第22話 牢獄からの脱出(2)

 ツバサたちはグラン邸の外へ出るのを昼過ぎまで待った。

 龍神族が牢獄に注意を払わなくなるにはあるていど時間が必要だと考えたからだ。

 しかし、それは正解であり、誤りでもあった。


「二人はここに残ってくれ。俺が龍神族のテリトリーを離れてから外に出てもらう」


 ツバサは単独行動したほうが、竜神族に見つかる危険性が少ないと思った。


「お兄ちゃん、罠にかかったのは誰かな~」


「わたし達がいたほうが安全ではないでしょうか?」


「うう……、反論できない自分が情けない……」


 ツバサが罠にかかったとき彼女たちがグラン邸の外にいれば、罠から逃れることができただろう。しかし、今は単独で行動したほうが発見され難いはずだ。


「それならば、フェルが一緒に来てくれ。探知魔法を使わなくても五感で敵の存在がわかるだろう?」


「もちろんよ。それに、戦闘力もクラウより高いしね」


「フェルさん酷いです。わたしの戦闘能力を知らないくせに!」


「今回は譲ってくれないか、クラウ」


「し、仕方ないですね。危なかったら呼び出してください」


「いや、戦うつもりはないから」


 少なくとも龍神族のテリトリーで戦うのは得策ではないだろう。

 ここは忍者のように隠密行動するほうが正しい。


「でも、見つかったらどうしますか?」


「結界の外で見つかる分には問題ないんだけどなぁ……」


「何も作戦はないようですね?」


「だからぁ、そこは出たとこ勝負なんだってば」


「まあ、いいでしょう。お待ちしています」


 ツバサはクラウが段々過保護になりつつあるような気がしていたが、そこはのらりくらりと躱すことにした。

 そして、グラン邸の扉を開いた。


「誰もいないな、フェル?」


「大丈夫よ、お兄ちゃん。人の気配はしないわ」


 フェルを先頭にして、二人はゆっくりと外へ出た。


「壁の穴がでかくなってる。出入りはしやすくなったけど、何があったんだ?」


「爆発系の魔法を使ったみたいだね」


「グラン邸があるのは別次元だからな。どんな魔法を使っても干渉することはできない」


「でも、今は外にいるから警戒しなくっちゃ」


「そうだな。檻の外に出るぞ」


 フェルは鉄格子の扉を開けて外の様子を伺い、忍び足で外に出た。ツバサもその後に続いた。

 ツバサたちが予想したとおり、看守さえもいない。この区画には他の囚人は収監されていないようだ。

 そして、出口らしき方向へと二人は向かった。

 この牢獄は地下の岩をくり貫いて造られているらしく、陽の光は全く差してこない。

 壁に設置された魔導ランプの明かりだけが頼りだ。

 二人は長い階段を登っていく。そして頑丈な扉に突き当たった。


「ここが最後の扉みたいだな。陽の光が拝めればいいんだけど」


 フェルが扉を開けて外の様子を伺っているのだが、様子がおかしい。しきりに鼻を鳴らして外の匂いを気にしている。


「どうしたフェル。何か気になるのか?」


 ツバサが小声でフェルに訊いた。


「人の気配がしないの……」


「それならいいじゃないか? 何か問題でもあるのか?」


「不自然じゃないかな?」


「フェルは心配症だな」


「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん!」


 ツバサはフェルの制止も聞かず、周囲を伺いながらゆっくりと外に出た。


「三日ぶりの太陽だ」


 ツバサは眩しそうな目で振り返る。

 そして扉の上に二人の人影を見つけた。

 逆光なので誰か判らない。


「あのな〜、お前バカだろう、兄弟。脱獄は深夜にするものだぞ」


 一人はツバサの世話をしてくれたオリヴィエだった。


「う、うるせ〜」


 そしてもう一人の影が言う。


「どうよオリヴィエ。わたしが言った通りになったわね」


 その影は龍神族の戦姫、シャルロットだった――


(ど、どうしたらいい。とりあえず時間稼ぎだ)


「深夜なら見つからなかったと言うのか?」


「見つかるさ。でも深夜に実行するのが脱獄の常道だろう」


「それならどうしろって言うんだ?」


「大人しく待っていればよかったのよ!」


 シャルロットが痺れを切らせたように怒鳴った。


「わたしはね、調査が済んだらあなたを、いえ、あなたたちを解放するつもりだったの。それなのに今は脱獄犯になったわけ」


「囚人から脱獄犯に格上げか?」


「いや、下がってるから。思いっ切り下がってるから! あんたバカなの? 大バカなの?」


 シャルロットはツバサを指差して喚き出した。


「お兄ちゃん、どうするの?」


 フェルが耳元で囁く。


「脱獄犯らしく逃げよう!」


 ツバサとフェルは近くに見える森に向かって全速力で逃げ出した。

 まさに出たとこ勝負だった――

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