第4話 昼休み

「なーお! お昼だよっとっ!」

「琴、お前は何時も元気だな……まぁ昼だ。行くかー」

「行こー」


 午前の授業を終わって少しした後、隣のクラスからやって来た琴と一緒に、固まった身体を伸ばしながら、カフェテリアへ向かう。

 うちの学校、カフェテリアやら図書館、部活動の設備にやたらとお金をかけていてるから、かなり立派なのだ。当然、値段の割に料理も美味しい。

 まー別に、「お昼っ! お昼っ!」とスキップしているこやつと食べなくてもいいのだけれど……頑なに拒否するから、今では諦めてしまった。

 手のかかる幼馴染様だ、まったく。


「そう言えばさー」

「ん?」

「隣の転校生さんとは、どうなのさ~? もう一週間でしょ。……何か、直のことよく見てる気がするんだけど……」

「はぁ? どうって、何が?」

「な、直のことだからさ~。何も知らない転校生を毒牙に……へ、変態! 近付かないでよね~! 大声出すんだからね~!」

「はいはい。朝と帰りに挨拶する位だな、接点は」

「へっ? それだけ?」

「それだけ。何せ宮ノ木さん、可愛いじゃんか。俺なんか眼中にないと思うが?」

「……てぃ!」

「危ねぇっ! 階段で蹴りをするな! この阿呆」


 何を考えているのだ、この幼馴染は。

 暴力で物事を解決しようとするのは止めていただきたい。日頃、ダンスで鍛えているお前と違って、帰宅部の俺はスペランカーなのだから。


「……直、そういうのよくない。よくないよっ! 女の子はすぐに誤解するんだからねっ!」

「はぁ? 誤解??」

「……鈍感。まーでもそうだよね。彼女、可愛いもんね。直なんか、じめじめした石の陰にいる虫位にしか思ってないよね」

「琴さん。一寸の中ノ瀬直にも五分の魂があるのじゃよ? ったく」

「ふふふ~♪」


 さっきまで不機嫌だったのに、今はご機嫌。

 ……長い付き合いだが、正直分からん。

 だがまぁ、あそこまで嫌われる事をした覚えがない。挨拶する時も、目をそらされた挙句、小声だし。

 ままならないわなぁ。

 そうこうしている内に、中央棟3階にあるカフェテリアが見えてきた。

 うちの学校は中高一貫なので、中央に様々な設備が集中している。分かりやすくて良いと思う。

 今日は何を食べるかなぁ……無難に日替わりランチでいっか。

 食券と引き換えて、トレイを持ち周囲を見回す。

 ――珍しい。席がいっぱいか。どうしたもんか。


「あらら~。いっぱいか。人、多いねぇ。どうしよっか?」

「そうだなぁ……何処かに知り合いでもいれば――ん?」

「どしたの~?」

「……いや、見間違い……」

「あ、何か、手を振ってくれてない? 誰だろ?? でも、ラッキー♪」

「お、おい、琴!」


 止める間もなく、我が幼馴染が歩き出して行く。

 ……知らんからな。

 丸テーブルには席が四つ。使用されているのは、二つ。

 座っていたのは――


「……へっ? ど、どうして、貴女が?」

「クラスメートですから。それに隣の席ですし。中ノ瀬君、ぼーっとしてないで座ってください」 

「はぁ。ありがとうございます。それじゃ失礼して」


 そこにいたのは、宮ノ木さんと、彼女によく似た中等部の女の子だった。妹さんかな?

 ……で、どうして、俺の顔をじっと見てるんでしょうかね、この子は。頬が真っ赤ですが。


「中ノ瀬直です。宮ノ木さんとはクラスメート」 

「私の友人です。妹のななです」

「み、宮ノ木ななでしゅ! せ、先輩……その、あの……」

「うん?」

「せ、先輩は彼女っているんですかっ!」

「「!?」」

「厳しい質問だね……。残念ながらいないけど、何でかな?」

「なら……私、立――むぐぐっ」

「……ごめんなさいね、中ノ瀬君。この子、突拍子もない事を言う時があるの」

「は、はぁ……まぁ、いきなりは付き合えないよ? 君は可愛いけど、何も知らないし」

「ぷはっ! お姉ちゃんっ! 邪魔しないでよっ! ならなら――私の事、知ってくれたら、彼女にしてくれますか?」

「んーどうだろうね? 今は何とも言えないな」

「分かりました――私、頑張りますっ! 取りあえず、連絡先を交換してくださいっ!」

「……宮ノ木さん?」


 困惑しながら、転校生に尋ねる。いいのかね、これ。

 あー琴。何が気に食わないのか知らんが、後輩を睨むんじゃありません。お前だって俺の連絡先知ってるだろうが。

 俺の問いかけに対して、沈黙していた宮ノ木さんが、微笑を浮かべながら口を開いた。下手に美人なので、あの……怖いです、ハイ。


「別に構いませんよ。ただし、幾つか条件があります」

「はぁ」

「第一に、妹に変な事をしたら通報します」

「いきなり過酷!」

「第二に、学内で会う時は勿論、万が一学外で会う時があれば、私も同席します」

「お姉ちゃんっ! 横暴だよっ!」

「あ、それはいいですね。学外で会う事は早々ないでしょうし」

「中ノ瀬君は、因みにご自宅では何をされてるんですか?」

「色々ですよ。本読んだり、ゲームしたり」

「なるほど、ゲーム、ですね。分かりました。こほん――では、第三に姉として、妹の彼氏になる男性をよく知らなくてはなりません。なので、その……」

「先輩、明日から一緒にお昼食べましょうっ!」

「「!!」」

「駄目です」

「ええっ!? な、何でですか?」

「宮ノ木さんは」

「あ、ななって呼び捨てにしてください。お姉ちゃんと紛らわしいと思うので」

「なな……ちゃんは、転校してきたばかりだし、友人と親睦を深めた方がいいと思うよ?」

「う~でも、私は先輩のこと、もっと知りたいんですっ」

「いやでも」

「では――こうしましょう」


 怖い微笑を浮かべている宮ノ木さんが口を挟んできた。

 琴、だから睨むなっ。めっ。


「週に、月金は、私達3人でお昼を」

「……4人だよ。あたしは直とず~っと一緒だったんだからっ」

「そうですか。別に構いませんよ。……貴女とは一度お話したいと思っていましたから」

「……奇遇だね。あたしもだよ」

「「うふ、うふふ……」」


 おおぅ、2人の後ろに竜と虎が見える……気がする……!

 というか、俺の意思はないのか。そうですか。

 ……何か、変な事になったなぁ。まぁ、なるようにしかならんが。


「先輩、これからよろしくお願いします!」


 まぁ可愛い後輩と知り合えたのは、良い事だけどさ。

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