闇の中に驚愕

 まずは暗闇が広がる。


 アタエの発動。

 H-20-W『ブラックアウト』

 1分間、全ての生物は視界を失う。


 戦闘開始と同時に互いが互いを見失った。この状況においては、相手の位置はおろか相手の発動した能力まで隠され、試合はいかに相手の正確な位置と状況を捉えるかという勝負になってくる。無論、この状況を自ら作ったアタエは最初からその解答を用意していた。


 アタエの発動。

 C-08-G『番犬』

 戦闘用の犬を召喚する。


 嗅覚を使って対戦相手を見つける犬ならば、暗闇も何の事はない。更に、アタエはもう1つの能力を発動し、『番犬』に仕掛けを作る。


 その気配と僅かに聞こえた鳴き声から『番犬』が召喚された事に気づいたヒメカは、召喚された犬に居場所を察知されない為にこの能力を発動する。


 ヒメカの発動。

 H-25-F『デュラハン』

 頭部を破壊不能状態にし、胴体から分離する。


 ヒメカの肉体が2つになれば、当然そこから発せられる匂いも2つに分離する。ヒメカは自身の頭部をその場に置いて一旦距離を取った。「攻めろ」という指示を受けたアタエの『番犬』も少し混乱したが、片方に向けて走り出した。


 直後、爆発が起きた。


 アタエの発動。

 A-23-I『タイムボム』

 小型の時限爆弾を召喚する。


 アタエが発動していたこの能力によって、召喚された『番犬』は爆弾を咥えさせられていた。言わば特攻専用の爆弾犬。だが、爆発したのはヒメカの胴体ではなく、無敵状態である頭部の方だった。『番犬』の身体が吹き飛ぶ。それでもまだかろうじて息はあったが、ほんの数秒後には全身からの出血で死ぬ事は確実だった。


 何とかアタエの初撃を防いだヒメカではあったが、とはいえアタエ本体の場所を把握した訳ではない。アタエがこれから用意する次の爆弾犬が次もはずれを選んでくれる確証はなく、至近距離で『タイムボム』が爆発すれば命の保証もない。


 闇の中、2人が足音を殺して移動しながら少しの時間が経過する。


 『番犬』と『タイムボム』のインターバルが同時にあける。まずは『番犬』を召喚し、再び20秒に設定した『タイムボム』を咥えさせる。全て暗闇の中での作業であり、アタエが警戒しているのはヒメカの接近だ。もし近くにいた場合、爆発に自分も巻き込まれる可能性がある。メンターからの指示で、召喚後10秒は間をあけて攻めるようにも言われている。よって、アタエはごくごく小さな声で番犬に「ついてこい」という指示を下し、先ほどの爆発地点から距離を取る。


 その時、アタエの予想外の出来事が起こった。

 暗闇の中、1匹の生き物がこちらに向かって来ている。ヒメカが召喚した別の生物かと最初は思ったが、近くまで来てそうではない事に気づく。


 その生き物の正体は、先ほどアタエが召喚し、自爆させた『番犬』の1匹。ついてこいという命令に反応して、アタエの所に戻って来てしまったのだ。


 しかしそもそも何故爆発で重傷を負ったはずの犬が生きているのか、答えはヒメカが数十秒前に発動させた能力にあった。


 ヒメカの発動。

 A-17-T『ヒール』

 触れた生物の傷を治す。


 爆発によって顎を吹き飛ばされ、四肢を捥がれ、あと数秒で死ぬ所だったアタエの『番犬』をヒメカは治していた。そして『番犬』の身体にはヒメカの分離した頭部が噛み付いており、その状態でアタエの所に戻ってきてしまった。


 ヒメカの発動。

 C-09-B『アミニット』

 1分間、身体能力を強化する。効果が切れると同時に死亡する。


 アタエのいる位置を特定したヒメカが暗闇の中を走る。それに気づいたアタエは、『番犬』達へ新たに「攻めろ」という命令を下す。ヒメカが『アミニット』を発動している事は知らなくても、近づかれればまずいと判断したのだ。『番犬』がヒメカに噛み付いたが、強化された肉体はその攻撃を無視して既に居場所の割れたアタエに一直線に突き進む。


 そしてついにヒメカがアタエを捉えた。2匹目の『番犬』が召喚されてからここまでがジャスト30秒。試合開始からはジャスト1分。よって『ブラックアウト』の効果時間も切れ、2人が視界を取り戻す。と、同時に2つ目の『タイムボム』が起爆する。


 ヒメカとアタエの身体が反発するように吹き飛んだ。暗闇の中、ヒメカの無敵の頭部は番犬が咥えていた『タイムボム』を落とした瞬間を聞き逃さなかった。ヒメカは攻めにいくと同時にそれを拾い、逆に利用したのだ。先ほど『番犬』を利用したのと同じ手だった。


 損傷具合は肉体が強化されている分ヒメカの方がマシだった。そしてヒメカには、インターバルをあけた『ヒール』もある。しかし残念ながら、先ほど『番犬』を癒した時の慈悲は、アタエに対しては持ち合わせてはいなかった。


 決着。

 ヒメカの勝利。



 参加メンター

 ヒメカ 百足陣三郎様

 アタエ 滝杉こげお様


 感想

 今回はヒメカ側の作戦は新規で、アタエ側の作戦は以前にも使用された物です。爆弾犬はなかなかえげつなくて個人的に気に入っていたので、再登板していただきました。あくまでも新規参加者さんと新規作戦優先ですが、ストックが無い場合は過去の物を再利用していきたいと思っています。

 試合に関しては、ちょっとヒメカのアドリブが強すぎて申し訳ないなという感じです。どうしても「相手の能力を逆に利用する」系の展開になると、書かれていない行動を取ってしまう形になってしまいますね。メンター様からすれば事前に相手の能力が分からない以上仕方ないという部分なので、そこは少女の機転が効いたという事で納得して頂ければ幸いです。

 ご参加ありがとうございました。またよろしくお願いします。

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