どうする?旅行時の預け先

前回の「水道管から水吹きだしてさあ大変」からなんと1年以上たってしまった。


12話目の最後は「あれから2週間、今も壁の穴は開いている」


そして、あれから1年「やっぱり壁の穴は開いている」なのだった。


アメリカの工事業者はこういうことが多いのでもう気にしない。

小さいことを気にしていたら生きていけない国なのだ。(かなり本当)


良い意味ではおおらか、悪い意味ではテキトーな人が多い。


大事な猫たちを預ける場合(てきとー)な人が働くところは絶対に避けたい。


旅行に行くときに悩みに悩むのが「猫たちをどうするか?」なのである。


優しいお隣さんは毎日来てくれると言ってくださる。しかーし大雪が降ったりすると隣ですら歩くのが困難になる。謝礼も受け取ってくれない。ちと、頼みにくい。


いつもお世話になっている獣医さん。ここに最近働き始めたアシスタントの女性が「ペットシッターするわよ!」と言ってくださった。


腕に猫のタトゥーが大きく彫ってある。


……猫好きなのはわかった。


「おうちに毎日泊っても良いわよ!!」う、うん。慣れたら猫たちには嬉しいだろうなと思う。でも全く知らない女性なので2週間(旅行は2週間だった)ずっと我が家にいると思うと、ちと腰が引ける。


一度家に来てもらって猫たちと(私たちとも)お見合いをしてからが良いかなと思い、今回は見送ることにした。


そしていつも預ける元ペットショップ今はペット用品ショップのペットスマートのホテルに預けることにした。


6年ほど前、初めてここに連れて行ったときに受付にブロンドの美しい女性がいた。

「あのグレーのほうはおとなしいんですけどオレンジのほうはなんていうか、野生というか乱暴なところがありまして……」とどこに行ってもする同じ説明をしていた。


その直後に美人ブロンドはキャリーをさっと開けて狂暴大猫チャチャをひょいっと抱き上げた。


「ひいいいいいいいと」夫と私はのけぞった。


その美しい女性は「あら~全然いい子ですよ~♡」と抱っこしたまま笑った。


そしておとなしく抱かれたままのチャチャはうっとりしていた。


こんな女性は世界に一人だけだ。ずっとここに預けると決めた瞬間だった。


そんなわけで、今回もこのペットホテルに預けようと決めたのだ。


フライトの前日 感の良いチャチャに悟られないように息子にだっこしてもらった。私の抱っこの仕方が悪いのか何かを感じ取るようで「やべえ!これキャリーに入れられる!」といつもバレて大変なことになるからだ。


今回はうまく行った。車の中では大鳴きだったが。


ペットホテルに着き手続きをする。同じ女性ではなかったけれど、この人も優しそうだ。ワクチン注射の証明書。ご飯の種類や回数など書きこむ。


ここはホテルという名前はついているけど、ただのケージだ。ただし大きなケージが4つくっついているタイプで2匹は一緒にいることができる。


2匹で一晩40ドル それを15日間 600ドル チーン。


かなりの出費だけど、ここを信用していたから預けたのだ。今回は大失敗だった。


いつも預ける時は胸が痛む。お店を出る時は泣いている。今回一度お店を出てどうしてももう一度顔が見たくて頼んでみた。「本当は禁止だけど数分ならいいわ」とケージが並ぶ(ホテル)の裏のドアを開けてもらった。


日本には毎年行きたいくらいだけど、猫たちがいるのでいつも悩む。


経済的な理由もあるけれど、3年おきくらいになってしまうのは、家族だと思っている猫たちを置いていくことがつらくて仕方がないからだ。


それでもここは本当に信用していたけれど、今回は最悪だった。


あのおねえさんはどうやらもう辞めてしまったらしい。そして新しいスタッフは動物に慣れていない人が多かった。


わかったのは迎えに行った2週間後だった。受付をしていたのは入ったばかりだという初老の女性だった。ここでアメリカの雇用事情を説明すると日本のように(男性のみ40歳まで)(女性 30代まで)というように性別や年齢で雇用することは禁止されている。なので「100歳新人でーす」と言うこともありうる。


