさい。

 さつきさんと顔を見合わせ、くすくす、と笑いあう。


「直さん……」「な~お~……」「ナ……こほん。中ノ瀬君」 

「倉、さっきも言ったように僕等は試験勉強中だったんだ。しかも、今回は怖い怖い詩人様と、宮ノ木さんとも勝負してるから……それなりに勉強しないといけない。全教科負けはカッコ悪いだろ? それを理由に何を要求されるか。腐れ縁も補習から……琴は、まぁなるようにしかならんな」

「なお、酷い……ふんだっ。そんな事言ってると、今年は一緒にプール行ってあげないからねっ!」

「――そして、お前は琴弟&妹の世話を自分一人ですると。うん、頑張れ」

「! う、嘘だよ? 嘘だからね? わ、私一人で怪獣達の相手なんか無理だよぉぉ。うぅ……なおぉ」

「赤点回避しないことにはなー」

「あら? それじゃ、こうすればいいのでは? 私とさつきが直さんの勉強を見てあげます。宮ノ木さんは恋ヶ窪さんを。その結果で勝負、では如何?」

「な、何を言ってるんですか、貴女は! そ、そんなの私やフ――恋ヶ窪さんに何のメリットもないじゃないですかっ!!!」


 宮ノ木さんが、倉を睨みつける。

 対して、悔しいことに美人な女子校生は余裕の表情。


「え? ああ――勝たせる自信がないんですか?」

「!」

「私は自信がありますよ。直さん、地頭はとっってもいいですし。勝負にならないかもですね。ごめんなさい。この話はなかったことに」

「……上等じゃないですか」


 うわ。頭に血が上ってるや。おい、琴、止め――どうして、お前まで対抗意識を持ってるんだよ!?

 さつきさん「大丈夫です。透子も私もそれなりにお勉強は出来ますから」……いや、それはそうでしょうけど。


「直さん、そういうわけです。明日からは、放課後、私とさつきと一緒に勉強しましょうね♪ うふふ。撫子に自慢しないと!」 

「…………僕の意見を徹頭徹尾、聞かないのか、お前は」

「いいじゃないですか。私に習えば、ねね――こほん。宮ノ木さんなんて、ちょちょいのちょいです。あ、勝ったら、夏休み、私とさつきと一緒にデートしましょうね? 海とか海とか海とか。これでも、脱いだら凄いんですよ? さつきも」

「ち、ちょっと、透子!」

「はぁぁ……宮ノ木さんは」

「無問題です。ええ、無問題ですともっ! 勝てばいいんです。勝てば官軍。勝者が法なのです! 勝ったら、私と恋ヶ窪さんと一緒に行ってもらいますので、そのつもりで!」


 ……何やら見知った方の気配が。いや、そんな確率は流石にない。うん。

 一縷の望みを抱いて琴を見やる。

 あ、ダメだわ、これ。

 頭を掻きつつ、見やると丁度、店員さんがパフェを運んできてくれた。よし、食べよう。食べてから考えよう。


 ――この後、倉が頼んだチョコレートパフェと、さつきさんが頼んだフルーツパフェを一口ずつもらったら、宮ノ木さんと琴がますます不機嫌に。な、なんだよー。美味しそうだったから、いいだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る