第7話 志望動機

「佐藤さんは、なぜこの講座を受講しようと考えたのですか?」面接官は山口さんに対応した時と変わらぬそぶりで淡々と言った。


「以前、一般事務職で10年以上同じ職場で勤めていました。


しかし、どんどん業務内容が削減されていき不安を覚えるようになったんです。人工知能の開発が活発になったというのでしょうか?事務作業の効率化が推奨され、私の仕事がどんどんシステム化によって奪われていきました。


その為、手に職をつける事で生き残っていけるのではないかと思って受講しようと思いました。」


たどたどしい対応の山口さんの後だったせいか、思っていた以上に妙に自信をもって落ち着いた口調で話す事ができた自分にビックリした。面接官も特に言い返せなかったのか「ほぉ」と感心したように頷いた。


私の面接は特に何か具体的な質問をされる事なく、すぐさま右隣のアトピー肌の男性へと面接が切り替わった。


「中田さんは、何故こちらの講座を受講しようと思ったのですか?志望動機を教えて下さい。」


「ええ・・・まあ・・・そうですね・・・。志望動機、うん・・・あっ、すいません。(といって、汗を拭く仕草をする。)ええと、何でしたっけ?あっ、そうだ志望動機ですよね、はい・・・。


あのう、前の職場で体を壊してしまってずっと仕事していないんですけどスキルを磨いてもう一度働きたいって思っているんです。


今は病院に通院もしているんですけど、何とかもう一度働こうかと・・・はい・・・。」


仕事を辞めた原因が体を壊した事で、しかも今も通院している事まで山口さんと一緒なの?私、もしかして体の弱い男性2人に囲まれて面接しているのか・・・と思うと、何だかとんでもないような所に来てしまったような気さえしていた。


面接官は基本的に通院中の人には「どれだけ学校に通えるか」を確認しているような感じだった。とにかく、休んでもらっては困るのでその点に対しては執拗だったように思う。この二人のおかげで、どうやら私に対しては面接官の方は質問をあまりふってこなかった。


そうして、入校試験と面接は終わった。数日後、学校から「入校合格のお知らせ」が届き、晴れて私は生徒となった。


これから、今まで想像もしなかったような日々が訪れるのだろうか?新しい事を始める時は、いつだってソワソワする。私は、学校がスタートしたら着ていく私服を整理する為に、ワクワクしながらクローゼットに向かった。



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