0x0016 ハッカーは普通の人です
大事なことを言います。
ハッカーは普通の人です。
ハッカーのイメージってとても悪い。
ハッキングが報道される時って、ブラックハットの連中が引き起こした違法行為ばかり。
報道者は
普通と見分けできなくするのがハッカーでしょ!
目立つ格好するわけねーじゃん!
パスワード割った時にビンゴとか言ったりしねえし、引きこもりとかでもねえ。学習中毒の傾向はあるけど、ボーダーじゃねえ。年中フード被ったりしてねえし、ドラゴン・タトゥーとか入れてやしねえよ。
ハッカーの所属国の平均収入と、ハッキングの犯罪性には負の相関関係がある。
高度な教育されている東欧、ロシア、アフリカに居住するハッカー達には、スキルに応じた所得を得られる機会がない。
まあ、最近の日本でもそうみたいだけど。
メディアから垂れ流される情報で、彼らは生活格差を意識させられている。だけど、スキルはあるのに、生活するのもままならない。
そりゃ、面白くない。金融犯罪や金になる情報売買などに手を染めちゃう奴もでてくるわけ。
話は横道に逸れたけど。
DOGに手伝ってもらったメールは送信した。
ストーリー的には、アングル国所属の魔法ギルドから”国境を越えた魔法会議の事前通達文書”になってしまった。
開発中の魔法API情報リークというストーリーは現実的じゃないと、ガシュヌアからダメ出しされたからだ。
あいつ、小姑みたい。
仕事は早いよ、そこは認めよう。だけど、細々したことまで説教三昧。
ドラカンはグラフとかフォントとか、見栄えのいい資料作成を手伝ってくれた。
こいつ絶対目が見えてると思う。
先天性盲目だった場合、色彩とか見栄えとか考えられるわけがない。
ガシュヌアはもう難聴を装うってのも馬鹿らしくなったらしく、背後に立ってて、普通に会話してきた。
さて、OMGの誰かがマクロを開くと通知されるよう、リスナーを起動させておく。
マクロを実行されたら、HTTPS経由で通知が来て、スクリプトを実行しレスポンスを装って、Mimikatzというツールを、jpgファイルなどに分割したものを暗号化して送りつけ、全て送信されたら、組み立てて実行させる。
また、マクロ実行した際に、PowerShellを起動させるので、そのログ消去もスクリプトで行う。
DOGでの仕事が終わって、デアドラ屋敷に戻ると昼が回っていた。内陸だからか春先の空気は乾燥していて、涼しさを含んだ風が心地いい。
書斎に行くといつもの三人とセルジアが居た。
そういや、ジネヴラ、セルジアとも相談しよう、とか言ってたな。
「ただいま」
「おかえり。ユウヤ、どうだった? DOGでの仕事」
ジネヴラがこちらに向かって駆けてきた。胸の内が安心感で満たされた。
帰る場所があるっていいなあ。
「洗礼受けてきたよ。これでパブリック魔法使えるみたい」
「本当に? ちょっとやって見せてよ」
「よし。『光』の魔法とかやってみようかな。最初、失敗しちゃったし」
「いいねえ」
魔法はブラウザ経由で実行されている。HTTP経由で魔法にAPIパラメータを送ってて、物理世界に現象を発生させていた。
わかってしまえば何てことない。知っていたらKali Linuxでも問題なく実行できたのに。
「ちょっと待ってね」
「ドキドキするね」
ジネヴラに頭の上に手を伸ばして、位置情報を取得。
ブラウザ経由ではなく、コマンドラインベースで実行させよう。魔法APIを呼び出すだけだもんね。国民ナンバーも登録されてるし、魔法実行に問題はないはずだ。
魔法詠唱とかしたくない。『光』の魔法の失敗は地味なトラウマを作ってくれた。
なので、CUIベースで魔法APIのパラメータを設定して実行。
すると、ジネヴラの頭上に天使の輪ができた。
突然の魔法実行に彼女は驚きの表情で天使の輪を見上げている。
「スゴい! 無詠唱でできちゃうんだ! それに輪っかになってる!」
「『光』の魔法を28、同時実行させてみました」
「ちょっと、皆。スゴいよ。ユウヤの魔法。見て見て」
マルティナ、デアドラ、セルジアが口を開けて近づいてきた。カラフルな鯉の大群がこっちに来てるみたい。
いずれも驚いた表情。
うむ。テンションが上がってきた。ちょっと気持ちがいい。
追い風が吹いてる予感。
だけど、頭がボンヤリしてきた。そうか、魔法使うとリソース食うから、メモリを使い切っちゃうと、こんな感じになるんだ。
「ウウイエア、これは本当に『光』の魔法なのか?」
「そう、だよ。『光』の魔法をね。実行する際に、円上に並べらんら」
あれ、オカシイ。主に言葉使いがオカシイ。
メモリ使いすぎてるのか、言葉がちゃんと喋れなくなってる。何かマズそうな展開。
えっ、何コレ?
