第 Ⅱ 話


 日が重なるごとにオレは朝倉涼子とよく話しをするようになっていった。あぁ、確かに人見知りしないときのオレはこんな奴だったなと、昔のことを思いだしてしまうほどだ。


 しかし、それに比例して朝倉涼子への興味も大きくなっていく理由は自分でもよくわからなかった。

 たいした会話はしていないはずなのにな。

 今してるのもそうだ。

 地理担当の教員に頼まれて朝倉涼子と教材の片付けに向かっている最中なのだが。


「不思議なことを探してるみたいね」


 この学校ではもっともポピュラーな世間話、涼宮ハルヒのことだ。


「自己紹介のときの、超能力とか未来人みたいなやつ。ホームページにもそう書いてあったから」


 隣を歩く朝倉涼子の言葉をオレは右肩に地球儀担ぎ、左脇にはクラスメート半数分の資料集を抱えながら聞いていた。


「校門でビラを配ってすぐのときはトップページしかなかったんだど。最近かしら、ビラに書かれてた文章と同じようなのが追加されてたの」


「あの時のビラか」


 オレは数日前に門の前で手渡された藁半紙を思い出した。

 涼宮ハルヒから直接受け取って、すぐ道端に捨てたのだが内容を一読はした。


 全てを覚えてはいないが、SOS団という名前で、不思議を募集していて、パソコンのメールアドレスが載っていたのは記憶している。それしか思い出せないのは、別のことのインパクトが強すぎたせいもあるだろう。


「ブレーキ役は余り働いてないみたいだな。知り合いがバニーガール姿でビラを配ろうとしたら、止めるぞ。常識人なら必死にな。止まってくれなかったら縁を切るしかなくなる」


