第7話 桃の花

 春が来ると咲く花と言えば、桜の花が有名です。

 子供の頃に住んでいた埼玉では、ちょうど桜の開花時期と入学式の時期が重なるため、桜が咲くのを見ると中学校の校門を思い出します。


 ここ仙台では、桜が咲くのはそれより遅く、4月の中旬ぐらいから。

 さらに、この河原には桜の木は数本しかないので、春の訪れを感じるのはその先の桃の花が咲く頃になってからになります。


「まだ花が咲いていない時期に、桃の木と桜の木の違いは分かるでしょうか?」


 近づいて見ると気付きますが、桜の木と桃の木では、枝先に付く花のつぼみの形が違っています。

 桜の花のつぼみは細長い形、桃の花のつぼみは、丸っこい形です。


 また、つぼみが大きくなって色付いてくると、桃の花のつぼみは、白かったり、ピンクだったり、紅色だったりと、桜とは異なる色合いになります。


 この河原の桃の木は、散歩道の胡桃の木を越えて、河原の方舟まで行く途中のベンチのあたりから始まり、土手の斜面沿いに十数本連なっています。


 そう数えてしまうとあまり多くありませんが、右にカーブする土手の斜面沿いなので、川の蛇行に遮られて見えなくなるまで、一面が桃の花のみの景色になります。


 川沿いの散歩道を歩いて下から見上げるのも、また、土手の上に登って斜面の桃の木の花を、枝の位置から奥の川の流れを背景に眺めるのも、どちらも美しいものです。


 北海道ほどではないにしろ東北も冬の時期が長いので、薄暗い季節が終わり河原に緑が芽吹くようになると、やっと一息つけるようになり、桃の花が咲くようになると、気がやすんで夢のような心地になります。


 何年か前、やっと桃の花が咲く暖かい季節になったと、河原でたまに挨拶をするようになった人達と雑談になり、せっかくなので、桃の花の下でお昼を食べようという話になりました。


 私などは、コンビニで何かを買って来るぐらいしか思いつきませんでしたが、散歩道の終わりから少し行った伊達政宗さんの霊廟、瑞鳳殿の近くに、柿の葉寿司を扱っているお店があるそうです。


 私は柿の葉寿司という物を、それまでどんな食べ物なのか食したことがありませんで、

 箱を開くと、柿の葉寿司とは、その名の通り、柿の葉で一つずつ丁寧に包まれた食べ物で、鯖の押し寿司のことでした。


 他の方が美味しいと味わって食べているので、美味しいと言って食べましたが、酢の物が苦手な私にはちょっと合わなかったようで、残念ながら新たな好物の発見には至りましたせんで。


 お昼を食べた後も、桃の木の下で、春の暖かな日差しを浴びてのんびりしました。

 プードルのワンチャンが寄ってくるので頭を撫でたり、ポニーが草を食べる音を近くで聞いていたり、何年か前の桃源郷での思い出です。


 桃の木の花では、ひとつ気になっていることがあって、桃の木は、同じひとつの木に、違う色の花が咲いていたりするのです。白とピンクとか、白と紅色とか。


 散歩で見ている限り、途中で色が変わっている訳ではないと思うのですが、同じ枝に違う色の花が咲く木というのは、ちょっと不思議です。

 どういう気まぐれなんでしょうね。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る