第16話 15

「幸せの星ってどこにあるのかなあ」

 目の前には湖。空は茜色。黄昏時。誰そ彼。私の愛する人。

 あと一時間もすれば満点の星空が姿を現すだろう。

 冬だからか、相模湖公園には人は誰一人いなかった。

 この湖は人工的に作られたものだ。

「あっ! 星、出てきたよ……」

 星を指差す。彼は反応しない。

 少し、センチメンタルな気分になる。

「もう、茜はいないんだね」

「茜はね、私の幼馴染なんだ」

 私は知らず知らずのうちに語り出してしまう。

「でもね」

「私ね、後悔はしてないの」

「後悔はしてないの」

 気づくと、無意識のうちに涙が頬を伝っていた。

 彼は星を見ていない。星の光よりも湖の暗さの方を見ている気がした。

「湖、綺麗だね」

「暗くて、綺麗だね」

 私は彼を抱きしめた。彼の微弱な鼓動を感じた。

「ごめんね。ありがとう」

 そう言って私は彼の体を、車椅子から湖に放り出した。

 これ以上彼と一緒にいると彼への憎しみが、茜への妬みが表に出てしまいそうで。

 終わるなら、綺麗な思い出のまま。

 彼は沈んでいく。次第に見えなくなっていく。

 湖の底、深い闇には救いがあるような気がした。

 私はもう、救われない。

 ただ、彼は救われればいいな、と思った。

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