証拠

「よっこらっしょ……!」


 中沢が竹下を引っ張ると彼はすっぽり抜けた。


「ああ、ありがとうございます。感謝します。」

「今度からは気をつけてくだ………」


 ぎいいいいいと音を立てて竹下が挟まっていた隙間に棚が倒れた。

 どがーんと音をたてて棚がバラバラになってしまった。


「……………竹下さん……危なかったですね……」

「感謝しています。」


 尋常ではないほどの埃が部屋を包んだ。


「ぐえっほ…………

 この人掃除の一つや二つあったても良かったんじゃないですか………?」

「そうですね………」

 竹下はさりげなくハンカチで口元を覆った。


「あっと、中沢くん、見てください!

 中から色々なものが出てきましたよ!」

「こ……これは………」

 高級そうな箱が散乱していた。


「私はよくわかりませんが……随分お値段張りそうですよ。」

 竹下が丁重に箱を開けた。

 中沢はわかっているふうな雰囲気を醸し出しつつ箱を片っ端から覗いていく。

「これはスイス製の結構高い腕時計ですよ。

 こんなフランスのカバンなんてあの人に似合いますかねぇ?」


「かなり高価なものである、そう捉えて問題ありませんか?」

「はい。」

 ちなみに中沢もよくわかっていない。


「これって購入者など特定できるでしょうか?」

「できますね。(どやっ)」

「では大至急、警視庁に持って帰りましょう。」

「はい!」


 二人は大家に声をかけて帰った。


「さて……あの刑事二人、何やってたんだ……?

 ドッタンバッタン騒がしかったんだよな……」

 大家は二人が帰るのを見届けると部屋に鍵を閉めに向かった。


 その後、警視庁に「お片づけしましょう。」なんて匿名の苦情が入ったのはまた別のお話。

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