陽性転移

@asagiri444

第1話 入院確定

 「朝霧さーん。朝霧薫さーん。」

私の名前が呼ばれた。私は立ち上がって診察室に入った。どんな先生だろう。メガネをかけていて目はぱっちり二重で口は少し紫色で鼻筋は通っている。

「身長158センチ、体重36キロ。小脳の痩せが始まっている。」

鎌足先生は淡々とした口調で言った。これが先生との出会いだった。

「入院まではいかないけど、ぎりぎりのラインです。」

入院という言葉を聞いてドキッとした。

「痩せていることで何かきみにメリットがあるのか?」と聞かれた。私は「自己満足です。」と答えた。

「痩せた小脳は元に戻るのでしょうか」

母が聞いた。すると鎌足先生は

「太ったらもとに戻りますよ。」と言った。「太ったら」という言葉に私は反応した。太るものか、と私は先生を睨みつけた

 そう。私は拒食症という病気なのだ。母親に無理やり病院に連れてこられ、今この診察室にいるのだ。私は病気扱いされることが嫌だった。だから私はこの診察室で先生に対して無視した。先生は少し笑って「入院しましょうか」と言った。無視をしていたせいか、いつの間にか入院が確定していた。

 私は抵抗した。しかし、私の痩せた病弱な体は看護師に簡単に押さえつけられた。そして、入院病棟に連れていかれ、拘束をされた。自分の無力さに絶望した。「はーい。ではちょっと痛いけど我慢してねー」

私は先生に鼻からチューブを入れられ、腕に点滴をされ、栄養を無理やり入れられた。

「やめてーー!!」

私は初めてこの病院で声を発した。力いっぱい声を発した。しかし、手足を拘束されているせいで身動きが取れない。情けなかった。本当だったら今頃、学校でトップの成績を取っているというのに。私はこんなところにいる人間ではないのに。

 


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