僕の頭の中では、皆が感心した所で、僕がYou, yeahをする展開を想像してたんだけど、違うの?
魔法を終了させようと思っていると、デアドラまでが感心した表情をしてた。
「やりますね、ウーヤ……。いい拾いものをしましたです……」
そういや、この娘が意外と主人公に近いポジだったことを思い出した。
セルジアまでがこちらにやってきて、マジマジと見ている。
『光』の魔法を終了させたいけど、何か終了させられない雰囲気。
ヤバい。意識が遠のいてきた。
「そうそう。ギルドの登録申請してきたよ。実技試験は三日後だって」
「ギルドの名前。何なの?」
キラキラギルド名だと反対しなきゃ。
しかし、魔法を止めるタイミングが見つからない。頭クラクラ。脳内震度は三ぐらい。
「Emmaって言うの。最初からこの名前にしようって決めてたんだ」
天使の輪を輝かせているジネヴラが嬉しそうにしていて、『光』の魔法を終了させるタイミングを逃してしまった。
どうしよう。意識保つのに必死なんですけど。脳内震度五です。
そんなことを考えていると、OMGの誰かがマクロを開けたらしい。リスナーに反応があり、スクリプトが実行された。
脳内震度は八を超えた。
僕の意識はブラックアウトした。
*****
目を覚ましたら、僕は応接室のソファーの上で寝かされていた。
「あっ、目を覚ました」
「ジネヴラ?」
まだ頭がスッキリしない。頭の奥に重い疼痛が居座ってる。
「大丈夫? とにかく『光』の魔法を終了させなきゃダメだよ」
「『光』の魔法? ジネヴラの頭上に天使の輪がないけど」
「書斎でまだ光ってるよ」
「えっ、そうなの?」
「早く終了させないと」
ジネヴラに即され、魔法を終了させる。すると頭の中にあった靄が消えてゆく。
考えていたより、魔法って重労働。OSに設定しているメモリ上限を増やしておかなきゃ。
「魔法って、疲れるんだね」
「体調も関係あるし、さっきのは無理しすぎだったかもね」
「こんなに体力使うとは思ってなかったよ」
「……」
ジネヴラさん、ちょっと何か喋ってくださいよ。格好いい所見せたかったんだよ!
見回すと応接室のソファーに寝かされていて、毛布が掛けられる。
格 好 悪 す ぎ
僕が主人公ではないことを猛烈に痛感している。樫の木はどんだけ頑張っても樫の木だ。身の程をわきまえよう。
でも、『光』が書斎で光ってたってことは、位置指定が間違っていたらしい。
ジネヴラの頭上で『光』を灯すのであれば、パラメータで、ジネヴラ個人を指定して、相対的な位置を設定しないといけないらしい。
詠唱だとその辺は自然言語解釈エンジンが解析して、実行されるから問題ないけど、CUIで実行するんだったら、自分で計算しなきゃならないのだろう。
応接室のドアが開く音がした、セルジアとデアドラ。
「ちょっと、ユーヤ、あなた大丈夫?」
「うん、なんとか」
「そうね。顔色も良さそうね。あのさ、ジニーから聞いたよ、DOGでどういう仕事してるのか教えなさい」
彼女の言葉使いは、僕を年下扱いしている気がする。
「セルジア、どうして僕は年下扱いなの?」
「あら、話をかわそうとしてるの?」
「そういうんじゃないけどさ」
「あなたの国と、この国では文化が違うのよ。前にも言ったけど、世界は公平ではないし、平等という理念はあっても、現実は違うの。貴族、平民、異種族には差があるし……」
「ちょっと待って、僕は異種族なの?」
ショックだった。僕は彼女たちのいう所の”人間”にはあたらないのか。
確かに人種は違うけど、普通に接してたつもりだった。そういう目で見られているとは思ってもみなかった。
そうなんだー。ああ、心が痛い。
異種族とか言われちゃうなんて、
か な り シ ョ ッ ク な ん で す け ど
……KKKとか作ろうかな。
この際だ。東洋繋がりでガシュヌアも加えてやろう。何と戦っているのか不明だが、不思議と勝てそうな気がする。
「何て顔してんのよ。人の話は最後まで聞きなさい。ユーヤは別に異種族じゃないわよ。異種族というのはセル民族みたいなハーフエルフのことを言うの」
なるほど。でも、僕の興味は別のワードに反応した。
「ねえ、ハーフエルフってどんな人達なの?」
「そんなのどうでもいいから。ほら、納得したら、さっさと
僕の食いつきは無視された。ワクワク感を返してくれ。
ついでにセルジア、自分のことを”big sis”って言ってるじゃん。こういう所が年下扱いでなくて、何なの?
