工事で事故!逃げ惑う猫たち


 我が家の猫たち、特にチャチャは人見知りが激しい。誰かが来ると絶対に出てこない。


コタローも最初は逃げるけれどドアの隙間から覗く。そしてそっと出てきて「お!カトーかわいいな」と言われたりする。(第11話参照)


チャチャは玄関のピンポンが鳴る前、車が止まっただけでうなり始める。


ヴォゥゥゥ…ガッガ…グウゥゥ。


犬が鼻にしわを寄せて歯をむき出す時に発するあの威嚇音。


車から誰か降りてきて歩道を歩き始めると今度は


カハ!カハ!!シャア~!


ピンポーンの音がするとシャーシャー言いながら走って逃げていく。


結局逃げるのなら威嚇しないで体力温存すればいいのにといつも思う。要領の良いコタローさんはさっさと先に2階へ逃げていきドアの隙間から見張っている。


そんな「人が家に来るのいや!いやにゃの~」な猫たち。ある日猫たちにとって、いや人間にとっても危機的状況に陥った。


家の水漏れ。


2週間ほど前に、天井にシミを発見した。夫が確認すると湿っている。これは上の水道管からの水漏れで以前にも経験があった。


これを放っておくと黒カビになり、健康にも悪く修理にも莫大なお金がかかるのだ。


いつも来てもらっている修理屋さんに電話すると、その日は仕事入っているけど夜来てくれるという。我が家のウッドデッキを直してくれた人だ。


もちろん猫たちはピンポーンとなる前から唸り、逃げた。


その日はアシスタント2人を引き連れてきてくれた。真夏に炎天下で何時間も仕事をした後なので汗びっしょりなでっかい男3人。体中ドロドロだ。


まあチェックしてもらうだけだし短時間だしと、上がってもらうことにした。


アメリカは靴を履いたまま生活する人が多いけれど、我が家は日本式に靴を脱いでいる。なので申し訳ないけど、泥だらけの靴を脱いでもらった。


腰をかがめて靴を脱ぐ。頭から汗がボトボト落ちる。忘れずに拭かなければ猫がきっと匂いを嗅いで砂をかくような動作をするに違いない。

靴下もかなりアレではあったけど、来てくれただけありがたいと思うことにした。


1階リビングのシミを見て2階のマスターベッドルームへ。3人の男たちがドスドスと歩き回ると、そのたびに猫たちは遠くへ遠くへ逃げていく。


そして2階のお風呂場をチェックすることになった。どうもこの裏のパイプらしい。


「すぐに直るからやっちゃうよ」

「短時間?だったらお願い」

「ただ、この裏の壁壊すけど」

「ええ……」


お風呂場の裏は私の部屋になっていて壁のある所はウォーキングクローゼットだった。


私のサンクチュアリー!パーティー用のドレスとかネックレスとかしまってあるところ!そこにでかい男3人がぎゅうぎゅうに入ってゴリゴリとすごい音で壁を四角く切っていく。


ギュイーン(4隅に穴を開ける音)ゴリゴリ!ゴリゴリ!!(小さいのこぎりで穴から穴に向かって切っている音)隣のベッドルームのベッドに寝転がり音を聞いていた。


ゴリゴリ!ゴリ…ゴ…プッシュ―!うわああ!ドスドスと言う音に変わった。


アシスタントの一人がノックもせずにベッドルームに飛び込んできた。


ショーツのまま太もももあらわにベッドに寝ころんでいた私を見て「ヒ!!」と悲鳴を上げた。


「ヒ!!」と言いたいのは私のほうだ。失礼な。


「なにごとです?」

「パイプの水!水の元栓!ある?あの水!水!」とウオーターウオーターと大騒ぎだ。


クローゼットを見に行くと修理屋さんが赤い顔で水道管を握りしめ指の間からブシューブシューと水が噴き出している。


__壁を切ったら水道管も切っちゃったよ事件__


アメリカの(全部ではないけれど)パイプは金属ではなくてプラスチックで、それをズバッと切ってしまった。そして水道の元栓を2人が走り回って探していたのだ。


上だ!いや下だ!と家じゅうに響く大声と走る音と噴き出す水。パニックで逃げ惑う猫たち。これ見たことある。ドリフのコントのオチのとこだと思い、一人で笑ってしまった。


そして頭に鳴り響く音楽と共に目に入ったのは部屋にいたアシスタントのふくらはぎの大きな漢字。


美の下の大が離れている。しかも、はらうところが反対。子供が間違えて書いたみたいだ。その下には国と言う字に見える漢字。でもがたがたで、中の玉も点の部分がなくて王に。


♪ちゃんちゃら~♪ちゃんちゃらちゃんちゃ~♪に合わせて走る変な漢字。


こんなん笑うしかない。


猫たちはあまりの恐怖にベッドの下で2匹で固まっていた。



数分後ようやく地下室にあった水道の元栓をしめることができた。


しかし水道が止まり、やりかけの洗濯機も止まり、夕食も作れず、なによりトイレにも行けない。


水が出ないことがこんなにも不便だと思ってもいなかった。


ここからが長く結局終わったのは真夜中になってしまった。しかも途中で帰ろうとしていた。自分が開けた穴なのに?せめて水道つかえるようにして帰って?


とっても無責任なこの修理屋さん。なんと本職は神父さん。だから水が噴き出してもオーマイガ!Oh my Godと言わない。神の名を口にしてはいけないからだ。


びっくりした夫は言っちゃったけどね。


真夜中すぎてやっと出てきた猫たちはあちこち匂いを嗅ぎ壁の穴を見ていた。


あれから2週間。今も壁の穴は開いている。











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