12.三日目七谷水難事件④

「はっ。調子に乗ってんじゃねぇぞ、ホズミ。みんなは何も”言えない“んじゃなく、”言わない“だけだ。お前に同情してるのさ。優しいんだよ、みんな」


 反号令派の刺客は、すぐに馬脚を現した。じっと黙って聞いていた、やたら胸板の厚い男子だ。シャツのボタンは二つめまで外されており、緩められたネクタイがだらしない。なんか荒木飛○彦のマンガとかに出てきそう。オラオラオラオラ言いそう。

 あらやだ。この人、ちょっと不良なのかしら? やだ、怖い。……なんちゃって。本当はちっとも怖くない。こんな高校に来ているようなヤツに、そうそう大したワルなどいないし。おお。こんなことを考えてしまうくらい、俺は余裕があるらしい。なので。


「それは優しいんじゃなくてバカなのさ。相手の力量も見極めていないうちから手加減か? それで負けても文句は言うなよ」


 めっちゃ挑発してやった。ヤベ。俺、勢いがついちまってる。参ったな。これでもう後戻りは出来ないぞ。ま、いいか。物事、最初が肝心だ。

 ここでこのクラスの全員をボッコボコに言い負かし、二度と俺に歯向かえないようにしてやるぜ!

 とか思ってた俺、やっぱり調子に乗ってたらしい。この胸板厚男(むないたあつお)くん、意外と厳しいところを突いてきた。


「ふん。お前こそ、相手の力量も計らずにバカ呼ばわりしてんじゃねぇか。そっちこそ、負けても文句は言わせねぇ」


 胸板厚男(以下胸板)は、ぺっと唾を吐いて立ちあがった。みんなが「ええっ?」って顔になり、胸板に白い目を向けた。

 うわぁ。教室にツバ吐くとかありえねぇ。なにそれ? かっこいいつもりなの? それともワルぶりたかったの? お前の持つ不良のイメージ、そんなんなの?


「じゃあ訊くが。そもそも、この号令に何の意味があるっていうんだ? これはどうしてもやらなくちゃならないものなのか? もしどうしてもと言うのであれば、俺に納得出来る根拠を示せ。それが出来なきゃ、今後絶対お前の号令には従わない。そのつもりで答えろよ」


 胸板は「ビシィッ!」と擬態語を発して俺を指差した。やっぱこいつ、そのうち絶対にオラオラ言うぞ。確信。とか思ってる場合じゃなかった。


「……はい?」


 それは根源的な問いだった。無邪気な子どもに「ちきゅうって、どうして回るの?」ってくらい難しい質問で不意打ちされるのに良く似ていた。


「あ、あー。そうね。そもそもね、そもそも。そうだよね。そりゃあ、そもそもどうしてこんなことしてんのかって知らなくちゃ、やる気だって出ないよね。

 そもそもねー、そもそも。『そもさん!』『せっぱ!』は、とんち合戦のときの掛け声だよね。そもそも、これもどうしてやるんだろうね? 『せっぱ!』はともかく、『そもさん』って誰だよって感じだよね」


 俺は激しく困っていた。どうしよう。全く全然知らないし分からない。おいおい、あんだけの啖呵切っといて、いきなり撃沈されるのかよ。二度と歯向かえないようにされるのって俺なのかよ。


『高校生活、スタート直後でもうオワタ』


 あんまりにも困ったんで、心の川柳詠んでみた。ワロス。


「……答えられないようだな、ホズミ?」


 胸板が、指をぽきぽき鳴らしてる(川柳)。て、胸板に指無いだろ。想像したらワロタ。それより、まずいぞ。こいつ、スタンドを出すんじゃないだろな? もし出されてもスタンド使いでない俺には見えないから、一方的にボコられること確実。とか考えると、現実にあったらこんなに怖いものって無いのかも。


「はわぁっ。ぜぜぜぜ、絶体絶命、ですっ」


 無敵さん、指をくわえてあわわわわ。描写川柳。by八月一日。うん。これは駄作だな。と、現実逃避をしている俺に。


「はぁ、くだらん。貴様、意外と使えんな。仕方がない。私が、少しだけ助けてやろう」

「え? く、黒野?」


 細くて白い中指で、眼鏡をくいっと押し上げた黒野の、救いの船が出帆した。黒船、現る。この後、胸板は、黒船からの集中砲火を浴びるのだった。砲弾? それはもちろん“毒舌”だ!


