第2話決戦ウェハース

「ただいまー、くるみちゃん! さびしかったかなぁ~。そうだろうねぇ~。うん、うん、わかる。そんな見つめてくれちゃって。でも、ちょっとだけまってねぇ~。着替えてくるからねぇ~」

有無を言わさず、言いたいことだけ言って隣の部屋に去っていく。


分かったかい? これがのりこだ。

一応言っておくけど、僕はこの名前が気に入らない。でも、心の広い僕は、のりこの好きなようにさせてやっているだけだ。


そして、待ってたわけじゃないからな。ただ、こうして顔を見てやらねば、いきなり鷲掴みにしてくるから面倒なんだ。しかも、その後がひどい。体という体をあの巨大な手でまさぐるんだ。

そんな面倒が待っているのを、もう僕は知っているからな。これは一種の取引だよ。


こうして、ここを持って立ち上がって見ていれば、のりこは上機嫌で給仕係の仕事をしだす。

まあ、ちょっとしたサービスを見せるのもいい手でもある。

わかるだろ? このサービス精神。


その顔は、何か言いたそうだが、あえて聞かないでおこう。今日は機嫌がいいから、新記録に挑戦してみたいからな。


ほら、さっそくのりこが給仕係の仕事をしだしたぞ。


のりこよ! さあ、もってくるんだ! 僕の望みの物を! 僕の前に! 今すぐ!


「ほーら、くるみちゃん。ピーナッツだよぉ~。好きでしょ~。あれれ? 何で食べないのかなぁ~。あ、こら、そこには何も入ってないって。いらないの? そんな気分じゃない? ん~ん~。その目……。あっそうかぁ! ウェハースだね! でも、大丈夫?」


どうだ! この調教! こちらの想いのままだ。よし、よし。可愛い奴だ。


「前は二枚で断念したもんねぇ。今日はどうかな? 三枚いけるかなぁ~?」


ふっ、のりこよ。

給仕係の分際で、僕の新記録を疑うなんて、十年早い。前は、少し油断しただけだ。頬袋の奥まで入れきれなかった。しかも途中で口の中がカラカラになるというトラップまで、ウェハースの奴が仕掛けてくるとは思わなかっただけだ。


あれから、ウェハースの奴の弱点も研究した。

よし、かかってこい! ウェハース!

はやく! のりこ! 一枚目だ!


「一枚目ねぇ~。ふふ。そんないきなり大きなのを入れて、大丈夫? でも、本当においしそうね。でも、でも、でも~、くるみちゃん。そんなに急ぐと、前みたいに悶えるよぉ~。でも、そこがかわいいけどねぇ~」


相変わらず、失礼な奴だな、のりこ。


僕はこの間の僕じゃない。このウェハースは、まずそのまま細かくして入れると、途中で引っ付いてしまうんだ。だから、一枚目は、わざと大きなのを入れる作戦を取ってるんだ。


見てろ、のりこ。

これが、研究の成果だ!


「おお~! やるねぇ、くるみちゃん。はい、二枚目だよ。もう奥まで、ぱんぱんだねぇ。大丈夫?」

ふっ、のりこ。

心配しなくてもいいぞ。早く三枚目を用意しておくんだな。

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