受付の女性は100歳にはまだ時間がありそうだったが、レジにあれこれ打ち込むのに「あれ?あら?〇さん、これどうするの?」と30分は待った。


早く猫たちに会いたい!私たちはいらいらしてきた。


やっと終わって「さあ、迎えに行こうかしらね~あら~子猫ちゃん2匹ね~」という言葉を聞き、ものすごく不安になった。今まで世話をしてたら子猫ちゃんkittensなーんて言葉は間違っても出てこないはずだ。


ケージはいわゆるお店の裏側で私たちは入れないことになっている。従業員がキャリーをもって猫を入れて出てこなければならない。待てど暮らせど出てこない。


しびれを切らして他の店員さんに


「ねこたち出てこないんです。たぶん彼女、動物の扱い慣れていないと思うんです。サポートお願いします」と言うと


「私、猫アレルギーなのよ」はい?


Youはなぜこの店で働こうと思った??

そしてアレルギーさんは


「じゃあ、どうぞ入って」はい? 禁止じゃなかったの?


入ってよいと言われドアを開けた瞬間、顔面蒼白なあの女性が固まっている。


チャチャだ。


ケージに近づくと耳をぺったり倒して鼻にしわを寄せて牙をむき出している猛獣が目に入った。猛獣は地の底から響くような低く大きな唸り声をあげている。


昔見た近所のボス猫同士の本気の喧嘩。ううん、野生の王国とかで見た威嚇するピューマ。怒っているイリオモテヤマネコにも似てる。ヤマピカリャーだ。


ヤマピカリャーは黒目ばかりの真ん丸になった目をさらにらんらんと光らせて唸り続けている。


私でさえ怖いと思った。こんな顔見たことない。おとうさんに「しゃー」してたのはお遊びだと思った。本気の猛獣の恐ろしさを見た。


それと同時に「虐待されてたんじゃないか??」とも思った。


ケージから異臭がした。体も痩せている。毛並みもぼさぼさだった。


後から聞いたら「毎日一度は外に出して遊ばせます」とうたっているホテルだけど誰も外に出せなかったようだ。なのでもちろんブラッシングもできなかっただろう。


私たちを見ても同じ態度でパニックのままだった。ここは犬だったらもしかしたら「あ!帰ってきてくれた!」と飛びつくシーンだと思うが猫には猫の意地があるのか、本当に忘れていたのか威嚇しっぱなし。


ケージの高さは180センチ以上あり、私では手が届かないので夫がまず手の匂いをかがせた。


「シャ~~~!!」


「しゃあ~じゃな~いよ~!おッとうさんでっしょ!」


あ、変な日本語、本物のおとうさんだ。と気がついたかわからないが、抱っこしてキャリーへ無事に入れることができた。


コタローは隅っこのほうで同じく、やまぴかりゃーになっている。コタローが大好きなはずのおとうさんなのに、こちらの方がてこずった。


さっと抱えることはできたけどケージに張り付いて離れない。そしてめっちゃ蹴られて流血騒ぎに。


大変な思いで車に入れても鳴きっぱなしで、ずっと「ごめんね、さみしかったね」と話しかけ続けて少しづつ落ち着いた。


家に帰ってから、今度はずっと後を追い続けた。泣きながら追いかけてくる。息子が赤ちゃんの頃に後追いという行為があったけれど、あんな感じだ。高い声だったのに特にチャチャはどれだけ唸ったのかガラガラ声になっている。


んぎゃあ~むぎゃあ~と枯れた声でどこまでも追ってくる。


何回も何回も抱っこしてごめんねと言い続けた。もう2度とあんなケージにはいれないよ。猫にとって不安で長い2週間だったろうと思う。大事な家族だから預ける場合はもっとよく考えなければいけないと思った。


人間の都合で留守にして人間の都合でペットシッターをやめたけれど、次に家を空ける時は猫にとって一番良い環境にしようと心に誓ったのだった。


それから数日。大暴れしたヤマピカリャーたちは同じ生物と思えないほどにくつろいでベッドで大股を開いて安心して寝ている。おうちがいいよね。








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