「言えてるけど彼も疲れてるみたい。きっと彼の常識より涼宮さんの非常識のほうが上回ってるんじゃないかしら」


「なるほどな。ならそろそろそいつも涼宮に愛想つかすんじゃないか?精神を擦り減らしてまで付き合っていてもしょうがないだろ」


「どうかしらね。涼宮さんはこのごろ凄く楽しそうだから。彼を離さないんじゃないかと思うな」


「そう言えば仏頂面は近頃見ていないな。なら話しかけてみたらどうだ。今なら良い反応が貰えるんじゃないか?」


「そうよね、そう思うよね。けど全然だめ。怖い顔しないだけで返事は代わり映えしないもの。最近はあたしもあきあきしてきちゃった。あ、ここ、ここ」


 朝倉涼子は教員から預かっていた鍵を使い準備室の扉を開いた。

 準備室の中に入った朝倉涼子は自分が抱えていた分の資料集をダンボールにしまい、


「はい」


 とオレに向かって手を差し出した。


「悪いな、頼む」


 オレは抱えていた資料集を手渡した。

 この地球儀は何処に置けばいいんだ?と辺りを見回すと調度いいスペースが目に入った。


「飽きたんなら、涼宮なんて気にしなければいいだろう。担任達も諦め初めてるんだ。委員長のお前が涼宮をほっといても、誰も何も言わないさ」


 地球儀を台の上に乗せながら、何気なくそう言った直後、


「そういう訳にはいかないの」


 その声が耳に届いた瞬間、ゾクリと背筋が震えた。

 これはここ最近、頻繁に感じる悪寒のようなものだ。

 背を向けていたため朝倉涼子が今どんな表情をしているかはわからない。

 いや、そもそも声だっていつもと変わらない朝倉涼子のものじゃないか。

 教室で会話してるときと何処が違うのかと言われればオレは押し黙るしかない。

 しかし。


「委員長だからか?」


 そう言ってオレは自然に振り返った。


「そ!」


 笑顔だ。

 屈託のないそれはいつもと何らかわりない。


「……そうか」


 自分でもよくわからない安心感に包まれたオレは、いまだに地球儀から手を離していなことに気付き握っていた手の力を抜いた。


「さあ、速く戻りましょう。次の授業が始まっちゃう」


 そう言ってオレの前を朝倉が通り過ぎる。


「なあ」


 準備室から出ようする朝倉をオレは呼び止めた。

 朝倉涼子は振り返り、何も言わずにオレのことを見つめる。


「放課後ちょっとオレに付き合わないか?」


「いいよ」


 返事はすぐにかえってきた。

 いつもとなんらかわりのない笑顔だった。




 その日の放課後。

 北口駅前でオレは1人ポールに寄り掛かりっていた。

 時折辺りを見渡すが目的の人物は見当たらない。当然だ、時計を見れば時間まで40分もある。

 朝倉とはこの場所で待ち合わせの約束をした。

 学校から一緒に行動を共にすればいいじゃないかとも思うが。 やはり、やめておいて正解だっただろう。変な噂になったらお互い困りそうだ。

 もう一度、制服のポケットから時計を取り出す。

 懐中時計だ。携帯電話を持っていなく腕時計の嫌いなオレはいつもこれを持ち歩いている。

 パチンとバネ仕掛けの蓋をあける。時間はさっき見てから5分しか進んでいない。当たり前だ5分しかたってないのだから。


 どうやらオレは緊張しているようだった。


 相手が相手だ。無理もない。

 それから10分もたたずに朝倉は姿を表した。


「あなたより先に来ようと思ってたのに。ずいぶん早いのね。待った?」


「いや、オレも今来た所だよ」


「ふふっ、あなたとこんなドラマみたいなやり取りをすることになるなんて思ってもなかったなぁ」


「下手な恋愛ものなら逆だろ。男が遅く来て、女が待ってるんだよ」


「そうかもね」


 悪戯っぽく笑う朝倉からオレは目をそらす。理由はわからん。


「それで?どんな所に連れてってくれるの?」


「映画とかどうだ?一人でよくいく映画館があるんだ。ポイントが貯まってて安くなるから払ってやるぞ」


「ふ~ん。映画館ね~」


