灰色の世界で見える赤色

@museruhito

灰色の世界

どうしてこんな事になってしまったのだろう。そう思っても、今現状どうする事も出来ない。

ある日の事だ。僕は学校の寮に暮らしていて、その日は休日で学区外に居た。必要な物を買い揃えながら、散歩がてらある所に向かった。

そこは僕の思い出の場所。大樹が立っている草原で、幼少の頃、幼馴染と良く一緒に遊んでいた。小学生の時、大樹の周りに色んな花を植えてた事は記憶の中でも鮮明に憶えている。今でも色鮮やかに花が咲いて、その花は混乱している僕の心を落ち着かせる。

「レン君」

可愛らしい声が聞こえ振り返ってみると、血塗れの幼馴染が目の前に居た。左手には乾いた血が付着している包丁を持ち、右手にははち切れんばかりのスーパーの袋を持っていた。

「――――アイ」

「大丈夫? って言っても、この現状で大丈夫な訳ないよね……」

そう言ってアイは袋の中からカレーパンを取り出して僕に渡して来た。

「レン君、カレーパン好きだったよね。中学の時、昼ご飯に四つも食べての今でも憶えてるよ」

アイは昔と変わらない笑顔で僕に言ってきた。でも、その笑顔に貼りついている黒い血を見て現実に引き戻される。

「……ねぇ、アイ。その服に付いてる血は……」

「うん? 私は大丈夫だよ。そんな事より、私はレン君が苦しんでいるのを見るのが苦しいよ」

「でも、彼らは元は……」

「――私はレン君のそういう優しい所、大好きだよ? でも、今はそんな気に掛ける状態じゃないよ。それに、今の姿で居た方が、その人が辛いと思う」

突然の事だったんだ。寮に戻ると、皆が皆じゃなくなった。

今まで一緒に笑ってた友人は友達の形をしたナニカになってた。言葉は喋らず、身体は腐って爛れてて、ソレをなんて呼ぶのかはわからなかった。友達の名前? モンスター? ゾンビ? どれも呼びたくない。どれも嘘でいたい。夢でいたい。

でも、全部ホントウのコトなんだ。

僕は逃げ出した。ソレは僕を追わずに立っていた。それでいい。それでいいんだ。だけど、何故か僕の頭の中には1つの言葉が浮かんだ。

『追ってくれたら良かったのに』

それは僕の中にある悪魔の声か。それとも楽になりたい僕の本音か。どっちも考えたくはない。

逃げてる間も違うカタチを持ったソレは居た。僕はソレを見なかった。見なかったフリをした。

逃げて、逃げて、にげて、ニゲテニゲテニゲテ。

気づいたらここに居た。ここは変わらない世界だった。大きな樹。名前も忘れてしまった花々。そして、アイが居た。

「――――アイ」

「なに?」

「ずっと、変わらないでくれ……」

これはアイの言葉なのだろうか? それもわからずに口から自然に出た。

「バカだなぁ……私は変わらないよ? ずっと――――――ずっと、ダイ君の傍に居るから」

そう言って、アイは僕を優しく包み込む様に抱きしめた。それは亡くしてた温もりで、思わず涙が出ていた。

「アイ」

「ん? なに?」

「無事で良かった……」

本当に無事で良かった。数日前、アイが持って来てくれたポケットラジオには全国区で周りの人がソレになっていたという事をニュースキャスターが泣き叫ぶ様にそう言っていた。そして数分後、そのキャスターもソレになってしまっていた。

もしかしたら、もうこの世界は僕とアイだけなのかもしれない。世界で2人だけなのかもしれない。この灰色の世界で僕はアイと一緒に居るのか。

――――――――――厭だ。

アイにはこの灰色の世界に居させたくない。でも、どうするんだ? こんな灰色の世界を変えるなんて事、僕には出来ない。

「ねぇ、アイ」

「なに?」

「アイはどうした無事だったの」

なんでそんな事を言ってしまったのだろう。それじゃあまるでソレになってくださいって言ってる様な物なんじゃないのか。何で無事なんだろう。なんでヘイキなんだろう。

なんでボクにエガオを見せてくれるの?

「なんでって――――当然じゃない」

「ワタシガゼンブヤッタンダカラ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――え?

