第3問 好きな教科と苦手な教科、どちらから勉強する?


 先の中間テストの悪夢が昨日のように思い出されるが、次の期末テストはすぐそこだ。


 しかし!

 今度のテストには自信がある!

 だって、今回のテストは全然勉強してなかったから!


 テストの一週間前から部活は休みになったけど、帰ったらパワプロやってたし。

 ここ出すよ、って先生が言ってたところも暗記してなかったし。

 こんなにやる気がなかったのは初めてだ。


 ということは――


 勉強すればこれ以上、下には下がらない……!


 今が一番悪い状態だ。底辺だ。

 カズを見習ったわけじゃないけど、テスト結果が出た直後の絶望感はもう――ない!


「なんかさ、たまに捻り潰したくなるんだよね、ヒッシーのそういう楽観的なところ」


 と、教室前の廊下でとんでもないことをさらっと言ったのは、隣のクラスの章宏あきひろだ。

 テニス部で、少し大人っぽい見た目で、あと背が高い。

 テストの合計点せんとうりょく、400点越えは当たり前の《400保持者ホルダー》だ。


 って、いきなりどうした、章宏!?

 勉強のし過ぎで、気をやってしまったか!?

  

「いや、前から思ってたよ?」

「暗いなー、章宏くんはー」

「ヒッシーもいずれ分かるよ」


 廊下の窓から隣の敷地にある高校を眺める章宏。


 黄昏たそがれていらっしゃる。

 なにかあったのかな? 

 今週のジャンプで好きなキャラが死んだとか?


 章宏とは小学一年生からの付き合いで、その頃から周りより大人びた感じのやつだった。

 たまにふざけて一緒に馬鹿やったりするけど、他の友達とは話し方や雰囲気がちと違う。

 こいつと話してると脳が活性化? するのか、頭が痛くなる。


 例えるなら、数学の問題で何か閃いたときに、使ってない血管にどばーって血が流れ込む感じ。まあ、そんな経験したことないけどね!

 

 章宏は僕に言わせれば否定的で後ろ向きなスタンスだ。いや、現実的なやつなのか?

 正直、話しててたまにむっとなるときがある。


 でも、そんな章宏は僕よりはるかに勉強ができる。

 これは事実だ。


 210点がいくら喚いたところで、《400保持者ホルダー》には届かないだろう。


 だから…………勝つ! テストで、お前に!

 

 そしたら、僕の言ってることにもちょっとは聞く耳を持つだろう。



     * * *



 テストで章宏に勝つために……ってのは主目的がじゃないけど、

 次の期末テストでいい点を取るために、やることが一つあった。


亮人りょうと!」


 教室に戻った僕は、クラス随一の秀才に声を掛けた。

 小柄で色白でイケメンの亮人は、この第一学年で五人しか存在しない常時450点越えの一人だ。

 その優れた功績を称え、《五神かみファイヴ》と呼称されている。


 てか、今気付いたけど亮人とダブルスコア以上点差あるのか。なんか変な笑いが込み上げてくる。


 閑話休題。


 本題突入! 単刀直入だ!


「社会のテスト勉強ってどうやってる?」


 僕はこの学年に君臨する《五神》を前に、恐れ多くもそう訊ねた。


 社会は全教科中唯一の59点以下を取ったことがない。僕の得点源だ。

 でも、先の中間テストでは初めて平均点を下回った。


 お婆ちゃん子だった僕は、小学生の頃から大河ドラマや歴史関連の番組をよく見ていて大好きだった。

 小学生の頃は歴史のテストで満点を取ったことがある。


「小学校のテストなんて満点取れて当たり前でしょ」


 って、姉ちゃんからも章宏からも言われたけど。けっ!


 と・に・か・く!

 社会だけは勉強する気に満ち溢れているのだ!

 根拠はないけど、社会ならいい点数を取れそうな気がするのだ!


 亮人なら、社会の勉強の仕方を心得てるはず――


「社会? ノートと問題集かな。あと、教科書は読んだ方がいいよ。出るから」


 しかし、亮人の回答は拍子抜けするようなものだった。


 え、なんか凡人には到底思い付かないような半端ない勉強法があるのかと思ったけど……。


 と、一瞬気が抜けかけた僕に、亮人は続けた。


「それと資料集も一応見ておいた方がいいよ」


 …………?


「え、それって結局、全部やれってこと?」

「うん」


 うんて。


「社会は暗記だから、出る可能性があるものは一通り見とかないと」

「いや、でも、それじゃ他の教科の勉強できな――」

「一ヶ月前から準備すれば間に合うよ」

「いっ――!?」


 一ヶ月前!?

 テスト勉強ってそんな前からやらないといけないの!? 


 驚天動地。

 衝撃の事実だ。


 な、なんか社会嫌いになりそう……。

 スポーツの強豪校に入って、スポーツ嫌いになるみたいな……でも。


 でも、社会でいい点取りたい!

 もう210点は嫌だ! 157位は嫌だ!

 だから……だから……、


「俺はパワプロを我慢するぞ、亮人!」

「適度な息抜きは必要だよ」

「ですよね!」


 三秒で決意が揺らいだ。



     * * *



 クラスメイトの《五神》こと亮人師匠からアドバイスを送られた後。 

 期末テスト、一ヶ月前のある日。


「す、すごい、全然頭に入ってこない……!」


 帰宅後、自室で教科書とにらめっこしていた僕は唖然とする。


 勉強している科目は歴史。

 テストで一番点が取れるエースで、勉強嫌いな僕でも「まあ、ちょっとやってみようかな」と思う面白い教科だけどこのザマだ。


 やっぱなんとなく読んでるだけじゃダメだな。

 結論、教科書をぼけーっと読むだけじゃ頭に入ってこない。


 学校から配られた問題集は勉強してる感があるし、実際覚えられるからやる気が出るけど、どうにも読むだけってのは……。


 なんかこう、ゲームで遊んでるときみたいなドキドキ感が欲しい。

 あ、そうだ!


 僕は机の引き出しをがさごそと漁り、白の画用紙を一枚取り出した。

 そして画用紙をハサミで切り、小さく切った画用紙の一辺にセロテープを張り、教科書に張り付ける。


 教科書の文章中にある大事な用語――黒い太字を隠すために。


 当然、画用紙で隠れた重要な語句はめくらなければ見えない。

 画用紙だから透けることもない。


 退屈だった教科書が一瞬で文章問題に生まれ変わった。


 これで画用紙で隠した暗記必須の用語を覚えられるし、教科書を読むことでその時代の流れまで意識することができるようになった。

 この事件はどうして起こったのか。その前後で何があったのか。


 点としてしか捉えられていなかった用語が繋がって、線になる。

 

 この発想のヒントになったのは、テスト前の教室で見かけた赤いシート。

 それを翳すことで赤文字が消える、というポピュラーな代物だ。


 よし、これなら!


 おらぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 教科書を読みながら画用紙で隠した語句を言い当てる。

 間違えたら、その語句を隠す画用紙の近くに星マークをつける。

 間違えば間違うほど、星マークが増えてその語句をより意識できるようになる。覚えようって気になる。


 このページの問題数は6! 

 今回は5問正解だから、5/6か!


 僕は教科書の余白に「~月~日 5/6」と書き込む。


 よし、前回の4/6超えられた! 僕の勝ちだ!


 そんな感じで僕は好きな社会を楽しく勉強し始めた。


 そして、迎えたテスト本番でも結構出来たかも、という手応えを得ることができた。


 期末テスト終了から数日。

 社会のテストが返却される日がやってきた――



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