「そこをどいてください、留守先生」


 まず、黒野は教壇へつかつかと歩いて行った。そして、そこに立つ留守先生を、傍若無人に見下ろした。


「はい? く、黒野さん? 言葉遣いは丁寧でも、なんか、凄く高圧的なような」


 思わぬところで思わぬ人からの高飛車な干渉を受けた留守先生は、素直に従えるほど納得できないでいるようだ。めっちゃ困惑してるし。


「だから何なんですか? 態度と言葉遣いを一致させろと言われるようでしたら、すぐにでもそうしますが?」

「えっと。それって、ちなみに。どっちに一致させるのかしら?」


 さすがは国語教師である。“どっちに一致”とか、何気に韻を踏んでいる。わざとじゃなさそうだけど。


「態度の方に、です。留守先生がそこをどかない場合には、さらに実力行使が一致します」

「ごめんなさい。すぐどきます」


 黒野から迸る負、というか“腐”のオーラを敏感に感じ取ったのか、留守先生はささっと教壇から降りて窓際へと駆け去った。で、なんかハムスターみたいにぷるぷるしてる。

 おおおい、黒野。お前、教師を何だと思ってんだよ? なんでそんなに強気なの? バックに怖い団体でもついてんの? 俺、こいつの正体をつかむまでは慎重に対応しようと思いました。


「さて、貴様。名前は?」


 教壇に凛として佇む黒野は、胸板に名前を訊ねた。


「ほう。勝負の前には、名を訊くか。女にしては、戦いの作法を心得ているようだ」


 胸板は形容しがたいおかしなポーズを決めている。横目で黒野を睨みつける胸板は、もうどっか俺の知らない世界に入り込んでいるようだ。


「余計なことは言わんでいい。名乗らないのであれば、貴様は『胸板』と呼ぶことにする」

「あ、ちょ、ちょっとちょっと。そんな変な呼び方やめろよ。あだ名とかになったら困るだろ、俺が」


 胸板は焦っている。でも、変なポーズは解除しない。俺は黒野もこいつの胸板に注目していたことに妙なシンパシーを感じていた。それにしても、このクラスって、もしかしてこんなヤツばっかなのかな? アクが強くて疲れるぞ。普通のヤツってどこにいんの?


「俺の名は、宗像。宗像路澪(むなかたろみお)だッ!」


 宗像と名乗った胸板は「ババーンッ!」という擬態語を、またしても自分で叫んでいた。その様に、クラスの全員が白目をむいた。無敵さんとか、口元がひくひくしてる。


「結局胸板じゃないか」

「宗像だッ! ゴゴゴゴゴゴ」


 宗像は腕をクロスさせて鬼気迫る雰囲気を表現した。ゴゴゴゴゴゴとか言ったりして。


「むぅ。私は、こんなヤツ相手に論じねばならないのか……?」


 黒野は結構シリアスだった。巻き込まれてる巻き込まれてる。お前、宗像の勢いや演出に巻き込まれてんじゃねぇかよ!

 論戦における重要なポイントは、いかに相手を自分のペースに引きずり込むかだ。この状況だと、先取点は宗像だろう。宗像め。これ、狙ってやってんだったらかなり油断出来ないぞ。


「く、黒野さんっ……」


 手をぎゅっと組んだ無敵さんは、黒野を必死で見つめていた。


「はぁ。まぁいい。どんな者が相手であろうが、私は手加減などしない」


 言いながら、黒野はくるりと振り返り、黒板になりやら書き出した。カッカッカッというチョークの音が、静まり返った教室に、リズミカルに木霊する。


「さて。これが読めるか、ホズミ?」


 書き終えて踵を返した黒野は、黒板をばんと叩いて、挑発的に宗像を睨んだ。三つ編みメガネキャラらしからぬ、不遜な態度である。うーん。こういうのって、俺の中の神聖なるイメージが穢されているようで、なんだか背徳感がある。

