第27話 Royal straight flush VS

「ハイド! 落ちるなよ!」


 目の前のロボット群を一瞥した瞬間、美洋は自転車を全力で漕ぎ出しロボットたちから距離を取るべく移動を開始する。携帯は通話のままだ。切ろうとしてもハッキングされたのか切ることができない。


 だが、携帯がハッキングされたとあっては現在位置が常にばれているということになる。それはすなわち、アリスが差し向けたであろうロボット群に常に居場所が特定されているということに他ならない。


 というわけで仕方なく携帯を捨てて自転車で踏みつぶし、予備の形態をとりだす。が、


『無駄だよ美洋。君たちの居場所は簡単にわかる。君たちが発電所内にいた時間私は何をしていたと思う?』


 美洋の予備携帯は電源が立ち上がりこそしたがその後のネット回線などが全く動かない。それどころか厳重なプロテクトをかけているはずなのに一瞬の間にウイルスが忍び込み画面を真っ赤に変える。


「なんだ……これは……」


 自転車をこぐ足がつい止まり、美洋は自身の携帯の液晶画面を凝視する。赤い画面が薄れ現れるのは情報管制室でも見たアリスの姿だ。


『残念だけどこの界隈の通信網は頂いたよ。ネットにアクセスした瞬間にその端末は私の制御下に置かれる。例えばこんなふうに』


 とたん、美洋の携帯がGPSを発信する。「くそっ!」と美洋らしくない悪態をつくと再びその場から離れるべく自転車をこぎだす。もう予備の携帯は持ってきてない。だが恐らく家に帰ることはロボットにより封鎖されているだろうし、たとえ帰れたとしてもアリスが【この界隈】と言った通信網にアクセスしなければそれらも使えない。


 そして、アリスからの連絡は途絶えなかった。


『さあさあ! 美洋! 発電所に時間をかけた時点で、ここまで形成を作られた時点で君の価値の目は急速に摘まれていった。それともここからでも逆転することができるかな?』

「なんだ?!」


 携帯はすでにすべて手元にはない。だから美洋のもとにアリスの声が届くことはないはずなのだ。


 音声は美洋が自転車を走らせる歩道、通行人が見れるように設置されていた電光掲示板。そこからだ。


『言っただろう? ここらの通信網はすでにジャックしたと。テレビも監視カメラも人の通信機器も、そのすべてがネットに開園をつないだ瞬間私の支配下に置かれる』


 無茶苦茶なことを言い出アリス。だが、いくら埒外な計算思考能力がアリスにあるといってもここは東京、万単位のそれらを監視し、美洋を監視し続けるなど不可能のはずである。


「いくらなんでもそこまでのことは――」

『できない、と思うだろう。そして残念だがその予想ははずれだ。私はそれを可能にした。今私は数万、数十万、数百万のそれらを統括し、支配している』

「一体どうやって……」

『もちろん、君の推測は正しい。勿論私一人で監視するのは限界がある、視力の問題もあってそのすべてを視界に収めることはできないからね』

「ならどうやって――」

『一人じゃ無理なら二人で、二人が無理なら三人で、それでも無理なら十人で、百人で仙人で、それらに対処すればいい』

「何を言って……まさか!」


 なにかに感づいた美洋。その間にも後ろからはロボットが追ってくる。


『そうだ。いや~、ホワイトラビットも雑魚キャラのように退場したのにいい仕事をしてくれたよ。その一点だけは褒めてあげてもいいね。おかげで私のプログラムは完成に近づいた。いや、完成したといってもいい。成長し続けるプログラム、私が一番面倒と思っていたところを数年かけて矢てくれたからね。まあ、わたしなら二時間でやるが』

「まさか……、アプリの本当の目的は……」

『そうだね。私の作ったアプリ、【不思議の国へ】。これをインストールした携帯やパソコン、まあ、パソコンがメインだけれども。それらは自動であるAI、私の思考をトレースし、追随する、そんなプログラム。もちろん、【皇帝】が負けた理由も見たからね、頭の悪い選択に関しては受け入れず、自分が受け入れて向上すると判断したもののみ自分のプログラムに組み込んでいく。いうなれば私のクローンのようなものだね。もちろん性能は私の百分の一にも及ばない』


 だけど、とアリスは続ける。


『それが数千数万単位で集まったのならば話は別だよね。そして彼ら彼女らは私を凌駕する計算能力を手に入れ、私の代わりに東京一体の通信網を監視しているよ』


 アリスの端正な顔が画面に大きく映る。


『さあ、どうかな? 私のトランプの兵団は』


〇〇〇


「美洋……君……?」

「ハイド! 起きたか!?」


 全力で自転車をこぎながら美洋は後ろから聞こえてきた自身の相棒を確認する。


「今……どういう状況?」


 まだもうろうとしているのかはっきりしない声のハイド。そのハイドに美洋が現時点の状況を伝える。

 そして話を理解するにつれてハイドも意識が覚醒してきたのか驚きの表情へと変わっていく。


「ちょっとまって、てことは今、アリスだけじゃなくてジキルや、アリスのクローンみたいなのも敵にいるってこと?! ただでさえアリスさん強いのに?」

「そうだ、もう僕たちは電子の世界に触れることすらできない。やった瞬間全部乗っ取られる」

「ロボットの軍団に、眠らされた人質、私と同格のジキル、さらにクローンのアリスにエルでまで……さしずめロイヤルストレートフラッシュってところだね」

「どのカードがそのカードに当てはまるのかな?」

「もう! 美洋君! 私が言いたいのはもうほぼ詰んでるってことだよ! どうするの!!」


 ぽかぽかと自転車をこぐ美洋の背中をたたくハイド。だが、美洋の声は明るいものだった。


「大丈夫、アリスはポーカーでロイヤルストレートフラッシュより強い役を知らない」


〇〇〇


「なに? 美洋たちが消えた?」


 自身の配下のAIから送られてくる情報をまとめていると美洋の情報が不意に途絶えた。道路を走っていた美洋の自転車も乗り捨てられたまま歩道に放置されていた。


「どういうことだ……。ここは東京、監視カメラなんて無数にあるのにどうやってかいくぐった……」


 ぶつぶつと見晴らしのいい景色を見ながらベッドの上で考えるアリス。だがいくら考えても地上で監視カメラにも、そしてロボットにも発見されずに移動できる手段が思いつかない。


 そしてその時、新たにアリスのもとへ情報が届く。美洋が発見されたという連絡だ。だがそこにハイドは一緒ではなかった。


 そしてほぼ同時刻、そこから二キロほど離れた場所でハイドが現れる。


 連絡を受けた直後、東京の至る所に配置してあるロボットを差し向ける。



 だが、その差し向けたロボットは美洋が発見された場所に向かうがそこに美洋の姿はやはりない。


「あの二人が一緒に動いていない……それにもう消えた……。なにをねらっている……なにが目的で今の行動を……」


 思考の海へ没頭していく少女。その間にもにたようなことが二回、三かいと怒る、いずれも美洋とハイドはそれぞれ単独で発見されており、場所も転々としている。


「地上……転々と移動……カメラに映らない……ロボットもいない……そうか!」


 だが、アリスが回答にたどり着く。そして、その時、全ての通信が途切れ、同時にアリスの部屋の扉の一つ、エレベーターの扉の数字が動き、誰かが昇ってくることを伝える。


 足るはのそのそと着替えると上ってくる人物を出迎える。


「やあ、思ったより速くて驚いたよ」

「ばれちゃったみたいだけど、これで僕たちの勝ちでいいかな」


  エレベーターから見ようとハイドが現れた。

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