 何か考えこんでしまう朝倉を見て急に不安になる。

 深く考えずに提案してしまったが、オレは女の子と二人で何処かに行った事などないのだ。

 映画館はまずかったのか?けど、それ以外に思い浮かぶ場所もない。


「いいわね。あたしも調度みたい映画があったから」


 助かった。


「そ、そうか」


 間を開けたにしては、あっさりと承諾してくれた。

 北口駅から歩いて数分のデパート。そこの上階は割と大きな映画館になっている。オレは朝倉をそこに連れてきた。


「あの上から二番目。あたし、あれが観たかったの。あれにしましょう」


 朝倉の視線の先、チケット売場の上部にある一覧表をオレも見上げる。

 朝倉が観たいと言ったの日本の恋愛映画だった。


「たしか小説が原作の純愛ものだろ、お前こんなの観たいのか?」


「こんなのとは失礼じゃない」


「いや、そうゆう意味じゃなくてな。なんつうか以外でな。もっと別のを想像してから」


「別のって?SFでも見ると思ったの?」


「え!いや……」


「とにかくあたしはこれが見たいの。参考にしたいしね」


「参考って。なんの?」


「秘密」


「……まあ、いいや。お前が見たいならそれでいいよ。時間は4時15分からか」


 時計を取り出し時間を確認する。現時刻は4時調度だ。


「ナイスタイミングでもうすぐやるな」


「随分センスのいい物持ち歩いてるのね。それ、懐中時計だっけ?」


 オレがポケットに戻そうとした物を朝倉が興味深げに見つめる。


「ああ、オレ携帯電話持ってないし。これをいつも持ち歩いてるんだ。どうだ、いい物だろう?」


「うん、そうね」


「だろう!これはな、1年ぐらい前に露店で見つけたんだ。形が最高にオレの理想でな。多少値がはったんだけどそのばで即買いしたんだよ。

けどなぁ、これ手巻きタイプじゃなくて、電池で動くほうなんだ。電地だとな、ゼンマイと違ってカチカチとあのいい音がしないんだ。

残念だよな、この形で手巻きなら、生涯の相棒になったのに。同じタイプの手巻きがないか探してるんだけど、なかなか見つからないん……だ……」


と、そこまでいってオレは我にかえった。……なにをいきなり力説してるんだオレは。


「ん?どうかしたの?」


 急に黙りこみ、俯いたオレを朝倉が不思議そうに覗きこむ。


「あ、いや悪い。突然、懐中時計の話しされても困るよな」


 そんなオレの言葉を聞いた朝倉はクスッと小さく笑った後に、まんべんの笑みを浮かべた。


「懐中時計好きなのね」


「あ、あぁ、まあな。数少ない趣味の一つだ」


「理想の懐中時計が見つかったらあたしにも見せてね。あなたの理想がどんなものか見てみたいから」


「え、あぁ……わ、わかった」


 予想外の朝倉の反応に戸惑いながらも、オレは頷いた。


「約束ね」


 朝倉は小指を少し上げるポーズをしたあと、チケット売り場に歩きだした。


 チケットを買ったオレ達は、薄暗い劇場に入り、階段状になってる座席の中央に腰を下ろした。

 こんなベストポジションに座れたのは、客がオレ達以外に数人しかいないおかげだろう。平日だしな。


「あたし、こんなに空いてる映画館は初めてだわ。休みの日とかに友達ときたら人の数が凄いもの、ゆっくりと観れそう」


 薄暗い中でも解るほど朝倉は瞳を見事に輝かせていた。本気でワクワクしてるような表情だ。


「オレは逆に混んでる映画館に来た覚えは殆どないな。空いてそうな日にちと時間を狙うからだけど」


「一人でだっけ?」


「まあな」


「一人で映画って寂しくないの?。あたしだったら嫌だな。観る前に友達とどんな内容なのか期待しながら話をしたり、終わったらお互いの感想を言い合ったり。そういうのも映画の楽しみじゃない」


「そういう楽しみ方もあるだろうな。けど一人で映画だけに集中するのもいいだろう。せっかく金払ってまで観るんだ。余計なものを楽しみにプラスしなくても充分だ楽しめる………とか言いたいところだが、単に一緒に映画を観るような仲の人間がいないだけだな」


