エピローグ


 数日後の放課後。屋上。

 オレは手摺りに手をかけ、景色をながめていた。


「何度みてもいい景色だな」


「お待たせしました」


 後ろから声をかけられた。


「いや、いいさ。オレのが頼む立場だしな。それにここからの景色はわりと好きでな」


「そうですか」


 隣に並び、目を細め景色眺る古泉一樹は爽やかに笑い。


「あなたの機関への所属許可が正式におりました」

「そうか」


 オレも景色に視線を戻す。


「もっとも機関があなたの申し出を素直にうけたのは、危険行動を起こさせない為には手元に置いていたほうがなにかと都合がいい。という理由からです。先日の朝倉涼子の一件でのあなたの行動。殆どあなたから得た情報ですが。あのような事をされると機関にはなにかと都合が悪いですから」


「ああ、分かってる。機関に所属する以上。従うさ」


「そうですか。ならば問題ありません」


 古泉一樹が視線をこちらに向ける。


「それと一つだけ聞いてもよろしいですか?」


「ああ」


 古泉は少し躊躇いがちに、


「なぜ、自ら機関に所属する道を選んだのですか。力を殆ど失ったあなたは全てを忘れて普通に生きるという選択権を持っていたでしょう。そのほうが、あなたにとってつらくないのでは?」


「………」


 オレはポケットから懐中時計をとりだし、カチャリと蓋を開けた。


 蓋の裏に刻まれた文字。


「与えられた使命がどれほど大切なものか、いまさらになって気付いたからかな。その為には涼宮ハルヒを取り巻くものに関わっていきたい。そうすれば忘れないですむ。だから、この道を選んだ」


「………」


 古泉は何かを考えるような間をあけたが、すぐにいつもの爽やかなスマイルに戻る。


「わかりました。追い追い機関から連絡がくるかとおもいます。弱められたとはいえ、あなたは情報操作に抵抗力をもっている。記憶が消えてないのがその証拠です。非常に心強いですよ。これからどうぞよろしく」


 古泉は笑顔で手を前にだす。


「ああ、よろしく」


 オレはその手を握った。

 古泉一樹はこの後、SOS団の活動があるらしく早々と屋上を後にした。あの文芸部室にいくのだろう。

 懐中時計の蓋を閉めオレはまた視線を景色に戻す。


『あたしのことわすれないでね 朝倉涼子』


 オレは蓋の裏の文字を心に刻みながら、懐中時計をしまった。


 目の前には綺麗な景色が広がっている。



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朝倉涼子の消失 @yoiyamikonami

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