 え? 背徳感? 俺、委員長キャラをなんだと思ってんの? 自分の変態さを認識した瞬間だった。

 それはともかく、黒野が黒板にでかでかと書いた文字は『作麼生』というもので、俺には読めない。


「ふん。読めぬな。だが、それがどうしたという?」


 答えたのは宗像だった。広げた右手を顔に当て、妙なポーズで威張る宗像。読めないのに堂々。大変に男らしい性格だった。


「では、隣にこう書いたら読めるかな?」


 黒野は『作麼生』の隣に『説破』と書いた。


「それはッ! そうか! 『せっぱ』だな! では、最初のものはッ!」


 宗像、ここで一呼吸。早く言えよ。もうみんな分かってんだよ。「ゴゴゴゴゴゴ」とか、もういらないから。


「すなわちッ! それは『そもさん』だと言うことかぁッ! ビシィッ!」


 みんな、相当イラっときている。宗像を睨みながら貧乏ゆすりしてるやつとか、机をコンコンコンコンと指で叩いている者が大量に発生してるから。


「そうだ。『作麼生(そもさん)』とは、私が意訳すると『これでも喰らえ』となるのだが、対してそれを受ける『説破(せっぱ)』とは、『いいだろう。見事、打ち破ってみせようぞ』という意味になる。古く、門前に岩が置いてある寺では、誰でも住職に問答を挑むことが出来た。その時の掛け声がこの『そもさん』『せっぱ』なのだ」


 宗像の癇に障る話し方や態度も、黒野にはたいしたことではないらしい。冷静に語る黒野に、みんながなんとも微妙な視線を投げかけていた。

 だってさ。これ、「だから何?」って話だもんな。俺の頭の上にも、はてなが浮いてるし。


「問答を挑まれ敗北した住職は、その寺を出なければならない。そして、勝者が跡を継ぐ。その為か、血を吐き倒れる住職もいたという。『説破つまる』という言葉は、ここから来ている。本来『問答』とは、これほどに苛烈なものなのだ」

「お、おい。黒野?」


 のってきたのか、滔々と語る黒野に危うさを覚えた俺は、つい声をかけていた。


「む。なんだ、うるさい。まだ話の途中だろう」

「いや、そうかも知れないけど。でも、見ろよ。宗像を」

「なに?」


 宗像は、ただ黙って聞いていた。腕を組み、目を閉じたその姿には「語るに及ばず」といった気持ちが汲み取れた。直後、目をかっと見開いた宗像は。


「黒野。お前は、何を語っているつもりだ? 俺はッ! 『そもそも、この号令に意味などあるのか?』と訊いたはずだッ!」


 窓ガラスがびりびりと震えるほどの声量で、そう怒鳴った。

 それに対する黒野の答えは、俺からすれば信じられないものだった。もう、アホ過ぎ。黒野は、呆れるくらいに誠実だった。


「知っている。だが、それはホズミへの問いだろう? だから私はホズミの疑問に答えただけだ」

「はぁっ?」


 全員が教卓に立つ黒野へ溜め息をハモらせた。いや、確かにさ、さっき俺は『そもさんって誰だよ』とか言ったけど。


「言っただろう? 『少しだけ助けてやろう』と。私はホズミの疑問を解消した。……き、貴様なんかを、私が完全に助けるわけなんて、ないんだからねっ」


 教室内を、重苦しい静寂が支配した。誰も何も言えず、しわぶき一つ聞こえない。あ、しわぶきって“咳”のことね。古い小説なんか読んでないと、なかなか分からないかもだけど。


「以上だ」


 黒野は教卓を降りると、小さくこつこつと上履きを鳴らして自分の席へと戻ってきた。俺の斜め前に立つ黒野は、まったく元のままだった。


「つまり。事態は全く好転していないってことですね、ホズミくん」


 隣に立つタオルを巻いた無敵さんがぼそっと呟く。


「……だ、そうだ。答えはまだか、ホズミ?」

「お、おう」


 宗像は肩を落としている。多分、すげぇ時間を無駄にしたって思ってんだろうな。でも、俺の方がもっと肩落ちてる。どうしよう。このままじゃ、俺の負けだ!


