第11話 10

「今日で終わりだってさ」

「そう」

 そう言って私たちはシアターの中に入った。

 あれから私たちはずっと同じ映画を見続けていた。

 今日はその映画の最終日だった。

 もはや藤村くんのやり残したことなど考えてない。私たちは死へと向かうベルトコンベアに乗ってしまったのだ。

 しかしそれももう終着だ。エンドロールが流れる。周りの数少ない鑑賞者も席を立って外に出はじめる。

 エンドロールの後には、沈黙。誘蛾灯の周りを回り続けた二匹の蛾は疲れ果て、地に落ちる。落ちていく。

「終わっちゃったね」

 私がそう言うと、彼は虚空を見つめて口を開いた。

「そうだね。終わったね」

「なんか、もう、いい気がするんだ」

「やり残したことも、もういい気がするんだ」

 彼はこっちを見ていない。どこを見ているのかもわからない。

「僕は救いようのない男なんだ。一人の女性を不幸にしてしまった」

 そう言うと彼はこっちを見た。

 その時は、私のことを言っているのだと思ったけど、違ったんだ。

「僕には、ただ、横で映画を見てくれる人がいてくれれば、よかったんだ」

「ただ、目標を共にしてくれる人がいれば、よかったんだ」

「それって、私?」

 嬉しかった。こんな嬉しい気持ちにさせてくれる彼のためなら、きっと死ねる。

「僕はどうしようもない男だ。死ぬしかないんだ」

「私は藤村くんがどんな人間でも構わないよ」

「尊厳なんていらない。夢もいらない。やり残したことももうない」

 こっちを向いた彼の額から汗が流れる。彼は最後の望みを言うために喉を鳴らす。

 一瞬が永遠に思えた。この一瞬は多分、彼の生と死が重なった一瞬だったのだろう。

 この一瞬が終わった瞬間、彼の運命は決まるのだろう。

 私はただ、彼が生を望むなら全力で生を、

「ただ、静かに、痛みなく、死にたい」

 死を望むなら死を。

「君と一緒に、死にたい」

 街はすっかり暗くなっていた。エンドロールが流れそうな暗さだった。

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