「いないの?中学の同級生とか?」


「ああ、いないな。中学に入学したときぐらいから極端に、他人に興味を持たなくなったからな」


「ふーん。こんなに普通に話せるのに。不思議ね」


 上映のブザーが鳴ったので、オレ達は会話やめた。

 あまり話したくない内容だったので助かった。

 真っ白で巨大なスクリーンに、上映中の注意、映画の予告に続き、本編が流れ始める。


 男女が恋に落ち結ばれる。しかし、男は重い病にかかり死んでしまう。

 よくある悲劇的な恋愛模様を題材にした物語だ。

 しかし、この映画が他と違うのは男が中盤辺りで息を引き取ってしまうところにある。男の死による女の心の葛藤が、話しのメインのようだ。


 映画が終わり、エンディングのスタッフロールが流れる。

 予想外に楽しめたな。

 隣にいる朝倉を見ると、ラストの展開の影響か目を潤ませていた。その表情はとても女の子らしい顔だった。


「楽しめたわね」


 スクリーンの幕が下り、すっかりと明るくなった場内で朝倉が微笑む。


「そうだな。思ったよりかなりよかったのは認める」


 オレは鞄を手に取り席を立ち上がった。


「さあ、出ようぜ。いつまでも場内にいたら、清掃員に睨まれる」


 客席と客席の間を歩きながら、朝倉を振り返る。

 朝倉はまだ座ったままだ。

 そして先程とまったく同じ表情で微笑んだまま、こう言った。


「そうね。そろそろ本題を始めましょうか」


 ゾクリとまた背筋に寒気が襲う。

 いままでとは比べものにならない嫌な予感とともに。


「な!?」


 途端に場内が暗くなり始めた。天井からの照明が光りを失い続ける。

 上映が終わったばかりの今、館内の照明が消えるなんてあるわけない。

 いや、照明の故障に誤作動、理由なんていくらでもある。

 けど多分違う。これは自分でもよくわからない感のようなものだ。


「朝倉っ!」


 視界の全てが少しずつ、そして確実に闇に近づく中、オレはすぐ目の前にいる朝倉に手を延ばした。


「じゃあね」


 しかし延ばした手のすぐ先にいた朝倉は館内の景色と共に真っ暗闇に消えていった。

 笑顔のまま。


「………なんなんだ」


 暗闇。

 目を開けているはずなのにオレの視覚が光をまったく捕らえない。

 手をいくら目に近づけようと輪郭すらつかめない。そして気付けば音すら聞こえていなかった。

 完璧な無音だ。


「オレは今、どうなってる?」


 地に足がついているのだから立っているはずだが、なにも見えないとそれすらも怪しく思えてくる。

 残りの感覚を頼りに一歩、足を前にだす。

 靴の裏が床を擦る音さえも聞こえない。オレ以外の時間がと止まっているかのようだ。

 何歩か進み、周りの客席がなくなっていることにも気付いた。手で周囲を探ってもなにも触れるものはない。

 オレの中のなにかが警笛を鳴らす。ここはやばい。これ以上ここにいたらいけない。この空間から抜け出さないと。


「……向こうか?」


 空間を抜け出す、という意識をしだすと不思議な事に足がある方向をむいた。

 一歩、一歩ゆっくりと進む。

 目と耳はなにも捉えないのだが、別の感覚が光と音がこっちにあると言っている。

 立ち止まり、両手を前にだす。なにも触れはしないのだが。


「ここだ、ここから外に出れる」


 なにもない空間に手をかける。そして押す。

 扉を開いたかのように、光と音が漏れだした。


 雑踏と天井の電灯、気付けばそこは通路だった。

 オレはまるで劇場の扉を開け、通路に出たかのような状況なのだ。

 後ろを振り返る。なんの変哲のない劇場が、力無く閉まっていく扉の隙間から見えた。


「遅かったのね」


「!」


 再び正面をむくと、ある人物が目に飛び込んできた。


「なにしてたの?あなたが早く出たほうがいいって言ったんじゃない」


「……朝倉」


 壁に寄り掛かりながら朝倉涼子はオレを見つめ、僅かに頬を膨らませる。


「女の子を待たせるのはよくないと思うな」


「え、あ、」


 思考が状況に追い付かない為、オレはうまく返答ができない。そんなオレに朝倉は首を傾げる。


「大丈夫?寝ぼけてるの?」


「いや、寝ぼけては……ない……大丈夫だ」


「そう?ならいいけど。さ、行きましょう。清掃員さんに睨まれないうちに、ね」


 朝倉は笑顔で歩きだした。


「ほら、いきましょ」


「……あ、あぁ」


 オレはゆっくりと足を動かし、朝倉の後を追った。


 外に出ると辺りはすっかりと暗くなっていた。

 夜道を朝倉と今観たばかりの映画の話をして歩く。人と話しをしながら外を歩くなんて思えば随分と久しぶりだった

 再び西口駅前まで来た俺と朝倉は、近くの喫茶店に入った。

 朝倉がもう少し話しをしたいと言ったからだ。


「そういえば、隆弘が死んだ後の晴美は凄かったわね。半狂乱っていうかしら?ああいうの」


