第7話 

 現在、深夜一時。明日は休日だし、予定は何もない。だからこんな夜更かしが可能なのである。ルミカはとっくに寝ている。

 私はルミカが寝た後も、ずっと考えていた。

これからルミカのために、私は何をするべきか。

 このままじゃ、絶対にダメだ。ルミカのためにも、彼女の家族のためにも。そしてルミカのお腹の中にいる赤ちゃんのためにも。

 ルミカの気持ちは、もう全て聞いた。そして私は、ルミカには幸せになって欲しいと思っている。

 でも……。あっ!


「……よし!」


 私はある決意をし、ようやく眠りについたのだった。




「じゃあ、すぐに戻るから」

「うん、気を付けてね」

「大丈夫なの? 本当に」


 ルミカは「ナギちゃんにしばらくお世話になるから」と、家事手伝いをすることに決めたとのこと。身重なのだから、そんなことしなくて良いのに。


「大丈夫だよ。今のところ、今日はつわりはないから」

「じゃあ、もしまたつわりがひどくなったら絶対に安静にしていてね。決して無理はしないこと。とにかく! 何かあったらすぐに連絡!」

「はーい」


 昨日とは違って、ルミカの返事は元気だった。少しは気持ちが落ち着いたようだ。




 家を出た私は早速、作戦を開始した。まずは、家から離れる。ルミカが家の窓から覗いて私を見つけることができないくらい、遠くへ。

 作戦その二。位置が定まったら、そこであるところに電話をかける。メモのご用意も忘れずに。

 ……緊張する。

 もう何年振りだろう、あそこに電話をかけるなんて。


「はい……」

「あ、もしもし! そちらは」


 自分で驚いた。十年以上も電話をかけていない家の連絡先を、今でもしっかりと全てきれいに覚えていたということに。




 本日も大学は休み。大学も、四年生になれば行く日数は減るものだ。


「今日も休みなんだね」

「うん。でも今日は、お客さんが来る」

「え、じゃあ私、いない方が良いのかな?」

「ううん、いて」

「邪魔じゃないの?」

「必要」


 そう、ものすごく必要。


「手伝ってもらいたいの。無理しない程度に」

「何を?」


 私はズボンのポケットからメモを取り出して、それをルミカに差し出した。


「これは、私に買い物を頼んでいるの?」

「その通り。あのコンビニで全部売っているから、お願いします」

「うん、分かった。行ってくるね」

「あ、お金渡す。お釣りは手数料ってことで、ルミカにあげるよ」

「いーらなーいよぉー」


 少ないし、とルミカは笑った。良いから受け取りたまえよ、と私は笑い返した。


「行ってらっしゃい。何かあったら、絶対すぐに連絡!」

「はい」

 ルミカは家を出た。

 ……よし!

 私は掃除を始めた。




「こういうので、OK?」

「うん、良い!」


 ルミカに買ってきてもらった和菓子を見て、私は思わずよだれが垂れそうになった。そしてルミカのお菓子選びのセンスが良いことに驚いた。


「じゃ、これをあの小皿に盛ってね」

「はーい」


 こうして、私たちが準備をしていると……。

 

ピンポーン。


「あれ、もう来ちゃった?」

「私が出るから、ルミカは続けて」

「うん」


 私は急いで玄関へ向かった。


「はい」

「あ、こんにちは。私、」


 ……よし。


「お待ちしていました。今、開けます」


 私はドアを開き、お客さんを迎えた。


「どうぞ」

「お邪魔します」

「ねー、ナギちゃん! お皿……」


 そのときルミカが姿を現した。そして彼女はすぐに固まった。


「ナギちゃん、どういうこと……?」

「え?」

「どうしてママが、ここに来たの?」


 数日振りに会う自分の母親の顔を見て、ルミカは動揺している。


「ルミカ、後はもう大丈夫。私がやるから。ありがとうね、ルミカも本当はお客さんなのに」


 本日のお客さんは、ルミカとルミカのママさん。さっきルミカが聞こうとしていたのは、お客さんの人数だと思う。二枚ある皿を見て、気になったのだ。まさか自分のためのお皿だなんて思いもしなかっただろう。


「ルミカ! 久々にナギちゃんに会ったというのに、迷惑かけて!」


 早速怒り出したママさんを、私はひとまず落ち着かせることにした。

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