第3話 目覚める異端者

長い夢を見ていた気がする。

見知らぬ女性と他愛ない話をして、一緒に食事を取る―――ただ、俺の心はそれだけで満たされていた。

大切な人と共に食事を取り、他愛ない話で盛り上がる。 たったそれだけの事なのかもしれない。

だけど、俺にとってはとても大切な一時だ。


何よりも憧れ、俺が一番望んでいたもの―――――”家族”―――――


夢なら冷めないでくれ。

そう思った矢先の事―――それは起こった。






―――――――――――――――――――




「ふむ。 そろそろスレイの本体が目覚めてもいい頃合いだと思うんだが…おかしいな。 私の考えすぎか? いやしかし、そんな筈はない。 この異様な成長速度がそれを証明している筈なのだが…う~~む」


おかしい。

さっきまで夢見心地な状況から一変、急に現実へと引き戻された気分の俺は状況に混乱していた。

なんせ先程まで夢だと思っていた光景が綺麗に全て、俺の脳内へと焼き付いてる。


「お? 目覚めたかスレイ! スレイ~目覚めているんだろう? スレ~イ?」


この現実は夢に違いない。

そう思い込むことにした俺は、狸寝入りを決め込む事にした。

が――――全てを見抜いていたアルメイアは俺を抱えて一言。


「では、ゾンビウルフの肉を食べるとしよう」


え? ゾンビウルフの肉!?!?

ワードを聞いただけでも背筋が凍る気分だ。

あ、あんな腐った肉…二度と食べたくない!!


「そ、それは止めてくれぇぇぇ!! アルメイア!!!」


「ふ。 スレイ…お前が寝たふりなどするからだ。 ようやくお目覚めだな、スレイ―――いいや、異世界人よ」


「!?!?」


耳元で聞こえる声は何時もとは違い、真剣そのもの――――なのだが一つ問題がある。

普通、こういった類の話は面と向かってするものじゃないんだろうか? しかし、何故俺は抱きしめられた状況で言われるんだ? 


「いや、アルメイア―――行動と言動がおかしい」


「おはようの抱擁に決まっているだろう。 スレイ…いいや、異世界人よ」


「このやり取り何時まで続く?」


「もう少し」


「りょ、了解―――」






――――――――――――――――――――――――俺は身体年齢5歳にして、全ての記憶と今のこの世界の記憶を手にする事が出来た。

地球で育った事―――デスゲームを攻略した事―――そして、大切な人に出会った事を。

普通であれば向こう側アルメイアが驚く出来事なんだろう。

ただ、彼女は特殊というか―――人生経験豊富な人物な訳で…俺の正体には初めから気付いていたらしい。


「つまり、目覚めるのを待ってた?」


「うむ」


腕を組んだ状態で、首を縦に振ったアルメイア。


「だから対応もいままで通りと?」


「あぁ。 お前はもう他人ではない。 私の大切な存在だ…一年。 まだそれ程時間は経っていないかもしれない、しかし―――お前を育て、共に交わした言葉は嘘偽りない」


「何も聞かないのか? 俺が何をしてたとか…そういうのを…」


「ふん、スレイ…私を甘く見て貰っては困るな? お前が話してくれるのを絶賛心待ちにしている状況だ!」


豊満な胸を張って、これでもかと言わんばかりの表情を俺へ向けるアルメイア。

その姿を見て、自然に笑みが零れてしまう。


「ははっ。 な~んだそれ? アルメイアらしいと言うか。 なんというか…なぁ~よし!」


結果。 

敵わないと思った俺は意を決して全てを彼女に話す事にした。

家族や友人―――恋人を失い別の世界でただひたすら、人を殺す毎日を送っていた事を。

それまでの経験や戦い―――全てを。

たった一年、されど一年…この一年、彼女と共に居て分かった事がある。

それは―――もうすでにアルメイアは俺の大切な存在(家族)になっていた事だ。



――――――――――――


「そうか。 全てを失っても尚、お前は戦う選択をしたのだな。 やはりお前は、私の見込み通り、出来る奴だ! よーしよしよし!」


何故か話を終えた後。 俺はアルメイアに頭を撫でられていた。

が、嫌な気はしないな。

寧ろ心地よい。


「よし。 そうと決まれば、これからはもっと楽しい事をしようではないか。 魔法の勉強にこの世界の常識から、全てに至るまで。 スレイ、お前に叩き込んでやろう! なぁ~にお前の成長は早いんだ。 一気に叩き込んでも問題あるまい? うふふふ…うははははは!!」


あ、でたよ。 この悪魔みたいな笑い方。

こうなるとアルメイアはもう止まらない―――何を言っても無駄なんだろう。

仕方ない。 付き合う事にしよう。

ってか俺――まだ5才児なんですが!?



――――――――――――それから2年の月日が流れ。

ちょくちょくアルメイアは家を空けるようになり、俺は1人の時間が長くなった気がする。

まぁ、仕方ない事だろう。

なんせアルメイアは”勇者PT”の一員でもあり、唯一”上級魔法”が扱える存在なのだから。


勇者PT―――その名の通り。 打倒魔王を掲げた8人組の集団。

アルメイア曰く、その内の半分は”異世界人”だとか。

この世界”アースフィア”では異世界人の存在はそこまで希少でもない様だ。

彼女から飛び出した言葉も、俺のよく知る単語ばかりで思わず目を見開いたっけな。


何はともあれ今はそんな事どうでもいい。

この退屈な時間をどう潰すか。 それが今の俺が成すべき事である。


「ん~だけどなぁ。 外には出るなと言われてるし。 家にいるしかないんだけども」



この”黒き森”には、魔物がわんさか生息しているらしく。

家を出れば最後―――命を失うリスクが極めて高い、よくもまぁアルメイアもこんなヤバい森に住んでるもんだ。


とはいえ、戦う術を全て失った俺は何も出来ない役立たずなんですけどね。

アルメイア曰く、もうすぐすれば”異端の加護”を受けられるらしいが、そんな気が全くしないのは俺だけなんだろうか。


”異端の加護”と言うのは。

異世界人にだけ付与される能力で。 召喚された異世界人にはもれなく、力が与えられるらしい。

彼女が言うには、目の前に女神が現れて―――加護を付与してくれるのだとか。

しかし、これには1つ…重要な問題点がある。

それは―――異世界人のほとんどが”召喚される前に女神に会って、説明を受けた”と発言した事である。


問題はそれだけじゃない。 召喚された異世界人は赤子であっても”異端の加護”を授かっている事である。

それらを踏まえた上で俺はある結論に至った。


これ、もしかしたら俺―――このまま何もないんじゃね!? と。

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