第18問 どういう意図があった?


 中学2年、2学期。

 期末テストも終わり、冬期講習が目前に迫っていた中。


 僕はテントリに行く度に、狐塚塾長や勇気先生に呼び出しを食らい、二者面談をしていた。


 授業後、生徒がほとんど帰った時間。

 今日も今日とて、僕はテントリの空き教室に連行されていた。


 やれやれ、これじゃ僕が犯罪者みたいじゃないか。


「勇気も頑固だな~」


 被疑者である僕の前の席に座り、尋問を続ける警察官もとい勇気先生が呆れたようにそう言った。


「狐塚先生にも言いましたけど、国語なんてやっても意味ないですよ!」

「いや、冷静になれって勇気」

「だって……点数上がらないじゃないですか」

「だからこそだよ。点数を上げるために、今国語をあきらめちゃダメだ」


 なるほど、そういう考え方もあるのか。

 でも、あきらめないでやった結果が、今までの僕の国語の点数だ。


 80点台を超えた試しなど一度もない。


「国語は他の教科にも通じてるんだ。分かるか、勇気? 数学とか社会とかの文章問題解くときにも読解力は必要だろ?」

「その程度の読解力なら、もう備わってると思います!」

「ははははは! 言うね~」


 勇気先生は腹を抱えて笑い出す。

 自分でも今のは調子に乗り過ぎたと思う。

 けど、考えるを変えるつもりはない。


 もう国語はいい。あれはダメだ。


 作者の気持ちなんて知らんし、どうでもいい。


 出題範囲の漢字と慣用句、ことわざをちゃんと覚えて、あとはそれなりに解けばいい。


 登場人物の気持ちを察したり、作者の思いを汲み取ったりするのが国語のテストで求められる能力なのかもしれないが、僕からすればただの暗記テスト。

 暗記すればそれなりに点は取れるが、高得点は望めない教科である。


 僕は時間を有効に使いたいんだ。


 1年後には高校受験も控えてる。

 使える武器をとことん磨いた方が、最終的に総得点UPに志望校合格に繋がるはずだ。

 

 だというのに……。


 しっかし、僕が言うのもなんだけど、テントリの先生たちも譲らないなぁ。

 このままじゃ平行線だ。


 すると、先程まで散々笑っていた勇気先生が、気を取り直してこう言った。


「分かった。じゃあ、今度の国語のテストで80点以上取れなかったら、もう国語はやらなくていい」


 なんだって!?

 今、もうやらなくていいって言ったのか?


「これは俺だけじゃなくて狐塚先生たちとも話し合って決めたことだから、テントリ講師陣の総意だと思ってくれて構わない。」


 そ、そこまで言わせといて悪いけど、え、いいの?

 塾の講師って立場で、そんなこと言っちゃって大丈夫なの?

 ほんとにやめるよ、国語?


「……言質は取りましたよ」

「テントリの先生に二言はない。大丈夫、勇気なら取れるよ」


 ちょ、ちょっといきなりなんですか!?


 不意打ちで飛んできた称賛に軽く動揺する。


 大した自信だ。


 ……まさか、なにか秘策があるのか?

 僕に国語で80点以上を取らせる方法が。


「分かりました。次の冬期講習、国語取ります」

 

 自分でもうやめる、捨てるとまで言っておきながら、しかし僕はもの凄く期待で昂っていた。


 現金な話だけど。

 国語でいい点が取れるのに越したことはない。


 いくら他の4教科で100点満点を取れたとしても、国語が60、70じゃ1位は難しいのだから。


 何より、前回のテストで国語で90点以上取っていた武蔵を逆転するには、国語の弱点克服は必須なのだ。


 そういうわけで、僕は冬期講習で国語を受講することになった。


 そして冬期講習の国語の授業中。

 僕はサナミ先生の言葉を一字一句聞き洩らさまいと集中して耳を傾け、サナミ先生をガン見しながらも手を動かしてメモを取る。


 何だか急に、国語でも点が取れそうな気がしてきた。

 今までにないくらい、やる気に満ち溢れている。


 身体が軽い。頭もクリア。こんな気持ち初めてだ。もうなにも怖くない!


 この授業を受ければ、いい点が取れるんだ!


 僕はそう錯覚していた。

 テントリの先生たちの掌で踊らされているとは知らずに――


 そして冬期講習を終え、迎えた中学2年、3学期。

 2年生最後の期末テスト。


 国語――74点。


 どういうことだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る