第22話 詩人(廃神)な日常その④

 ナオさんの発言を見た時の感想は『ああ、やっぱり』。

 この人、表舞台にはもう立ちません、とか普段言ってるんですけど、何だかんだ誰かが困ってると手を差し出すんですよね。

 ……まぁ、それが私相手じゃないというのは大問題だと思いますが。


「流石、先輩。撫子さんの為だよね! う~相変わらずどうしたっていい人キャラ!」

「知ってますから、口に出さなくていいです」


 隣ではしゃいでいるななをたしなめます。

 そう、こんな事は日常茶飯事。今までは、事がそれ程大きくなかっただけで、何れこういう状態に陥るのは目に見えていましたし。出来れば防止したかったんですが、仕方ないでしょう。

 だけど、少しだけイラっとします。倉さんとまたしてもケーキ食べに行ってますし。


『ああ、終わったら廃教会裏へ来てくださいね(^^) 二人きりでお話がしたいことがあります』

『い、行きませんよっ』

『ほぉ……来なければ、倉さんから仕入れた、昔のナオさんの話を』

『軍曹殿! ナオ四等兵、本作戦会議後、ただちに廃教会へ移動致しますっ』

『よろしい』

 

 まったく……携帯に送られてきた写真を見ます。

 当然、顔そのものは映っていません。映っているのは、嬉しくて仕方ない、と言った表情の倉さんこと、雨倉透子さんと、やはり顔は映っていない女性です。分かります。この人もとっても綺麗な方です。


「お、お姉ちゃん、ど、どうしたの? 怖い顔……」 

「何でもないです」


 嘘です。

 この写真を見てからというもの、私の心の中では大波警報が発令されています。

 撫子さんの様子が少しおかしいのは気付いていました。

 だから、今日のログインで相談しようと思っていたのに……あわよくば、この際、オフ会前哨戦と称して現実で会おうと思っていたのに。いや、もう、会ってますけど。

 いい加減、今の落ち着かない感じを打破してしまおう、そうしよう、と思っていたら、あっさりと先手を取られた格好です。


「集まっていただく前にメールを皆さんへ送っておきました。僕なりに挙動を分析したものです。おそらく、そこまで外れてはいないと思います。それを踏まえ、次戦の編成案も考えてみました」 


 当然、目は通し終えています。次戦、PTが一緒なのは嬉しいです。

 ……とっても出来る人、でもあるんですよね。 

 後衛として、私は彼以上の存在を知りません。

 昔は、最前線で作戦参謀を務め、世界最速を何度も成し遂げていた、とも聞いています。色々あって、退いたらしいですが、この前のアポピス戦でもメイン盾PTでその役割を十二分に果たしていました。

 上手い人には多少のブランクなんか関係ない良い例です。ログアウトされた後、色んな人達から話を聞かれたのも予想通りでしたけど。

 ギークさんが発言されます。


「ナオよぉ、再戦自体はいい。望む所だし俺達も力は貸せる。だが……メイン盾を削るのと、人員を最小限にするのはどうなんだ? メイン盾1~2枚ってのは。撫子とエヴァンジェリン想定なんだろうが」

「仰る通りです。まぁ、あくまでも一案と考えてもらえば。ただ、僕の感覚からすると、あのボスは挙動+ギミック不明な為、未だに不敗を保っていますが、攻撃は左程でもありません。腕のいい後衛がいればカバー出来る範囲です」

「で、それがこのメイン盾案か。撫子にエヴァが盾。お前とミネット。それに皐月さんと雨月の嬢ちゃん。盾2後衛4はまぁまぁある……ただ、余りにも分厚過ぎねぇか? あと面子が。全員が全員、アレ過ぎだと思うんだが」

「私は賛成ね。確かに、あのボスって、盾とマラソン班さえしっかりした人を入れておけば、何とかなりそうな感触があるし。少なくとも、この盾とマラソン班の編成に私は異議ないわね。ギークは気にしぃだから気にしないでいいわ。身体は大きいけど、小心なのよ、この人」

「ライラ、てめぇ……」

「何よ? やる気? 逆らったら、プリン作ってあげないからね」

「!? ひ、卑怯だろうがっ!」


 ギークさんは言動からは想像つかないですけど、甘党です。しかも、ライラさん手作りの御菓子大好きな。とても参考になります。

 ナオさんも倉さんとよく都内で有名なケーキ屋さんによく行かれ……あ、怒りが再燃しました。


『……ボス戦にかこつけて、綺麗で可愛い女の子に囲まれたいんですね? その気持ち――分かりません。針の量が順調に増えていますよ?』

『ぼ、僕がみた限り、ベストメンバーですよ! 逆にこれ以上は……それこそ同志! を入れる位です』

『まだ、あのド変態さんと付き合いが? いい加減、縁を切る事をお勧めします。と言うか、あの方に集団戦闘は難しいのでは?』

『あ、あれでいい奴なんですよ? ……確かに向かないですけど、腕はピカ一です。後衛に専念させたら、僕よりも上ですからね』


 む~……そんな事ないのに。 

 ナオさんの悪い癖です。凄いのに。とってもとっても凄いのに。

 まぁいいです。追々、洗脳……こほん、言い聞かせていけばいいだけですし。

 あーオフ会が楽しみです。夏物の服も買いに行かないと。

 『一応』初対面ですからね。ふふ、驚く顔が目に浮かびます。万難を排して、隣の席から目の前の席を確保しないといけません。

 今まで、沈黙されていた撫子さんが発言されました。

 

「挙動と殆どの編成案について、異論はありません。一点だけよろしいですか?」

「何でしょう、撫子さん」

「次戦……盾は私一人で挑みたいんです。エヴァは盾も上手いですけど、本職はアタッカー。ならば、あえてここは盾を削ってでも、短期決戦を提案します!」

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