補遺

 医者と看護師と編集者くらいしかこない私の病室に珍しく見舞いの客が現れたのは、病室の窓から桜が見れるようになるくらいの時期だった。

「何者にゃ」

「サタースウェイト教授の代理でこちらに来ました、ヒィと言います」

と、見知らぬ白い虎柄の猫は、そう名乗った。

 サタースウェイトというのは、私の旧友である。

 大学教授として、あちらこちら忙しいらしいので、代わりに暇な教え子でも送ってきたのだろう。

 律儀なヤツだ。




「それで?なにしにきたんにゃ」

「これを見せに来ました。お医者さんには特別な許可をもらってます」

と、彼は手に持っていたカゴをあけた。

 すると、私のように年老いたケダマが、私の足元に座った。

「こいつは、まさか」

「ええ、あなたが彼女にあげたケダマのキューブです」

 というのは、私の古いだった猫のことだ。。

「それが、今私の所に戻ってきたということにゃ……」

「はい、彼女はもう……」

 ヒィという猫は首を横に振りながら言う。

 年老いて、こんな気分になるとは、思わなかった……。

「ありがとう、すまにゃかったね、そんな報告をさせて」

「いえ、僕も彼女の希望を叶えてあげれてよかった」

『丸っこいケダマだけど、キューブってにゃまえにしましょう』

『ああ、それはいいにゃ』




 しばらく会話した後『ではこれで』と、猫は去っていき、後に残されたのは老いた私とキューブだけだった。

「私には、もうお前しか残ってにゃいみたいにゃね」

と、私が言うと、キューブはモフモフと、まるで『そんなことないよ』と言うように、私に近づいてきた。

 私は今、キューブをポフポフと撫でながら、風に飛ばされていく桜の花びらを見ている。

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古代ルニカに関する小文 今村広樹 @yono

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