第6話 炭の火の色

 GWを過ぎた後、梅雨の訪れる前は天気の良い日が続き、崖の斜面の青々としてきた緑が、川の水の中へも移っていきそうです。


 この時期を迎えると、河原の石の遊び場へ、バーベキューに訪れる人が増え、思い思いに好きな物を飲み、好きな物を焼き、語らい始めます。


 私は毎年その光景を、なんとなく懐かしいものとして眺めていたのですが、昨年ふと急に、自分でもやってみたくなったのです。


 その頃は、まだ足が酷くは不自由で無かったので、河原の方舟の近くの、表面がなだらかで低い岩の上に荷物を置き、1人腰かけました。


 角の取れた縦長で、少し大きめの石を周りに集めてかまどを作り、着火剤を敷いた上に炭を置いて、かまどの上には金網を載せて、火を付けました。


 うちわで扇いで、炭全体に熱がいき渡るようにし、金網の上に、家で調理してきた、ピーマン、ナス、シイタケ、タマネギ、そして肉を、時間がかかりながら焼きました。


 外に明るさがあるうちに食べ終わるだろうと思っていましたが、崖の陰に陽が隠れると 、河原は直ぐに薄暗い気配を落として暗くなりました。


 そのような時刻まで河原で過ごす機会はなかなかないので、私は金網をどけて、残りの熱を帯びた炭の火が大人しくなるまで、そのまま待つことにしました。


 散歩道を歩く人もいなくなりますし、時おり川上から声が聞こえてきますが、暗い川の流れの音や、見えない草の擦れる音、その中の虫の声などが際立ちます。


 近くの炭の弾ける音を聞き、何かを思ったり思わなかったりしながら、しだいに炭の中の火を見つめるだけになって行きました。


 昔、友人とキャンプに出かけて、焚き火をした時も、火を囲んで燃えていくのを眺めていると、だんだんと静かになって行きました。


 その場に誰がいたのか、正確に思い出すことが出来ませんが、そういうことを昔したのだと、その時その場にいた友人は、きっと覚えているような気がします。


 長い時間をかけて薪が燃えていき、薪が燃えて色が変わり、黒くなった炭のなかの、緋色ひいろの光の明滅が、今でも自分の中に思い出されます。

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