「機密扱いでしょ?」
「ジニーと口頭契約で機密保持契約を結んだと言ってるみたいだけど、契約書を持ってこいと言った時点で、契約未成立状態と主張できるんだから」
セルジアはやたらと闘争的だ。毎秒20語ぐらい。
「セルジー、ちょっと待って。順番を追って話を聞きましょうよ」
「DOGが何を考えているのかわからないのよ? 素性が知れない機関であることは間違いないの」
「確信はないけれど、DOGは諜報機関だと思うよ」
「ユーヤ、それよ! 素性が怪しいのはそのためなのね!」
セルジアは無視しよう。話が絡まったら面倒だ。
ごめんね。
頭がゴチャゴチャしてきたので、まずは整理しよう。
ガシュヌアの話を聞く限り、デアドラは重要人物。
そういや、晩餐会で魔法統制庁長官ドナルが反ヴィオラ派だとか言ってた。
デアドラは親ヴィオラ派になるんだろう。
次にデアドラの父親。彼は内務大臣で親ヴィオラ派だと予想される。
確か、晩餐会の席でドラカンは言ってた。
前回の閣僚入替えは強引で、反ヴィオラ派は利権を手放したくない、とか何とか。
ひょっとして政変に巻き込まれている?
OMGは宮廷魔法ギルドで、魔法統制庁の認可を受けているから反ヴィオラ派だと推測できる。
DOGはOMGと対立してそうだし親ヴィオラ派だろうと思われる。でもって、DOGは陸軍省と外務省の管轄機関だから、陸軍省と外務省も親ヴィオラ派の可能性が高い。
親ヴィオラ派はEmma、内務省、DOG?、陸軍省?、外務省?。
反ヴィオラ派は魔法統制庁、OMG?。
ガシュヌアはデアドラがセルジアとEmmaでヴィオラ王女の王位継承の機運を作ると言ってた。邪魔をしてるのはOMG。
やっばーい。完全に代理戦争じゃないか。
「ちょっと、デアドラに質問があるんだけど」
「……何ですか、ウーヤ……」
「確認したいんだけど、陸軍省、外務省は親ヴィオラ派? 反ヴィオラ派?」
「外務省は親ヴィオラ派です……、父の友人でもあります……。陸軍省は複雑で、大臣は形骸化しています……。現在陸軍で一番発言力があるのが、アステアという軍人で、親ヴィオラ派になります……」
なるほど、だったらDOGも親ヴィオラ派と考えて間違いない。
「反ヴィオラ派は魔法統制庁、OMGと考えていいのかな?」
デアドラはハンターモードに移行しかけている。目が真剣。
「どこまでDOGに聞いたんですか?」
おお、ハンターモードに入ってる。語尾が消えてない。
多分、こちらが本体だ。
「順を追って話すね。ラルカンがOMGに潜入してEmmaが”あるプロジェクトに抵触する可能性がある”という文書を見つけた。その為、Emmaの認可が拒まれる可能性がある。ここまではいいよね?」
一同は頷いた。
「DOGはOMGの”例のプロジェクト”に関する情報収集を依頼してきたんだ。でも、僕にはEmmaの為になるのかどうか判断がつかない。だから、現況を知っておきたい」
「なるほど……。ええ、ウーヤの言うとおり、魔法統制庁とOMGは反ヴィオラ派です……」
あれ? 王族スイッチ入ってない。
「他に反ヴィオラ派で代表格は誰になるの?」
「シベリウスですね……。彼は内務大臣だったのですが、先にあった閣僚入替えで、法務省大臣に就任しています……」
「これは最後の質問になるけど、親ヴィオラ派、反ヴィオラ派。今、有力なのは親ヴィオラ派なんだね、きっと」
「今の所はそうです。でも油断はならない」
今度は王族スイッチ入ってる。どういう基準なんだろ?
親ヴィオラ派、反ヴィオラ派の派閥闘争に負けた場合、中世的に国外退去とか領地割譲とかありえるはず。
治療魔法は重要な医療インフラになりえる。そして、輸出できる魔法資源になるはず。
にも関わらず、闇に葬る理由が、”例のプロジェクトに抵触する可能性がある”からだって?
OMGからのマクロを開いた通知が複数あるのを確認した。
<Supplement>
この時点で判明している。組織図。
―――――――――――――――――
・立法
―――――――――――――――――
国王
議会┬貴族院
└庶民院
各種委員会:宮廷魔法ギルド(OMG:ギルド長ダルシー)
―――――――――――――――――
・行政
―――――――――――――――――
内務大臣:デアドラの父
・内務省—魔法統制庁:長官ドナル
外務大臣
・外務省┐
・陸軍省 ┤
└DOG(ガシュヌア、ドラカン)
法務大臣:シベリウス
―――――――――――――――――
・魔法組織体系
―――――――――――――――――
魔法統制庁―宮廷魔法ギルド(OMG)―魔法ギルド連合┬OMG:特種
├DHA
└(Emma)認可前
</Supplement>
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