同居1日目(2)

「ねえねえあの人ってさ・・・」


「だよね!多分本物だと思うんだけど」


服屋を出てしばらく歩いていると、そんな声が聞こえてきた。


どうやら高校生らしき女の子2人だ。


「あ、あのっ!」


すると1人が神木に声をかけてきた。


「か、神木さんですか?」


「そうですよ。よくご存知で」


うわぁ・・営業スマイル・・


最初に会った時のような素の笑いではなく、彼女の作った笑顔がそこにあった。


「あの握手してください!」


「いいですよ~」


その女の子は握り終わった後も、手の感触の余韻に浸るようにうっとりしていた。


「わ、私も握手してもらっていいですか・・・?」


少し奥手そうな女子までが握手を求めてくる。恐ろしい女だな、神木・・


「私、ピアノやってて・・それで神木さんに憧れていて・・」


「本当に!?いつか一緒に弾いてみたね」


「・・・はいっ!」


「ところで気になってたんですけど」


先ほどまで余韻に浸っていたもう1人の女の子が言った。


「そちらの男性って彼氏さんですか?」


「うん。そうだy「違うから」


何を口走る気だ、こいつは


「えっと・・どっちなんですか・・?」


「付き合ってはいない。こいつはただの同居人だ」


「それって同棲してる・・」


「同棲じゃない!同居だ!」


間違えられるのが嫌だったのでしっかり言い直させた。


「「ご、ごめんなさいいいい!」」


「もう・・怖くて逃げちゃったじゃん・・」


「そんなつもりじゃなかったんだがな・・・」


実際、こうして逃げられてしまうとかなり落ち込む。


「まあいい、次は雑貨でも見に行くか」


「それでもいいけど・・お腹空かない?」


そう言われ時計を見上げると確かに時刻は13時を回っていた。


「そうだな。お昼にするか」


そこで俺は、ひとつ提案をした。


「なあ、行ってみたい店があるんだが・・」


「別に私は合わせるけど・・今まで入ったことないの?」


「そうなんだ・・」


そんなことを言っていると、あっという間に店についた。


「なるほどね・・これは男の人1人じゃ入りにくいね・・」


木を基調とした外観、店の中から流れてくる洋楽そしてなんとなく入るお客も女性が多く、なんとなくだがキラキラしている。


「ここのグラタンが食べたかったんだ」


「君って見かけによらず女子力高いよね・・・」


「何を言っている。女子力という言葉は女子のためにあるわけではないんだぞ」


「め、名言だね・・・」


俺たちは店に入り、とりあえずグラタンと飲み物を注文し、席についた。


「何だか悪いな。俺の食べたいものに合わせてしまって。本当だったらカスミ辺りとでも来たかったんだが」


「別に気にしてないよ。ちなみにカスミさんってのは?」


少し高圧的に彼女は質問してきた。


「ただの幼馴染みだよ。昨日行った喫茶店の一人娘」


「ふーん。そうなんだ」


何故だか彼女の機嫌が少しだけ悪くなった。


「お待たせしました。グラタンとお飲み物になります」


店員が注文したグラタンを持ってきてくれた。


お腹も空いているので早速食べることにした。


「「いただきます」」


口に運ぶと、少し冷ましてくれているのか火傷はせず、クリーミーで蕩けるような味が口の中に広がった。


「本当にこれ美味しいね!」


あまりの美味しさに、感動を抑えられないのか彼女は興奮しながら言った。


「「ご馳走様でした」」


二人してあっという間に平らげ、当然俺持ちで店を後にした。


「後は食器とかの雑貨か」


「ねえねえ」


雑貨屋に向かっていると彼女が声を掛けてきた。


「どうせだったらさ・・・お揃いにしない?」


「何故に?」


「何故にって・・・せっかく同棲してるんだし・・・ね?」


「分かりにくくなるだけじゃないのか?それに同棲じゃなくて同居だ」


「もー、そんなんじゃ私に逃げられちゃうよ?」


「むしろありがたいな」


「そんな!?」


そうして後は食器を決めるだけになった。


「まあ食器も買い替え時だし、俺も選ぼうかな」


「だったら私が選ぶよ!」


「自分の食器くらい自分で選べるんだが・・」


すると神木は怪訝な目をしてきた。


「どういうのにするつもりだった?」


「そうだな・・・」


俺は手近にあった箸を手に取った。


「これなんかいいんじゃないか?」


その箸は、物や食べ物のデザインをしてある箸。


しかし彼が選んだのはよりにもよってアスパラガスの箸だった。


「・・・うん、私に決めさせて」


どうしてだ。


そうして神木に俺の分の食器もチョイスしてもらい、雑貨屋を出た。


「なあ、どうして俺の箸とかスプーンがお前のとお揃いになっているんだ?」


「えー、別に何でもいいって言ってたからお揃いにしただけだよ」


そう言われてしまうと何も言い返せない。


「今日は楽しかった?」


マンションへと帰る途中、唐突に彼女が聞いてきた。


「神木はどうだったんだ」


「私?私はとっても楽しかったよ。君ともたくさん話せたし、たくさん君のことを知れたから」


「そうか」


俺は歩くペースを少し早めた。


「あっ、ちょっと!はぐらかさないで答えてよ!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る