同居1日目

「・・・んっ・」


尋常ではない身体への倦怠感が襲ってきた。


眠い・・というよりだるい・・


イマイチ働かない朝イチの頭を使い、昨日のことを思い出した。


「・・・休みの日だし寝るか」


俺は再び布団を被ろうと、シーツを引き寄せた。


「・・・・・・」


「・・・むにゃむにゃ・・・」


そうして布団に目をやると一人の少女が気持ちよさそうに眠っていた。


「・・・フフッ」


俺は人差し指に力を込め、彼女の額へと打ち付けた。


「にゃ!?」


彼女の身体が飛び跳ねた。


「な、何事なの!?」


「朝だ。起きろ」


「もうちょっと優しい起こし方は出来なかったの!?」


「寝ている時に笑うからだ・・・それと・」


少し目線を下に下げると、何故か彼女は下着のみを纏った状態だった。


「・・・・・・」


「ちょちょ!どうしてベッドの隙間からそんな赤く汚れたバットが出てくるの!?そしてそれで私に何をする気なの!?」


「?何を分かりきったことを聞いている、殴るためだよ」


「待って待って!これにはちゃんとした理由があるの!」


「半裸で俺のベッドに潜り込んでくるのに理由がある・・と?」


俺はバットをひけらかしながら彼女に問いた。


「私、服を着てると落ち着いて寝られないの・・」


彼女は顔を真っ赤にしながら弁明した。


しかし今の彼には死神のような冷酷さがあった。


「だったら俺のベッドに潜り込んでいたのはなんだ?」


「・・・出来心でした・・」


「・・はぁ・・・次にやったら叩き出すからな」


すると彼女は神を仰ぎみるようにこちらを見てきた。


「許してくれるんですか?」


「何を言ってるんだ。許すわけがないだろう」


「えっ?」


・・・30分後・・・


「本当に申し訳ありませんでした・・・」


「分かったら二度とこんな事をするなよ」


「はい・・・」


「それにしても、みんなをハッピーにするピアニストねぇ・・・」


「やめてええええ!」


彼女には制裁として昔インタビューを受けた時の映像を見せた。


小学生だったこともあり、痛々しい発言や少々アレな発言が多々あった。


当然、彼女は見ている時に身悶えしていた。


「今回はこれくらいでいいか。さて朝ごはんを食べたら出かけるぞ」


「え?どこか行くの?」


「お前の生活用品を揃えるんだよ」


とりあえずで昨日は服なんかは揃えたが、やはり足りない物が多すぎる。


「分かったら服を着てそこでテレビでも見ていろ」


「君ってご飯作れる人なの?」


「まあ待ってろ」


俺は彼女をリビングに座らせるとキッチンへと移動した。


「あまり冷蔵庫に物が入ってなかったから適当だが文句は言うなよ」


今日の朝ごはんは消費期限ギリギリだったタマゴのスクランブルエッグと盛り合わせのサラダ、それと味噌汁とご飯だ。


「おお・・・」


「なんだ、俺が料理出来るのがそんなに以外だったのか?」


「いや、料理出来る男子ってかっこいいなぁと思って」


「黙って食え」


そして全国の料理男子に謝れ


食べ終わると手早く片付けを済ませ、家を出た。


「とりあえず衣類を揃えるか」


マンションを出ると、俺はそう言った。


「ねえ、気になったから聞いてもいい?」


彼女が俺の顔をのぞき込みながら聞いてきた。


「なんだ?変なことは聞くなよ」


「どうして君は人間ひとりを養う財力を持ってるのかなー、と思って」


やはりというか、当然気になる点ではあったのだろう。


「家が少し金が有り余っているだけだ。お前は気にするな」


「気になったついでにもうひとつ聞いてもいい?」


質問が多いやつだ


「どうして1度も私を名前で呼んでくれないの?お前って言われるの好きじゃないんだけど」


「だったらなんと呼んだらいいんだ」


「凛でいいよ。同い年なんだしもっと仲良く行こうよ」


「分かったよ神木」


「分かってないじゃん・・・」


そんな話をしながら、俺たちは駅前の衣類店に入った。


「男の子なのにこういう所入るの大丈夫なの?」


「実家にいた頃は、妹の服とか買ってたからな。もう麻痺した」


「大変だね・・・」


どこが大変なのかは分からなかったが、とりあえず彼女の服を見ることにした。


「これなんかはどうかな?」


そう言って彼女は明るい青色のワンピースを見せてきた。


「いいんじゃないか?」


「だったらこれは?」


次に彼女は少し薄手の春らしい白いブラウスを見せてきた。


「いいんじゃないか?」


「それしか言わないじゃん!だったら逆に選んでよ」


「俺が選ぶのか?」


そう言われたので俺はしばらく店内を見て回るとピンときた1着を見せた。


「これなんていいんじゃないか?」


俺はそう言ってデカデカと「野菜炒め」とプリントされたTシャツを見せた。


「・・・妹さんにセンスないって言われてなかった?」


「・・・何故分かった」


「分かるよ」


即答だった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る