第44話 下山

 ロープウェイは行きよりも大きく揺れた。先生が行きの時よりも大きく揺らしたからだ。


 私は先生の襟に掴みかかり「やめてください」と必死に頼んだ。涙が出た。さっきはもっと真っ当な理由で流れたものが、こんな下らないことで流れると虚しかった。


 揺れが収まって、先生の大笑いも収まった後、先生が口を開いた。


「史郎が最後に言ったこと、君は気にしなくていい。生きていてくれることが私の望みだからだ」

 真剣な顔で言う先生に負け、私は「はい」と答えた。


 ロープウェイの窓から景色を見ていた。屋敷がどんどん小さくなっていく。赤い服を着た小さな人影が手を振っている。


 私が手を振ろうとすると――その隣に男が立っているのが見えた。

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