「私、レン君を愛してる。ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと――――誰よりも愛してるの。

でも、レン君は違う。私を見てくれない。いつも笑っているエガオは皆に向けてるエガオ。怒っている顔はダレにでも出すイカリ。泣いているのは自分がカナシイから泣いてるだけ。違うの、違う違う違う違う。私はアイ。愛してるの。だから、レン君に私を見て欲しかったの。私にしか見せない笑顔を見たいの。私にしか見せない怒りを見たいの。私にしか出さない涙が欲しいの。ダカラ、私、ヤッチャッタ。

全員無くしてしまえば良いと思ったの。だって、レン君は皆を自分を愛してるんだもん。だから、それを無くせばいいんだって。それじゃダメなの。皆を無くしたらその皆の為に泣くに決まってる。自分の不甲斐なさを自分に怒るんだもん。嫌だ。嫌だ厭だ否だいやだイヤダ。そんなのいやだもん。そのかんじょうも全部アイに向けて欲しいの。だから、私は考えたの。

カタチを保てば良いんだって。知ってる? 科学って人類を発展させるのも壊すのも出来てカンタンなんだよ。私のパパ、知ってるよね? 科学のエライ人なの。エライ人は働く場所の事なんてなんでもわかっちゃうの。私はね、その中で一番キケンな人を見つけたの。人がキライでキライで堪らない人を。その人はね、今街に居るカタチに出来る薬を作ってたの、それを見て、私はソレを欲しくて、ホシクテ、堪らなかったの。

欲しかったから、私はその人の喉にこの包丁のよりも鋭いナイフで刺したの。そしたら、喉と口から蛇口から出る水道水の様に血が流れて、凄く怖かった。恐くって怖くって死にたくなって来たの。でも、その時、レン君の姿を思い浮かんだの。レン君が私の為に笑って、怒って、泣いてくれるのを見たくて、アイして貰いたくて、頑張ったの。褒めてもらえるかなって思ってガンバったの。

私はその薬をスグに使った。でも、普通に使ったら私も掛かっちゃうから、考えたの。考えて考えて考えて考えて考えて考えてカンガエテ、閃いたの。私ね、出張するパパの鞄に薬を入れたの。瓶を少し開けてね。衝撃に弱いから、電車で鞄を地面に置いた時にバンッ! って割れたと思うの。すぐにアレにはならないの。1日、2日、3日って、じわじわと自分が気づかない内に知らない内にアレになっちゃうの! その後もパパは色んな国に行って、行って、いって、逝って、孵ったの。アレになってたの。

皆がそうなっていて、私はここでずっと待ってた。そしたらやっぱりレン君は帰って来た。でも、その時はアレに泣いてたの。ずっとずっと泣いてたの。

許せなかった。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。

私はすぐに包丁を持って、アレを殺して来た。レン君の友達だったアレも、ママだったアレも、知り合いだったアレも、近くのお店の店員だったアレも、いつも吠えてた隣の犬も、全部全部全部全部全部全部ぜえぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーんぶ、ころした! そしたら、レン君は私に向かって笑ってくれたの!」

――――――そんな、子供が母に向かって言う様に、いつもの笑顔でそう言って――――アイだったモノが言っていた。

ボクは何をしている? 手にナニカを持っている。そのナニカがわからない。アイだったモノはナニカわからない顔をしていた。

「嗚呼、レン君、今レン君は怒ってるんだね? 私の為だけに、私の顔を見て、ワタシに憎悪を向けてくれてる……私、ずっと待ってたんだよ? 昔から、私が悪い事をしてくれてもレン君怒ってくれなかったモン。それがやっと――――怒ってくれるんだね」

ボクはナニカに近づいていた。変な感触が手に残った。テを見てみると、ナニカなまあたたかくて、水よりもドロリとしたモノがあふれていた。

「―――――――レン君。泣いてくれるんだね。大丈夫。私は変わらないよ。ずっと……ずっと、傍に居るから」

――――――ナニモキコエナクナッタ。ハイイロダッタケシキガモドッテキタ。デモ、クモッテイテ、ハイイロノセカイトカワラナカッタ。タダ、ワカッタノハ――――


















アカイハナガサイテイル
















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