 運ばれてきたばかりのアップルティーをストローですすりながら朝倉はオレに尋ねてきた。


「あれか……」


 朝倉が言っているのは、映画の主人公が恋人を失った直後の描写のことだ。


「あれじゃ半狂乱というより完全にイカレてただろう。いくら、恋人と死別したからってあれの演出はやり過ぎだ」


「そう?あたしはよく出来た心理描写だと思ったわ。人間なんて、本当に拒絶したい事が起きれば、あんなふうに感情を爆発させてしまうんじゃないの?」


「そうなのか?そんな状況になった事がないからわからないな」


「ふーん。そっか……わからないのね」


 ストローでグルグルとアップルティーを掻き交ぜる朝倉は、何か考え事をしているようだ。

 そんな朝倉を見ながらオレは、さっきの事を思い出していた。


 あの暗闇は何だったのか。正直、朝倉と会話している最中もこの事はずっと頭から離れてはくれなかった。

 不可思議な体験過ぎて夢でも見ていたのかとも思うが。そんな事では片付けられないほどの現実感があれにはあった。


「なあ、朝倉。ちょっと聞きたいんだけど」


「ん、なに?」


 朝倉が手を止め、オレを見る。


「さっき、映画が終わった後、朝倉はオレより先に劇場をでたよな。なんでだっけ?」


「なんでって……なんのこと?」


 朝倉の不思議そうな表情に戸惑いながらも、オレは言葉を続ける。


「映画が終わって、オレ達ちょろっと会話した後、オレのほうが先に席立っただろ?なのに朝倉が先に外出てたのはなんでだったんだっけ」


 端から聞けば意味がわからない質問なのは自分でもわかる。

 しかしオレが聞きたいは間違いなくこのことだ。ごまかしてもしかたがない。


「……」


 オレがなにかジョーダンを言っている訳ではないと気付いた朝倉は怪訝な顔で黙りこんでしまった。

 ストレートすぎたか。


「あぁ、なるほど。そういう事ね」


なにを納得したのか、朝倉はオレに鋭い目付きを向けてきた。


「あなた……寝てたんでしょ」


「は?」


 朝倉は呆れたようにため息をつきながら、


「劇場から出て来た時、なにか変だと思ったのよ。映画見ないで寝てたんでしょ?それで寝ぼけてたんだ」


「い、いや……そんなことは」


「もう。女の子を誘っといて居眠りはないんじゃないの?それともやっぱり、あたしとじゃつまらなかった?」


「そ、そんな事はない。出来ればまた来たいぐらいだ!……って」


 オレはどさくさに紛れてなにを言ってんだ。


「その言葉を聞いてちょっと安心したかな」


「え」


 いつのまにか朝倉は先程までの拗ねた表情から、いつもの笑顔に戻っていた。


「あなた、映画終わってから上の空だったから。あたしとじゃつまらなかったのかなって、ちょっと本気で考えちゃってたのよ」


「上の空だったか?」


「うん。まあ、けど確かに学校終わってすぐ映画って疲れるわね。あたしも結構くたくた。次は休日にしましょう。人がいっぱいいてもいいから」


ね?と笑いかけてくる朝倉。オレは自然に、


「あぁ」


 と笑顔で返事をしていた。


 こうやって他人に笑った顔を見せるのも随分と久しぶりだった。

 そこからまた少し映画の話しやら世間話しをしてから、オレと朝倉は喫茶店を出た。


「家はどの辺なんだ?」


「送ってくれるの?けど大丈夫よ。それほど遠くないし」


「そうか、ならここで。明日学校でな」


「えぇ。また明日」


 小さく手を振った後、朝倉は遠のいていく。


「……」


 オレはその小さくなっていく、背中を見つめた。


「朝倉!!」


 そして見つめていた背中が完全に遠のいてしまう前に、オレは朝倉を叫び止めた。

 振り返った朝倉は驚いた表情をしていた。


「さっきの話しの続きなんだが!」


 オレは躊躇わず叫ぶ。


「あのまま、ごまかされようとも思ったが、やっぱ駄目だ!気になるもんは気になる!」


「……」


 オレの言葉を朝倉は黙って聞いている。



「朝倉お前、何者だ!普通の人間じゃないだろ!」



 言ってしまった。イカレタ事を言っているのはわかっているが……朝倉、間違ってはいないんだろう?


「……」


 朝倉とオレの間にしばらく沈黙が続いた。

 そしてその静寂を崩したのはオレではなかった。


「次の土曜日、午前10時に光陽園駅前公園で待ってるわ」


 それだけ言うと、朝倉はきびすを返し、駅入口の人込みに姿を消した。

 朝倉のその言葉は、どこか淡泊でいつもの朝倉とはやはり雰囲気が違っているように思えた。

 もしかしたら、オレ以外ではわからない変化なのか。

 そうだ。

 あの笑顔の裏に何があるのか。オレはすでに知っているのかもしれない。

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