第59話 乱入させていただきます

 時は少し遡る。

 暗黒魔境をダラダラと暗黒大陸の最西端へと向かっていたセブンス達であったが、偶然古代魔法文明の遺跡を発見してしまう。

 まあ、発見というよりもセブンスが遺跡に落っこちただけなのだが……。

 それにしても広大な暗黒魔境で遺跡に偶然出会うなど、説明がつかないほどのあり得ない確率だ。

 ここは人跡未踏の地、手付かずの遺跡がたくさん残っている可能性は否定できないのだが、実際のところ〈黎明樹の巫女〉であるセレスティーがみんなを遺跡に誘導したと考えるほうが妥当だろう。


 いずれにせよ、見つけてしまったものは仕方がない。探検するしかないだろう。それが護衛対象であるセレスティーの意思でもあるのだから。


(セレスティーがそうしたいなら、そうすればいい。これは彼女の旅なんだから。俺は粛々と彼女を護衛するだけだ)

 とは言うものの、セブンスは心の中から期待がこみ上げてくるのを感じた。

(俺って、冒険が好きなのかもしれない……この仕事が終わったらどこかのダンジョンに潜ってみたいな)


 遺跡の探検メンバーは、セブンス、セレスティー、そしてアイルだ。

 クラウとフェルは異次元屋敷クラン邸の中で待機している。因みに〈クラン邸〉とはセブンスが所持している異次元に存在する館のことである。


 遺跡の中は魔獣が湧いてくるダンジョンとは違い、心霊系の魔物がたくさん徘徊していた。それに悪質なトラップもなかったので、この遺跡は何かの施設跡なのだろうと思われる。


「エリア浄化魔法ホーリーライト!」

 セレスティーの浄化魔法で心霊系魔物が光の粒に分解されて蒸発していく。

「おお〜スゲー」

 黎明樹の巫女であるセレスティーの浄化魔法は圧巻だった。普通の冒険者だったら苦戦するはずの心霊系魔物があっさりと浄化されて消滅する様は、特撮映画のワンシーンを見ているようだ。


 セブンスたちは順調に探検しているようだが、実際には問題があった。

 それはゴースト嫌いのアイルがセブンスの腕に絡みついたまま離れなかったことだ。

「魔族ってビビリーなのか?」

 セブンスがアイルをからかう。

「わ、私はビビってなどいない。遺跡の魔素が肌に合わないだけだ」

「それならクラウさんと交代してクラン邸に籠もったら如何かしら?」

 セレスティーはセブンスとアイルが密着していることに苛立ちを隠せない。

「それは嫌だ。魔獣が大量に沸いたらどうするのか? 私が必要であろう?」

「あら? クラウだって相当な腕前よ。アイルさんが居なくても問題ないわ」


 いつもクラン邸でメイドをしてくれるホムンクルスのクラウは、戦闘メイドとしてもかなり強い。冒険者のランクでいうとAランクに相当するはずだ。


「そ、それでも私は実戦経験を積みたいのだ!」

「まあ、それなら仕方ないわね」


 いつになくアイルが強く主張するので、セレスティーは折れることにしたようだが、アイルをセブンスから引っ剥がすことは忘れなかった。

 剥がされたアイルは涙まであるが、セブンスは「そこまでしなくても良いんじゃない?」の一言が言い出せないくらいにはへたれだった。

 もしかしたらアイルは〈真祖の剣〉での失態を挽回したいのかも知れない。

(暗黒魔境の活躍で、じゅうぶんに活躍したと思うけどな)


 多少のトラブルがあったものの、小一時間ほど探索した結果、この遺跡はエルカシス遺跡と同じく転送施設であることが判った。エルカシス遺跡と同じ巨大な魔法陣が設置されていたからだ。


「どこに飛ばされるか分からないから危険だと思う」

 セブンスは覚醒前のツバサだったころ、クソ勇者にエルカシス遺跡から暗黒大陸の〈流刑者の谷〉へ飛ばされた。その時の記憶がまだ生々しく残っていて、彼の中では転移魔法陣と聞いただけで拒否反応が起こっていた。