「ん? なんだ、ホズミ? 私があれだけ時間を稼いでやったというのに、何も考えていなかったのか? せっかくツンデレしてやったというのに、それについての反応も無いとは。おかしい。私のようなキャラでならば、あれで萌えない男子はいないはずなんだが」


 どこ調べだよ、その情報? てかあれ、わざとらし過ぎんだよ。あと、そういうのが予測できたり期待出来るようなキャラじゃないと、突然過ぎて読者はついていけないんだよぉ!


 結局、黒野に期待した俺は馬鹿だった。

 そうだよね。そういえば俺、黒野の第一印象、『人を盾にしそう』だったっけ。実際、今回の副委員長決めでも、無敵さんを盾に使っているわけだし。お。これって無敵の盾ってこと? イージスの盾? そう考えるとかっこいいな、無敵さん。

 でも、イージスの盾って、メデューサの顔が嵌ってて、相手を石にしちゃうんだよな。無敵というか不気味な盾だ。もし無敵さんの顔がはまっていたりした場合、効果は石化ではなく“鬱化”だったりするのかも。ぷーくすくす。

 なんて考えてしまうくらい、黒野の助け船は黒船どころか泥船だったということだ。


 ヤバイ。俺、このままじゃこのクラスでの最下位カースト確定だぁ!


「ふっ。黙っているということは、負けを認めたに等しいな。では、宣言通り、俺はお前の号令には従えない。とはいえ、今後のことを考えると、それでは困る。従って、不本意ではあるが、号令だけは優しい俺が、お前の代わりにかけてやってもいいだろう。正常なクラス運営の為、お前が『お願いします、宗像様』と言えば、の話だが。まぁ、武士の情けというやつだ。ふふふ。ふはーっはっはっはっはっは!」

「くっ……」


 宗像の高笑いが、さざめく波紋のように広がってゆく。こいつ、やはり波紋使いか。


「ち。なんだよ、ホズミめ。せっかく立ってやったっていうのによ」

「あーあ。なーんか、期待外れっていうのー? しらけちったな、あたしー」


 さっき立ちあがってくれた者たちも、口々に俺への不満を吐き出した。

 宗像への最初の反応で、俺の手は尽きていた。俺はもろに“知らない”という反応を見せてしまっていたのだから。そのせいで“嘘八百”が封じられ、その場で適当に想像して答えることが出来なくなった。

 最初の一手を誤った。ただそれだけで致命傷を負っていた。気付いた時にはもう遅い。もう取り返すことは出来ない。このミスは、もう、どうにも出来ない……。


「はははは。一体何をそんなに悩んでいるんだ、ホズミ? お前、難しく考えすぎなんじゃあないのか?」

「後藤田?」


 敗北を悟り、絶望していたところへ陽気に語りかけてきたのは、リアルに変態な後藤田だった。どうやら俺を助けてくれるつもりのようだが、どうにも期待出来ない自分がいる。


「始業時の号令なんて、普通に考えて礼儀だろ? 教えを乞うんだから、お願いしますという気持ちを込めて礼を示しているわけだ。それ以上でも以下でもないと俺は思うが、そうだろ、宗像?」


 予想通りだ。後藤田の意見は思った通り的外れ。


「はぁ? そうだろじゃねーよ。んなこた分かってんだよ、後藤田とやら。問題は、なぜそれを一斉に、号令の元に行うのかってことだろが? 言っておくが、効率的だからって答えは間違いだぜ。だってそうだろう? 効率的な礼儀なんて返って無礼だとしか思えねぇ。みんな、そんなあったりまえのところは最初っからすっ飛ばしてんだ。議論を一段階手前まで引き戻してんじゃねぇよ、このボケが」

