第5話 行の最初と最後に入れてはいけない文字がある
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③ 行の最初と最後に入れてはいけない文字がある。
「……次は『
「……禁則文字?」
特に時間を指定していなかったが、きっちり『三分』の区切りをつけた彼女は彼の腕から離れて説明を続ける。
言葉を受けた彼は項目を眺めながら聞き返していた。
「うん……これのことを禁則文字。正確には『行頭禁則文字』と『行末禁則文字』って言うみたいなんだけどぉ~」
「へぇー?」
項目を指差して言葉を繋いだ彼女。そしてメモ帳に『行頭禁則文字』『行末禁則文字』と書き綴る。
文字を眺めながら感嘆の声を漏らす彼なのであった。
「まぁ、簡単に言っちゃえば……」
彼女は再びメモ帳へと文字を書き記す。
『行頭禁則文字』……行の頭に句読点は入れない。音引き、疑問
『行末禁則文字』……行の最後に始め括弧は入れない。分離禁止文字も同じ。
「こう言うことらしいよぉ~」
「なるほどな……」
そして書き終えると、視線を彼に移して声をかける。
その言葉に彼も視線を上げて彼女に向かい相槌を打つのだった。
「だけどね、お兄ちゃん……」
「ん? また何か補足があるのか?」
しかし、その直後に紡がれた彼女の言葉に聞き返す彼。
彼の言葉を受けた彼女は頬を赤く染め、ゆっくりと口を開く――
「我が家の『お兄ちゃん禁則文字』に『私との結婚』って文字は含まれないから、受け入れても何も問題はないんだよぉ~?」
「……あー、うん……とりあえず小説には関係ないから、俺の頭に入れなくていいよな?」
「ぷぅ~」
のだが、完全な願望でしかない蛇足だったのである。
そんな彼女の言葉を呆れた表情でスルーした彼に向かい、頬を膨らます彼女であった。
なお、句読点とは『、』を読点。『。』を句点と言い、二つの総称が句読点なのである。
疑問感嘆符とは『?』を疑問符。『!』を感嘆符と言い、二つの総称が疑問感嘆符なのである。
音引きとは伸ばす音。つまり『スルー』の『ー』の文字。
分離禁止文字とは三点リーダ『……』や、ダッシュ『――』のこと。
基本二個を一セットで使われる為に、行末と行頭に分けてはいけないと言うことである。
そして括弧は理解できるだろうが、すべての括弧――その始まりを行末に、終わりを行頭に入れるのを禁じているのである。つまり。
行頭で区切らず。行末で
そう言うことなのだろう。
ただし、これは手書きで小説を書く場合には
ネットやPCなどの
「ま、まぁ? ……それは心の奥に刻み込んでおいてもらってぇ~」
「すまない、注文ミスですりつぶしてしまったわ……」
「ぷぅ~」
教える使命感を思い出したのか、冷静を取り繕うように言葉を繋げた彼女。とは言え、結婚は諦めていないようだ。
そんな彼女の言葉をまたもやスルーした彼に向かい、頬を膨らます彼女であった。
「もういいや……それでね? この禁則文字なんだけどぉ~、PCで書いているなら特に気にしなくても大丈夫なんだよぉ~」
「え? いいのか?」
彼女の続きの言葉に驚きの声を発する彼であった。
とは言え、もしかしたら彼は心の中で彼女との会話を楽しんでいたから、それを諦めたことについても口にしていたのかも知れないが、彼女は諦めモードの為に気づいていないのだろう。
「もちろん『全部が』ってことじゃないんだろうけどぉ~、だいたいのエディターには自動で変換してくれる機能があるんだよぉ~」
「エディター?」
「文書の編集プログラムだねぇ~♪ お兄ちゃんの場合だと……ウィンドウズの『ワード』だよぉ~♪」
「なるほど……」
そんな便利な機能があったのか――彼はそんなことを考えながら相槌を打っていた。
しかし、そもそも禁則文字を知らなかった彼にとっては、最初の段階からして寝耳に水だと言えよう。
「だから、特に気にしなくても問題ないんだけどぉ~、覚えておいて損はないと思うよぉ~♪」
「あ、ああ、そうだな……」
彼女の満面の笑みを添えた説明に苦笑いを浮かべて答える彼。
そう、覚えておいて損はないのである。
何故ならば、手書きはもちろん――自動で変換されない場合も存在する。
彼女の言った「特に気にしなくても問題ない」とは、あくまでも『エディターで機能されている場合』の話である。
それも全部とは言い切れないのかも知れない。否、統計不足によるものなので全部のエディターで機能されているかも知れない。
とは言え、PCなどにはエディター以外の文書プログラムが存在する。それが『メモ』である。
他は調査不足であるがウィンドウズのメモには禁則文字の処理は設定されていない。
小説を書く人の中にはエディターを使わずに、メモで小説を書いている人もいるのだと言う。
と言うよりも、彼はメモで小説を書いているのであった。
つまり、変換をされないメモで書く以上、覚えておかなくてはいけない項目なのだと思われる。
そう、覚えている上で機能されているのであれば問題ないのだが。
覚えていない上では機能されていないことになど気づけないのだろう。手書きであれば、知らずに禁則を犯すことになるのである。
「……そして、我が家の『お兄ちゃん禁則文字』も覚えておいて損はないと思うよぉ~♪」
「……いや、得する気もしないんだが……まぁ、一応覚えておくとするか……」
「わぁ~い♪ ……むふふぅ~♪」
彼が理解を示したのを確認した彼女は、再び自分の願望を言葉にしていた。
そんな彼女に、苦笑いを浮かべながらも
そもそもの話。
彼女が彼に結婚を申し込んでいるのは一年以上も前からなのである。
だからこそ彼女が「心の奥に刻み込んでおいてもらって」と言ったのに対して、「すりつぶしてしまった」と答えたのだろう。
もう彼女の結婚の申し出は心に刻むべき話ではない。
彼にとっては、すりつぶして全身に
つまり覚える覚えないの時点ではなく、すでに『彼の生活の一部』となっている彼女の申し出。
「何を今更? わざわざ言わなくても忘れられないんだけどな?」などと心の中で思いながら答える彼であった。
彼の言葉を受けて嬉しそうに微笑みながら、彼女は再び腕に絡まっていた。
一応、項目の説明を終えたのだろう。区切りの意味なのだと思われる。
さすがに彼も慣れたのだろうか、何も言わずに彼女を受け入れていた。
そして再び、しばしの休憩に入った二人はジュースとお菓子を
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