第37話

「ところで、あなたたちの力がなぜあるか知っていますか?」


「え?生まれつきの能力とかではないの?」

「俺も体質のせいかと思っていました」


 カオリさんは顔を横に振る。


「あなたたちの力には明確な目的があります。その目的のために力は発動しているのです」

「目的?」


「ええ。それはとてもシンプルなものです。『幸せになりたい』という目的。人が誰もが抱く願望です。あなたたちはその願望を力で叶えようとしている」


「そんなつもりはないんだけど?」

 凛が不思議そうに首をかしげる。俺だってよくわからない


「自覚がないのは当然です。その願望は常に持っているもの。願うこと自体が常識となってしまっているのですから」


「なるほど……? 言いたいことは分かるような分からないような……。つまり力を使って幸せになろうと無意識にしているわけですね?」

「そういうことですね」


「それでいくと、凛の『異常に運がいい力』も幸せのため、俺の『異常に運が悪い力』も幸せのため……。凛の方はまた納得いくような気がしますが、俺の方は、幸せとは直結しないような気がするのですが……」


「それは、智樹様の『幸せ』の考えに原因があります。あなたにとって『幸せ』とは何ですか?」


「それはまぁ、家族や友達と一緒に笑いながら生活することじゃないですか?」


「なるほど。大まか予想通りですね。あなたの『幸せ』の定義では、周りの人も幸せにならなくてはいけない。家族や友達が幸せなことが前提となってしまっているのです」


「それが普通だと思うんだが?」


「そう考えていることが、最大の原因だと言えるでしょう。あなたは自分の幸せの前に、まず周りの人の幸せを願う。周りの人が幸せじゃないと、あなたの『幸せ』にならないから。ただ、人を幸せにするというのは難しいものです。人助けをするにも、人助けが必要な場面に遭遇しなければいけない。そうめったに、その機会は訪れないでしょう。ですが、人が幸せだと感じるのは、助けてもらった時だけではありません。何かの勝負ごとに勝った時にも、人は幸せを感じます。勝負事は日常生活のなかでいたるところに散りばめられています。人助けをする機会より断然多いでしょう。」


「なるほど…。つまり俺がそこで負けることによって他の人が幸せに近づくというわけか」


「そういうことです。そのためには運が必要だったのです。わざと負けると逆効果になってしまいますからね。対戦相手は、自分が嘗められているのではないかと考えてもおかしくありません」


「そんなつもりは、まったくなかったんだけどなぁ」


「ええ、さっきも言いましたように、この能力に自覚はありません。無意識に力を発動しているのです」


「まだ、なんとなくしかわからないが、つまり俺は『他人を幸せにするために自分を不幸にしている』ということ……なのかな…?」


「はい。まぁ、そんな感じで大丈夫です」


「あれ、ということは凛は俺とは『幸せ』のとらえ方が違うのか」


「もちろん。凛様の考え方は全く違います。人の数だけ考え方もあると言われていますからね」


「凛はどんな風に考えているんだ?」


「そんなの簡単よ!『自分の幸せが第一』よ!当たり前でしょ!」



 なるほど。凛らしい考えだ。確かにその主義だったら「異常に運がいい力」が発動しそうだ。



「では、そろそろ、なぜこの事件が起きたのか説明しましょう」




「この事件は、凛様の1つの願望から始まります」

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