「ボボボボボ、ボケッ? ぎゃ、ぎゃふぅーーーん!」


 後藤田は宗像からの容赦ない反撃に遭い、昔懐かしい悲鳴と共に轟沈した。

 こいつ、ちょっと素直すぎだ。言うこと成すこと分かりやすくてもう安心しちゃうレベルだわ。……でも、もし。もし、友達にするのなら……。俺は、こういうヤツの方がいい。


「……そうだな。クラスを正常な状態にするのも委員長の務めだ」


 覚悟を決めた俺は、宗像に正対し、しっかりと目を見つめた。

 人に『お願いします』と頭を下げるのは嫌じゃない。ただ、強要されてそうするのが嫌なだけだ。しかし、この場合は嫌だと言っていては収まらない。プライド? あるさ。でも、俺のプライドは、自分を守るためにあるんじゃない!

 心は決まった。俺はゆっくりと、宗像に、頭を――


「待ってください、ホズミくん」

「え? 無敵、さん?」


 がっしと俺の肩を掴んでその動作を阻んだのは、目を見開いた無敵さんだった。おい。お前、また顔が近すぎるから。あと、目。

 開くな! 眩しい! お前の目、なんでそんなにキラキラしちゃってんだ! その目で見つめられると、心臓がバクバクして気持ち悪くなるんだよぉ!


「宗像くん。その問い、あたしが答えてもいいですか? 副委員長として、委員長を助けるのは当然だと思いますけど、どうでしょう?」


 タオルをばさっと取り払った無敵さんは、すぐに線になった目を、宗像へと向けていた。


「ダメだ」


 が、宗像はにべもなく拒否した。ぴしっとポーズを決めて。


「そうですか。ごめんなさい。あ、あたしなんかが意見するなんて、やっぱりダメに決まってますよね? あたし、ウジ虫よりも役に立たない人間だし。し、死んだ方がいいですもんね」


 それを無敵さんはあっさり承諾。

 うおおおおおい! おま、助けてくれるんじゃねぇのかよ!? 弱過ぎだろ、お前のメンタル! そこ、どうにかしてくれよぉ! なんだよ、さっきの無駄な盛り上がり! 俺、お前のこと、ちょっとかっこいいとか思っちゃったんだぞ!


「いーえ。ありですよー、宗像くん」

「む? 留守先生?」


 黒野によって窓際に追いやられていた留守先生が、いつ戻ったのか教卓から宗像に微笑みかけていた。


「なぜなら、ホズミくんの号令を拒否した場合、次にその役を担うのは、宗像くんじゃおかしいわ。そこは副委員長さんになるのが自然でしょ? でも、その副委員長さんがあくまでもホズミくんでの号令を望み、こうして後を引き受けたのなら、あなたはこれを受ける義務があるのよ」

「なっ! しかし!」

「宗像くんはこれを卑怯だとか思うのかも知れないわね。でも、違うわ。そうじゃない。だって、これは始めから『クラス委員チーム』と『宗像くん個人』との、話し合いという戦いなの。人と人とが戦う時には、スポーツであろうと戦争であろうと、必ずその場に相応しい、適したルールが存在するの。それは最初に説明されないかも知れないけど、現実社会でのこういった戦いは、常にこうしたものなのよ」

「うっ……!」


 にこやかにして訥々とした留守先生の講釈に、宗像は。


「分かりました。これは、俺の考えが足りていなかったということか。いいでしょう。無敵さんの挑戦、受けて立とうじゃないか!」


 宗像は「キャシャーーーーンッ!」とか叫んでなんとも歪なポーズを決めると、不自然な感じでちょっと飛んだ。クラスのみんなは、そんな宗像をもう見ないようにしている。みんな、顔が不自然に横向いてるもん。


「うん、潔いいい子ですね、宗像くん。はい、では、無敵さん」

「は、はは、はいっ」

「思う存分、語ってね」


 留守先生が、万人の心を蕩けさせる笑顔で無敵さんへと手を差し伸べた。しかも、ぱちんとウィンクのおまけつき。このウィンクの方が無敵だろ!


「はいっ!」


 無敵さんらしくもない小気味のいい返事には、気迫というべきものが宿っていた。 




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