「でも、楽しそうじゃない?」

「私はどちらでも良いぞ」

「もし、転移場所が敵の真っ只中だったらどうするんだ?」

「敵の真っ只中って?」

「魔獣の巣窟、盗賊の住処、悪の組織、天空族の城、勇者が居るところ……ダンジョンの中ってのもあるかな?」

 セブンスは言ってみたものの、現在の戦闘レベルは250だ。少なくともアルフェラッツ王国内に彼の敵はいない。


「その中にダーリンの敵なんていないわよ」

「でも、勇者を相手にするのは面倒くさいしな」

「勇者が居るのは王城であろう? そこへ転移するなんてことは考えにくいと思うが?」

 唐突にアイルが再びセブンスの左腕に絡みつく。

 それを見たセレスティーが彼女を睨む。


「そうだな。王城が遺跡跡に造られたとは聞いたことないし、それならエルカシス遺跡の方が転移先として可能性が高そうな気がする」

 古代遺跡が敵のアジトになっている可能性は否定できないが、アルフェラッツ王国内でで未発見の遺跡はなさそうである。


「漠然とした不安はあるけど……転移してみようか?」

「ダーリン、嬉しい!」今度はセレスティーがセブンスの右腕にしがみつく。

 二人の美少女に抱きつかれて悪い気はしないが、転移先がどこなのか早く知りたくなった。

 そしてセブンス達は魔法陣に魔力を流して転移した。



    ◇ ◇ ◇



 行き先は全く予想していなかった暗黒砦の近くだった。

 と言うことは、昔ここに転送所があったのだろうが、古代遺跡の痕跡は全く見当たらない。

 転移先に着いたので、異次元屋敷クラン邸から戦闘メイドのクランと神獣のフェルも出てきている。


「暗黒砦の中にあまり人の気配が感じられないな」

 暗黒砦は崖と崖の間に建造された巨大な要塞だ。五百人以上の兵士を収容できる能力を持つ。


「そうね。五十人程度かしら」

「探知範囲を広げてみよう」

 セブンスは半径五十キロ程の範囲を探知魔法で探ってみた。彼の場合、魔力探信ピンガーを使わなくても、それくらいの探知は可能である。


「うっ、あれは結界か? 五キロ先で戦いが起こっている。人数は五百人くらいだ」

「近くで観たいわダーリン!」

「えっ、マジですか?」

(セレスティーの好奇心が旺盛だな)


「私も観たいし、参戦したい」

(アイルは戦闘狂じゃなさそうだが、戦うことが大好きなんだな)


「俺は嫌だな。魔獣ならまだしも……」

 セブンスはまだ人族と戦ったことがなかった。


「龍神族の戦姫ヴァルキリーや、人の形をした魔物とは戦ったことあるけど、人族だったらちょっとな~」

 ようするに、自分の戦闘レベルで手加減できるかが心配のようだ。


「セブンス様、戦闘が終わってしまう前に現場にたどり着かないと」

 クランが適切なアドバイスをする。


「それじゃ行こう」

 セブンスが走り出すと全員が後を追った。



   ◇ ◇ ◇



 そして約五分後――


「何だかわからないけど、商隊と魔法師団? が王国の兵隊に蹂躙されているぞ」


 商隊と魔法師団は何かの魔法結界で本来の力が出せていないようだった。


「このまま参戦してしまうと、正体がバレてしまう」

 商隊を守っているらしい魔法師団が全滅しそうな状態である。

 誰が敵か味方か判断している時間はなさそうだ。


「セブンス様、セレスティ―様、アイルさん、この仮面とマントをお使いください」

 クラウが大賢者の保管庫から正体を隠すためのアイテムを取り出した。


「こんなこともあろうかと……冗談を言ってる場合じゃないな。俺は魔王を演じるから二人共話を合わせてくれ!」

「ダーリン、面白そう!」

「わ、私は魔族だからそのままだな」

「アイルはいつも通りの高飛車な感じで」

「むっ、そう見られていたのか……」

 アイルはむくれているが、すでに仮面を被っているので表情は誰にもわからない。


「セレスティ―は雷槌トールハンマーの用意をしてくれ。初っ端からぶちかますことになるかも知れない」

「判ったわ、ダーリン!」

「悪い方をやっつけるからな」

「ダーリン、やられてる方が悪人かも知れないけど?」

「出たとこ勝負になるが、その時の状況で判断する。難かもしれないけどな」

「本当に大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だと思う。たいてい人質をとる方が悪いやつだからな」

 セブンス達の位置からでも、少女が人質に取られている様子が見えた。セブンスはそれで判断できると思ったのだろう。


「よし、参戦するぞ!」

「はい!」「おう!」



 セブンス、セレスティ―そしてアイルの三人は、仮面にマントを羽織って、戦闘の中心に躍り出た。


「ぐわっはっはっはっ! 皆の者! 我にひれ伏せ!」

「誰だ貴様は!」

 少女を人質にしている悪人がお約束通りに誰何する。


「おおっ、いい感じで聞いてくれたな!」

 セブンスは後ろを振り向いてセレスティ―とアイルにVサインを送った。


「我が名はセブンス・クロイツ。暗黒大陸を統べる魔王だ!」

「な、何だと!」

(おお~、いい感じで動揺してくれてる)


「嘘つけ! 暗黒大陸に魔王などいない!」

「それが居るんだな〜」

「え〜と、どっちの味方に付けばいいんだ?」

 セブンスは周囲を見回して状況を確認した――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エルフの巫女のガーディアン 玄野ぐらふ @chronograph

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