最強の刺客(?)

「これお前どうする気なんだ・・・」


俺はこの日頭を抱え込んでいた。


「で、でもあんなにずぶ濡れだったんだよ?可哀想だと思わないの?」


「それはそうなんだが・・・」


そう言われてしまうと、何も言い返せなかった。


「でも実際どうするんだ・・・この猫」


「にゃぁん」


この日、凛が拾ってきたのは1匹の猫だった。


「確かここってペット大丈夫じゃなかったけ」


「確かにそうだが、俺たちだけだと多分難しいぞ」


俺には大学もバイトもあるし、凛にだって仕事があるのだ。面倒を見るのは難しいだろう。


「だからって置いてくるのは・・・」


「にゃ・・・」


「グッ・・・流石にそれは気が引けるな」


そのつぶらな瞳も見ていると、まともな判断がつかなくなりそうだった。


「・・・だったら知り合いに飼えるか聞いてくるか」


「それがいいかもね」


「俺もそこまで友だち多くないからな。凛も知り合いに・・・ごめん」


「謝られると余計に傷つくからやめて・・・」


こうして俺たちは、2人で飼い主探しへと乗り出すのだった。


「ニャ!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「いらしゃいませーって二人で来るなんて珍しいね」


俺たちがまず訪れたのは、環の家だった。


「いきなりで悪いんだけど、環ちゃん猫飼わない?」


すると凛の胸に抱かれていた猫が窮屈そうに身体を乗り出した。


「あっ!凄い可愛い!」


どうやら環もこの猫の可愛さにやられたらしい。


「確かに可愛いけど、うちで飼うのは無理かな」


「やっぱり飲食店だもんな。無理言って悪かったな」


「力になれなくてごめんね。私も友だちに聞いてみるよ」


「悪いな、助かる」


「飼い主探し頑張ってね」


そう言われ、俺たちは次の飼い主候補の元へと向かった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「あれ?今日ってお休みの日じゃなかったけ?」


俺たちが次に訪れたのは、まだ子供たちの来ていない塾だった。


「いきなりで悪いんですけど猫引き取ってもらえませんか?」


「猫ちゃん?あら、可愛い子猫」


千咲さんは、猫を抱き抱えると首元を軽くなでながら楽しそうに抱きしめた。


「私って猫1度でいいから育ててみたいんだよね」


「だったらぜひ!」


しかし先輩は、少し考えたが猫を再び凛に渡した。


「でもうちのマンションって動物禁止なんだよね・・・。だからごめんね」


いくら飼いたくても禁止と言われれば引き下がるしかなかった。


「すみません、こちらこそいきなり頼んで」


「ううん、私も出来るだけ知り合いに頼んでみるよ」


こうして飼い主探しは再び空振りに終わった。


俺たちは塾を出ると、誰に聞きに行こうか思いつかなくなってしまった。


「そもそも私が猫を連れてこなければよかったのかな・・・。私じゃなかったら他の人に飼われてたかもだったのに」


「お前が拾ってこなければ次に拾うのは多分だが保健所の人間だ。そうなれば殺処分だっただろうしな」


大学の知り合いなんかにもケータイで聞いてはみたものの、あまりいい返事はもらえていなかった。


しかし近場にいて信頼して猫を渡せる人物はほとんど残っていなかった。


「あっ、私飼ってくれるかもしれない人1人だけ知ってる」


「本当か?だったら早速聞きに行くか」


俺は凛に連れられるまま、彼女は後を追った。


「着いたよ。ここがその人の家」


少し駅前から離れた所にあるマンションの一角に俺たちは訪れていた。


ピーンポーン


「・・・はーい」


インターホンを鳴らすと、すぐにドアの向こうから女性の声が聞こえてきた。


「はいはいどちら様。なんだ凛か、それに彼氏さんまで」


「彼氏ではないんですけどね」


「ほんとぉ?まあいいけど。取り敢えず上がってお茶でも飲んできなさい」


そう言われたので俺たちは恐る恐る部屋の中へと入っていった。


「あんまり広くないけど座って・・・ってその凛が抱えてるのは何?」


「まあそれが来た理由なんですけど。如月さん猫飼いませんか?」


そう言われ、如月さんは少し考えていた。


「・・・うん、私でよければ引き取るよ。猫を飼ったことはないけど頑張ってみるわ」


すると凛の顔がパッと腫れた。


「ありがと、如月さん!」


「こちらこそありがとう。・・・29にもなって彼氏の一人も出来なから、猫に癒されたかったなんて言えない雰囲気ね」


「ええと・・・いつかは出来ますよ!」


「こういう時って普通は聞こえないんじゃないの!?」


なんだその理論


「そうだ!名前付けてあげようよ!」


「私はネーミングセンスがないから、そうしてくれると助かるな」


「うーん、野良猫だからノラ子とかは?」


「お前は絶対に子供の名前決めるなよ」


「なんでえ!?」


多分、如月さんよりもセンスはないな。


「だったら君も何か考えてよ」


俺はしばらく考え、一つだけ思いついた。


「つくよ、とかは?」


「どうしてつくよなの?」


「この猫の瞳がすごい綺麗だったからなんだけど」


「つくよにしましょうか。今日からあなたはつくよよ」


そう言いながら楽しそうにつくよと遊ぶ如月さんを見ながら、俺たちは帰ることにした。


「あっ、別にいつでも来ていいからね」


どうやら俺の心でも読んだらしい。おそるべし29。


そうして2人で帰る途中、凛がある事を言った。


「そういえばあの猫ってオスだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る