第13話 リコの昔語り

 の話? 照れるじゃん。ま、いーけど。


 ボクはね。こっからだいぶ遠い迷宮に流れ着いたんだ。

 まあ、けっこう前の話。それでいーじゃん。突っ込むの禁止ね?

 OKオッケー


 で、知っての通り、ボクすっごい頑丈だし強いじゃん?

 迷宮で拾われて、地上出るなり、速攻で売られたね。ん、人身売買人身売買。


 そう。そういう可能性もあるってこと。

 なにしろボクら、売ってるモノしか食べれないじゃん?

 大丈夫大丈夫。ここじゃ酷いことは滅多ないし。


 で。

 あっちこっち転売されたりして、最後、仕事で無尽迷宮ここに来たのね。


 それで、仕事の真っ最中にエイジローと出会ってさ。もう一目惚れだよね。

 あなたの子供をくださーい! ってなもんで。

 それから組んで仕事を始めて、今って感じかなー。


 え。わかんないって? しょーがないなあ。

 もすこーし、詳しく行こうか。


 ボクの昔いた世界ほしはね、ずっと戦争をしてたんだ。

 で、えんえん戦争続けて、何もかもメチャクチャになっちゃった。


 最初は核ミサイルとか衛星兵器とか、すごいのでやりあってたんだって。

 それが間に合わなくなったら、もの作るのに使ってたプラント流用りゅーよーしてさ。

 生物バイオ兵器。怪獣かいじゅーだよ怪獣かいじゅー。そうそう、技術は進んでたんだよねー。

 迷宮にいるモンスターみたいなやつじゃん? ボクは見たことないけど。

 だって、ボクが生まれたころには、みんな死んじゃってたからさ。


 でも、最後はとうとう、資源もほとんどなくなっちゃってさ。

 地上も出歩けなくなるくらいめちゃくちゃにしちゃってさ。

 地下都市にみんな引きこもってさ。

 巨大生物兵器だいかいじゅーなんて夢のまた夢。

 拳銃ピストルの弾ももったいないようになって、ようやく気づいたんだって。


 もう、まともな戦いなんてやってられる状態じゃない、って。


 で、ボクが生まれたわけ。ボクとか、似たような連中がさ。


 幼体成熟ネオテニーって知ってる?


 知らないか。子供の姿で成長が止まっちゃうっていうの。

 うん、それのうーんとえげつないやつね。たぶんだけど。


 ボク、ってーかボクらはそういうふうにんだよね。

 効率よく他のくにに忍び込んで、効率よく人を殺すために。


 ほら。小柄なら隠れやすいし、子供なら殺しにくいじゃん?

 で、そこに巨大生物兵器だいかいじゅーと同じ感じのを詰め込んでさ。

 ふつーのヒトは死んじゃうような、毒とか細菌兵器びょーきとかを抱えてさ。

 ちっちゃければそれだけ、育てるコストもかかんないってわけ。


 ボクらは、怪物人間シェリーって呼ばれてた。


 このへんは、ボクをつくった人たちから聞いた話ね。


 ん? あ。そうそう、ボクはもともとだったってわけ。

 だから、こっち来て売られるとかってのも抵抗はなかったなー。

 むしろ、空は明るいしごはんは美味しーしさ。良くない? そういうの。


 で、まあ、ボクはとっとと育てられて、作戦に送り出されてさ。

 何度か生きて帰って、最後は同類の怪物人間シェリーに殺された。

 トモダチ? いたよ。さきに、みーんな死んじゃったけど。


 ああほら、みかん、そんな顔しーなーいー。

 ボクはいま割とハッピーなんだってば。それでいーじゃん?

 そ。向こうにいたころより、こっちで仕事してたころよりね。

 夢が叶ったんだから。そりゃそうさ!


 そう、ボクには夢があったんだよ。

 、って。


 簡単だと思う? それがそーじゃないんだなー。


 怪物人間シェリーは体が子供で止まっちゃう。


 これ、ようにするためって理由もあってさ。

 ふえて反逆されたら困るとか思ったんじゃん? 知らないけど。


 そ。ボク、普通はどんなことやっても子供ができないわけさ。

 それがさ。エイジローひとめ見たらさ。


 あー。みかんならよく知ってるか。そりゃ。

 そうそう。エイジローってば、んだよ!

 いや、植物とかでもOKオッケーって聞いたときは正直ちょっとヒいたけど。


 でもさ、ね、これって運命だと思わない?

 ボクさ。普通なら絶対会えない、自分の理想の相手と出会えたんだよ!


 そりゃいきなり告白しない? しないかな。

 みかんチャンなら、わりかしやりそうな気がしたんだけどなー。

 そうかもしれない。あはは。そうそう、素直でよろしー。


 で、それから一緒に迷宮山師の仕事はじめてさ。

 それから、だいたい一年ちょっとになるかなあ。


 だからさ。エイジローはボクにとって、ほんとに運命のヒトってわけ。


 みかんの世界でひどいことしてた、としてもね。


 ん、そういう話じゃない? ごめんごめん、気にしてるかと思ってた。


 じゃーこれも、勘違いってことでいいけどさ。

 前の世界でどーとか、そういうのは疲れるだけだよ。


 だってボクらは、から、ここにいるんだものね。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 頭の中がぐるぐるして、リコをなんとなく抱きしめて、気づけば朝だった。

 もっとも、みかんがそれをと気づいたのは、だいぶ後になる。

 大工場の低い唸り声と熱、それに張り巡らされた異法角灯ランタンの灯り。

 これを一日の始まりと認識するには、しばらくの慣れが必要だ。


 扉から流れ込んでくる、ひときわ大きな工場音に目を開ける。

 顔をあげると、戸口の家主と単眼と目が合った。


「おう。おはよう。初日にしちゃ、思ったより早いな」


 エイジローは、手鍋パックが山盛りの木箱を背負っている。

 昨日、ヒメから何か、神社の御札みたいなお金を大量に受け取っていた。

 それで食料を買い足してきたのだろう。何しろ扶持ぶちも増えるのだ。


「あッ、ありがとうございます! ごめんなさい、手伝えなくて!」

「ああ。構わん構わん。リコのお守りしてくれてただけで上等だ」


 単眼の前で偽足を手のように振り、エイジローは木箱を部屋に下ろした。


「奥に運んでくれ。それは頼めるか?」

「はいッ」


 布団から飛び出す。

 軽く放り出されて、抱きまくらのようになっていたリコが身体を起こした。

 目をこすりながら、のびをする。


「ふぁー……。おはよー」

「おう。おはよう。ところでなリコ。知ってたか」


 木箱を抱え挙げかけて、ふと手を止める。

 みかんはエイジローの単眼が、器用に真剣な色を宿しているのに気づいた。


剪刀せんとう騎士が街に入った。上は大騒ぎだ」


 その耳慣れぬ名を、みかんがだと知るのは、直後のことである。

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