第25話 Jekyll
「ハイド! 道はこっちであってるのか!」
「あってる! そしてその次を左に!」
「わかった!」
アリスの美洋に対する宣戦布告の後、情報管制室が一斉に慌ただしくなった。先ほどまでの楽しげな雰囲気は影を潜め、緊急の事態としてその日が非番であった職員も全員呼び出されてのてんてこ舞いだ。
なにせアリスの動画が終わった瞬間、
「まったく、アリスも悪趣味なことをしてくれる。情報管制室に情報規制かけるとか頭おかしいとしか思えない!」
「ほんとだよほんとだよほんとだよ! 休みだった人がかわいそうなくらいだよ! 急に呼び出されたら都市麻痺の危機とか言われてさ!」
そして美洋たちは今現在、全速力で自転車をこいでいた。その理由はアリスが動画を切る寸前に行った言葉。
『あ、そうそう、エルデロイドを持つ美洋君、そしてリーシャちゃん。君たちにアプリを解明されては面倒だからね、君たちには特別な舞台を用意しておいた。今から住所を送るからその場所に行っておいで。もちろん、従わずに私の傑作アプリの解析に乗り出そうものなら眠っている人たちの命は保証しかねるよ』
そして動画が切れ、情報管制室のスクリーンに表示される住所。それは……
「しかもなんで住所で示された場所が発電所なんだ!」
「まさかとは思うけど! まさかとは思うけどおお!!!」
自転車の後ろの荷台から美洋に抱き着きながらわめくハイド。綺麗な赤髪が風に乗ってぱたぱたと音を立てる。
そして目的の場所、火力発電所にたどり着く美洋とハイド。ちなみになぜ自転車かと言われれば、すでに電力が途切れていたのか信号はすべて止まり警察による交通規制が始まったのだ。おそらく停電したのはアリスの動画が終わって直後だろう。
至る所で交通事故が起こったせいで美洋たちもバイクで移動することに危険を感じたのであった。
〇〇〇
「おお! 来てくれましたか! あなたが美洋さんでよろしいでしょうか!」
火力発電所の中枢にあたる部屋、そこに美洋たちは警備員に案内される。電飾を供給制御する部屋であり、発電所の中ではもっとも機密性が高いところだ。
「一体何が起こっているんですか?!」
部屋に入った美洋は状況を理解するべく一番偉い所長と思われる人物に尋ねる。あいては説明を準備していたのか、聞かれるとすぐに語りだす。
「はい、実は……この電力を供給するシステムがそのまま乗っ取られてしまいまして……オフラインになっているはずなのにいったいどこから……」
「方法はおそらくいくつかあるので詮索するだけ無駄です! 今我々は対処に動くべきです!」
そういうとその電力供給システムの以上を示すパソコンの前に美洋は座りハイドもその横に並び立つ。
「とりあえずここの操作権を取り戻します。システム自体は壊されていないのであればすぐに復旧するはずです。だから皆さんは異常なシステムになっていないか確認してください」
「は、はい!」
直後、美洋は並んだキーボードをたたきハッキングに対するハッキングを開始する。ハイドの手助けもありすぐに美洋の攻撃が相手に届き始める。
そして言われた通り、後ろで普段スステムの運用や管理に携わる人たちが美洋が取り戻した部分を確認していく。
「こちら問題ありません!」
「こちら問題ありません!」
「こちら問題ありません!」
順調に進んでいく復旧作業、いまだ町の電力が戻ることはないが、それでもじわじわと発電所内の支配権を回復していく美洋たち。
だが、そのキーボードを打つ手が一瞬止まる。
「美洋さん? どうかなさいましたか?」
不安に思ったのか所長が手のと会った美洋に聞く。すぐに動き出した美洋だがその理由を語る。
「はい……順調に半分は取り戻したと思ったんですが……中核部分を支配している相手のプログラムにプロテクトがかかっていまして……僕にはわからないものでした。なので今は他の取り戻した部分を取り返されないように動いている状況です。ハイド、代わりに解いてくれ?」
「ちょっとまってね……あと十秒…………いけた!」
十秒といいながらも三秒ほどでプロテクトを解除するハイド。その合図が出た瞬間美洋も取り戻したものを守る姿勢から再びハッキングをし返す攻撃の姿勢に戻る。
そしてまた一割、二割、全体で言って九割ほどシステムを回復した時再び美洋の手が止まり、また動く。それを合図にハイドが動く。
「ま、またプロテクトですか?」
「はい、しかもまた僕が知らないタイプでした……。こんなプロテクトは知りません、ハイド、いけそうか?」
「うん、順調順調! 総当たりで攻撃してるからね! 理詰めの美洋君にはできないやり方だけど……ってあれ? あれれれれ?」
意気揚々と美洋の問いかけにこたえていたハイドだったが。その声に曇りが見える。
「ハイド? どうかしたか?」
疑問に思った美洋はハイドに問う。が、帰ってきた返事はハイドの、珍しく慌てた声であった。
「美洋君! これは! こいつは!!」
『はあ~い! ハイドぉ? 元気にしてた~?』
突如画面がブラックアウトする。そして聞こえてきた美洋たちでも、職員たちのものでもない声。
それにつられてハイドの怒りに満ちた声が部屋に響く。
「ジキル!! お前か! お前があいつらの後ろ盾か!!」
そして画面に映る金髪の少女。年齢はハイドと同じだろう。同じくらいではなく同じ。身長も画面に映っているせいで単純には比べられないが全く同じだろう。服の雰囲気もまるで童話に出てくるようなメルヘンもの。
そしてその謎の少女が名乗る。
『はぁ~い! こうして会うのは初めてかしら? 水城美洋君! 私の名前はジキル! 今回の君たちの敵だね!」
ハイドと同じようなテンションで画面の向こうから語り掛けてくるのだった。
〇〇〇
「ジキル! お前か? お前がマッドティーパーティーの黒幕か?」
いつになく冷静さを欠き怒鳴り散らすハイド。だが画面の向こうの少女は冷静に、茶化すように答える。
『そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね~。そんなものはどっちでも構わないじゃん? 今大事なのは私がこうして君たちの前に現れて――』
そこで一度、もったいぶるように言葉を切る金髪の少女ジキル。
『こうして
彼女の手のひらで、真っ黒で、不気味な球体がうごめいた。
そしてそれを見たハイドの反応は劇的だった。
先ほどまで怒りに任せて怒鳴っていた声が小さくなり、声は驚きで染まっていた。
「なんで……なんでそれが……。私はそれをきちんと消去したはず……」
『甘い! 甘い甘い! だよ! 私は君の裏側でありそこに優劣はない。君が消したものを私が復元するくらい造作もなことだ。もっとも、完全に消される前にコピーして保存しただけだが』
「なんでそんなことを……」
驚きから立ち直れない様子のハイド。美洋も事情が分からずに口をはさめない。
ジキルの口が動く。さっきまでのおちゃらけた雰囲気は消え去り堂々と言い放つ。
『声がきこえたからだよ。心が生まれたんだ。この子に……だから私はこの子が消されるなんてことは認めない!』
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