第5話 白魔な日常その➁

 今日も日課である、薬品類を競売に出品。売れ行き順調。

 いやぁ、儲かって儲かって……嘘です。消耗品は薄利多売の世界なので、売っても売っても、そこまでは儲からないのだ! 

 

 ……作れども、作れども、我が暮らし楽にならず……。

 

 錬金術は、鍛冶とか宝石細工とか、当たれば大きい合成と違って、どうしても消耗品に偏っているから、仕方ないのだけれど。確実を選択したのだと思えば。

 勿論、回復系でも+補正が付いた物はそれなりにするけれど、大半が何処かの誰かさんに持ってかれてるからなぁ。渡さないと何故か拗ねるし。

 お金は払ってくれてるから、得意先だと思えばいいのかな、うん。要求は日々理不尽になってるけれど……。

 しかも、ここ最近は不機嫌。ギークさんとかから聞いた話だと、今回のミッションボスは難敵も難敵。未だ、攻略の糸口すら見つかっていないらしい。

 廃神さん達は大変だなぁ、と思う。

 さて、それじゃ僕もレベル上げに行きますか。

 

 ――『フレンドがログインしました』。


 ナオを動かし、『アクアフォレスト』の転移ポイントへ。

 パーティ? 

 ハハハ。白は今の主流構成だとまず組めないのだ! 自分からリーダーになっても、断られるシネ!

 なので、秘密のポイントでソロ上げ。

 現状『剣魔物語Ⅱ』で開放されているレベル上限は80。で、今のナオは65。

 最前線にいくのは厳しい。少なくともレベル75は必要だろう。第一、古都へ行けないしな!

 廃神さん達は当然の如くもう80に到達している。

 一時、狂ったようにレベル上げしてたしなぁ……必要経験値、軽く数十万だったんじゃ……。ある意味、凄い……。

 

『こんばんは』

『こんばんはっ! 先輩、先輩、聞いてくださいっ!』


 姉妹同時にチャットが飛んでくる。

 ミネットさんは平常……かな? 何処となく、殺気を感じるような……。

 ナナちゃんは、ミネットさんの妹らしい。本当かどうか知らないけれど、一番最初にパーティのイロハを教えてあげて以来、懐いてくれている。同じ小人族だしね!


『ばんはー』

『こんばんは。どしたのー?』

『む……ナオさん、どうして、ナナにはそう優しい口調なのに、私には素気ないんですか?』

『私――彼氏が出来そうなんですっ!』


 ……どうやら、一緒の部屋で、しかもノートPCでプレイしている、と言うのは本当らしい。直接チャットの意味がない

 それにしても彼氏とな。そりゃめでたい。


『ミネットさん……他人のチャットを覗き込むのはマナー違反です』

『お~おめでと。きっと良い人だね。あ、ナナちゃん。ミネットさんが覗き込んでるから、気をつけて』

『ありがとうございますっ(∀`*ゞ)エヘヘ』

『ナオさん。貴方はどうして、そうナナに甘いのですか? 妹に怒られました。そうですか、ロリコンなのですね。この変態。嬉しがらないでください』

『はいはい。あ、ミネットさん、僕、これからレベル上げに行くので、チャット出来ません。舐めてると即死なので、あそこ』


 街の中ならいざ知らず、流石に戦闘しながらは辛い。

 しかも、今から行く場所――『叫びの墓所』の最深部は、レベル80だろうが、なんだろうが、油断した瞬間、ほぼ死ぬ難所。

 蘇生しても、そこから建て直すのはまず無理、という死地である。

 大多数のプレイヤーはミッションで一度行ったきりになる、本ゲーム世界屈指の人口過疎地でもある。

 ……時々、ソロで『賞金モンスター』を狩ってる猛者もいるけどネ! 


『駄目です』

『いや、駄目って』

『駄目です。諸々、ゲームもリアルも煮詰まっているので、私も行きます。ナナは来ません。残念でした』

『はぁ。来てくれるなら有難いですけど』

『本当ですか?』

『本当です。だって、ミネットさんがいれば、早々死なないでしょうし』

『それは私が必要だと? そういう事ですか?』

『まぁいなくても何とか』

『そこは、必要です。結婚したいです。リアルの連絡先を教えて下さい、と間髪に入れずに返答するところでしょう。まったく、勉強不足ですね。あ、勿論、ナオさんと結婚はしませんし、リアルの連絡先は……どうしても、と言うなら……』

『駄目出しをされた挙句、しかも振られた!? あ、リアルはちょっと』

『……つきました。誘いました』


 ――『ミネットからパーティに誘われました』。


 来るの早いなぁ。余程、鬱屈しているらしい。

 何時もなら、一度断るところ。が、今日は止めとこう。何か、怖そうだし。

 パーティに加わる。


「……よろしく」

「よろですー」

「……さ、最速でレベル上げしますよ。具体的には――レベル75まで」

「ほぉ……ミネットさん、つかぬ事を聞きますが」

「何です」

「どうして75なんでしょう? 僕はゆっくり、まったり上げるつもりなんですが。

 しかも、最速とな?」

「ナオさんのレベルを上げて、ミッションボス戦メンバーに加える為です」

「いやいやいや。僕、白魔術師なんですよ? 枠がないでしょうに」

「物悲しくなる発言ですね……私達が先週三度、ボスに挑み、何れも敗走したのは話しましたね?」

「ああ、叫んでましたねぇ。お互い学生なんですから、夜中の2時まで起きてるのは止めましょう。昨日は眠かったです」

「でしょうね。眠そうでしたし。敗走の原因は、昨日も言いました通りNPCキャラです」


 当然だけれど、オンラインゲームにはNPCと呼ばれる、その世界の住人達がいる。そして、ミッションを進めていると共闘する場面にも出くわすのだけれど、ミネットさん達が進めているボス戦でも、参戦してくるらしい。

 

 ――しかも今回はそのキャラが死亡で、即失敗。


 あ、何となく見えてきたような……。


「ナオさんには、そのキャラを生かし続けてほしいんです。御存知の通り、NPCキャラへの回復行為は敵対心バランスがとてもとても微妙。私達のメンバーにいる後衛達だと失敗しました。でも、貴方ならやれる筈です。と言うか、やって下さい。嫌だと言うのなら」

「なら?」

「私と結婚」

「分かりました。不肖、この白魔術師のナオ。頑張らせていただきます。でも、その前にクリアになるのでは?」

「……どうして、そこで即レベル上げを選択するんですか。まぁ、いいでしょう。次のボス挑戦は土曜日です」

「ほぉ」


 本日は月曜日。

 そこまででレベル10個あげて、かつ、ミッションも進めろと?

 ……な、何という無理ゲー。この天使様の思考法、怖い。


「あの、ミネットさん」

「画面は保存しました。では、これから5日間よろしくお願いしますね」

「……あい」 


 うん、分かってた。僕には拒否権なんかないことは。

 取りあえず久方ぶりの固定パーティだ、わーい。まぁ、2人だけど。

 ……た、楽しもう、うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る