2話 ベルトの所有者 Cパート

 日が高いなか、鞄を背負ったジュンヤが左を向く。

 道路から、和風の家へと歩いていった。音無おとなしと書かれた表札を通りすぎ、敷地に入り、玄関のカギを開ける。

 引き戸を開け、閉めて、少年が内側からカギをかけた。靴を脱ぎ、靴下で木の床を踏む。無言で自分の部屋へ向かった。

 外よりは温度が低いものの、快適には程遠い。むっとする熱気に、ジュンヤが息をはく。

 突然、ギアロード・ソーグのテーマが鳴り始めた。

「なんだ?」

 慌てて部屋に入り、鞄を机の上に置く。中から取り出したのは、ソーグのベルト。銀色でスマートフォンとよく似ている。音楽を響かせているのは、それだった。

 画面には“通話可能”という文字。ちかくの“許可”と書かれた部分を指で触れる。

「はい。オレだけど」

『ジュンヤくん? ツバキよ。覚えてる?』

 機械によってデータへと変わった女性の声を聞いて、少年は自分の名前を言わなかったことに気づいた。

「えーっと、ジュンヤ。覚えてる、けど、これ電話にもなるんだ」

『怪人が現れたの。すぐ、採石場さいせきじょうに向かって』

 プツリという音がした。もう、何も聞こえない。

採石場さいせきじょう? って、どこだよ!」

 声に答えるように、画面が切り替わった。3つのマークがある地図に。

「これは、この場所。家か。それで、ここが思路川しろがわだから、学校より向こうか」

 1つ目はジュンヤの家。

 2つ目は、学校よりもさらに西にある採石場さいせきじょう

 そして、3つ目は河川敷かせんしき

 街の南には、大きな川が西から東へと流れている。考えることをやめたジュンヤは、家から近い“変身場所へんしんばしょ”と書かれたマークを目指した。


「これ? いいんだよな? 使って」

 緑の中に、大量の鉛筆えんぴつが転がっていた。

 ソーグのベルトを横向きで持つ。地図のマークは2つに見える。変身場所へんしんばしょとベルトの現在位置が、同じ場所で重なっている。

 辺りには背の高い植物が生い茂り、薄着の少年を見ることはできない。

 ベルトを装着し、スイッチを押すジュンヤ。機械的な声が返事をする。

「ソーグ、ジュンビカンリョウ」

変身へんしん!」

 初めてのときよりも、すこしだけ早くポーズを決めた。鉛筆えんぴつと自分の身体が光に包まれるのを、少年は楽しんでいた。

 別のシルエットへと変わり、光が消える。大きな黄色い目が下を向く。

『あっ。画面がよく見えない』

 防具をまとった成人男性のようなヒーローが、決め台詞とは違う言葉を発した。

「ツウワカノウ」

『通話? 許可』

 ベルトの音声に答えながら、緑の中を西へと歩く、赤いヒーロー。さわやかな声で、ジュンヤとは違うものになっている。

変身へんしんできたみたいね。そのまま川沿いを走って』

 家のときと同じ声が聞こえた。

『ツバキさん。ソーグの力を使ってもいい? 歩きにくくて』

『聞かなくてもいいよ。ソーグとして、自分で決めて』

『ソーグ。使用開始しようかいし!』

「ノウリョク、シヨウカノウ」

 お腹にある銀色のパーツが、機械的に力を解放した。防具が形を変え、本来の能力を使うことができる。すぐに、長い植物が密集する場所から出た。

 短い草の上で、赤い防具が揺れる。躍動やくどうする黒い関節部分。

(こんなに速く走れるのか。速すぎて、ちょっと怖いな)

 ジュンヤは、平凡な少年だ。勉強や運動ですごく得意なものはなく、逆に苦手なものがある。

 それだけに、普段の自分ではできないことを喜んでいた。

(暑くないのは、どういう仕組みなんだろ。まあ、いっか)

 深く考えないことにしたのは、ほかに気になることがあったから。

鉛筆えんぴつが置いてあったのは、木だから?』

『私に聞かれても困るよ。置いたわけじゃないし。いまは、集中して』

了解りょうかい!』

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